予選経過と大遅刻のホワイトデー 中編
斎藤さんに通話で事情を説明すると……。
なぜだか最初にがっかりした反応をされたが、その後は熱心に話を聞いてくれた。
「うん、うん……え!?」
しかし、段々と話の流れがおかしな方向に。
熱心というか、もはや前のめりというか。
佐藤さんの好みを色々と教えてくれつつも、最後には――
「……どしたの?」
「斎藤さん、今から来るって」
「え!?」
――こちらに合流するという話になっていた。
電話を切り、しばし呆然とする。
非常にありがたいのだが、なんというか……。
「いかん。変に緊張してきた」
「あー。休日に会うことってないもんね……」
美女は見慣れているが、斎藤さんと俺の距離感は微妙だ。
完全に気安い仲というわけでもなく、かといって遠いというほどでもない。
「同じクラスの友だち」であるとは胸を張って言えるのだが。
「というか、すまん秀平。お前の了承を得る間もなく、そういう流れになっちまって」
「いやいや、むしろありがたいって。直接助言してくれるんでしょ? いいじゃん!」
「そうか? ……しかしお前、斎藤さん相手は含むところがないのな」
同年代の異性には大体態度がおかしい秀平なのに、斎藤さん相手は自然体な気がする。
会った当初はもちろん挙動不審だったはずだが、いつごろからこうなんだっけな……?
「まあ、斎藤さんだと俺には高嶺の花すぎってのがひとつ。でもって、彼女の矢印の向きもなんとなくわかっているわけで……ね? わっち」
「いやらしい笑みを向けてくるな」
折しも、俺は斎藤さんからバレンタインチョコを受け取っている。
ホワイトデーに返事をしようかとも思ったが、好意を伝えられただけで告白されたわけではない。
先走って大火傷はごめんである。
だから普通に、感謝の気持ちと共にホワイトデーのプレゼントを渡すに留めたわけだが……それがまた、微妙な距離感に拍車をかけている。
「斎藤さんの表情を見た感じ、あの対応で間違っていなかったと思うんだが……」
「へ? なんの話?」
「なんでもねえ」
まさか未祐や理世、和紗さん相手のような長い長い保留期間を設けるわけにもいくまい。
あの三人との関係が極めて特殊な状態にあるということくらいは、俺にだってわかる。
斎藤さんに関しては、いつまでも今のままというのは無理な話だろう。
「で、待ち合わせ場所が“喫茶ひなた”と」
マスターと麻里子さんに軽く挨拶し、すっかり席に着いてからつぶやく秀平。
こうして俺が客として店に来るのは、すごく久しぶりだ。
テーブル席が空いていたので、そこに二人で座っている。
「斎藤さんがここを指定したからな。秀平、昼は食べてきたんだよな? 注文はコーヒーだけでいいか?」
「……いいんだけど。それよりも、わっち」
「なんだ?」
「貧乏ゆすり止めてくれる?」
秀平に指摘されるまで、足を小刻みに揺すっていたことに気がつかなかった。
うぅむ、これはよくない。
動きを止めて、呼吸を深くした。
そんな様子を見かねてか、秀平が心配そうな目を向けてくる。
「なんかごめん。俺が一緒に買い物に行くのをお願いしなかったら、こうならなかったのに」
「お? 珍しく殊勝だな。いつものお前なら、この状況を面白がっていると思うんだが」
俺の言葉に秀平は居住まいを正す。
それからテーブルに両肘をついて、顔の前で手を組み真面目な表情を作り……。
「正直めっちゃおもろい」
「クソ野郎」
ゲスな発言を繰り出してきた。
お前、絶対笑っている口元を隠すためにそのポーズを取っただろ。
「どの道、新学期になったら顔を合わせるんだしな。それが前倒しされているだけといえば、それだけか」
「そうだよ!」
「……」
「ぶふぇ!?」
あっけらかんとした表情で同意する秀平に腹が立ったので、片手で頬を両側から押し潰して写真を撮ってやった。
後でこの変顔、佐藤さんにでも送っておこう。
「ま、まあまあ。落ち着かないなら、さっきわっちが部屋でやっていた作業の続き! あれして待っていようぜ!」
「作業? 続き?」
あ、それから津金家の姉たちにも送っておこう。
俺からのささやかな意趣返しである。
家に帰ったら存分に弄られるといい。
「TBのイベント分析だよ。掲示板見たり、リプレイ見たり」
「ああ……」
そういえば、そんなこともしていたな。
目の前にいるこの男に邪魔をされた気がするんだが。
「……そうするか。少しは気が紛れるかもしれないし」
「よし来た! わっちは掲示板見てよ。俺のスマホで、いい感じの試合のリプレイ流すから」
「了解」
それなら、さっき見ていた雑談板よりも専門的なスレを覗いてみよう。
職業スレ……で、いいか。
他の神官たちがどういう動きをしているのか、また、自分の認識にズレがないかが気になる。
7:名無しの神官 ID:jiFJRsC
ふははは
前衛4、そして後衛に自分
今日も姫プが捗るぜ
8:名無しの神官 ID:AQimPcE
姫プ言うな
9:名無しの神官 ID:85DHaQz
姫プ(おっさん)
10:名無しの神官 ID:jiFJRsC
なめるな
前衛も男ばっかやぞ!
11:名無しの神官 ID:ftKVR7e
おええええ
12:名無しの神官 ID:eZzmu8r
守ってもらわなきゃいけないのは
支援型神官の日常ですんで……
13:名無しの神官 ID:WamsyVc
何度目だよ、この手のやり取り
神官スレ名物なの? いらないよ?
14:名無しの神官 ID:zSgZKKx
だから前衛型か均等型にしておけとあれほど
15:名無しの神官 ID:YRhy2Gc
うっせえ中途半端なんじゃお前ら
攻撃魔法だの盾だの
肝心の回復力が足らなきゃ意味ねえよ
16:名無しの神官 ID:HZVeM65
なんだと自衛力皆無の支援型が
17:名無しの神官 ID:e9QxUC6
やめい!
同職内で型差別をするんじゃない!
18:名無しの神官 ID:SjEUxDt
サツバツ!
19:名無しの神官 ID:6YLJrYy
本当
神職にあるまじき殺伐具合
20:名無しの神官 ID:9H8bnYf
自衛力っても、
今は継承スキルで色々できるじゃん
支援型でもどうにかなるでしょ?
21:名無しの神官 ID:22X5YAZ
でも、みんなスキルを隠す傾向だから
「これがいい」「あれが強い」とか
あんまり語り合えないのよな
特に今は対人戦の決闘イベント中だから余計に
22:名無しの神官 ID:um2MbNH
今回のイベントが終わったら活発化するんじゃないか?
継承スキル議論
23:名無しの神官 ID:Yhyazhd
決闘イベント中だから、
今すぐ知りたい情報なんですけどね!
24:名無しの神官 ID:FFcPJDy
それはみんなそうだよ
25:名無しの神官 ID:yVLURGp
既出のコモンスキルに関しては、
もう議論しつくした感あるしなぁ
結論が『戦神』入れとけになっちゃうのも一緒
26:名無しの神官 ID:e9QxUC6
次スレからテンプレに入れといてもいいかもね
初心者っぽい人の質問も多いし
27:名無しの神官 ID:i8D6L5S
どの道レアスキルの入手は期間数量限定なんで、
議論の意味があるのかも疑問
28:名無しの神官 ID:xtdpDZZ
話のタネとしてはいいんじゃない?
あれが強かったとか、これが面白かったとか
29:名無しの神官 ID:73HBXDg
話変わるけど、
神官のみんなはどのカテゴリに出場してんの?
30:名無しの神官 ID:SjEUxDt
5vs5
31:名無しの神官 ID:XUVW6CM
五対五
32:名無しの神官 ID:3pPEf4g
四人のやつ
33:名無しの神官 ID:jghanYm
5-5
固定じゃなくて野良パだけど
34:名無しの神官 ID:CzjdsLy
あー、やっぱそうなるよね……
35:名無しの神官 ID:VEjBcDc
2-2とかは押し込まれて苦しいだけ
36:名無しの神官 ID:e9QxUC6
前衛型なら少数戦でもまあまあだけど、まあまあ止まり
回復込みで粘るなら武闘家気功型のほうが上なんで
37:名無しの神官 ID:Yg2wkPG
短いとはいえ回復に詠唱いるから、
高ランク帯だとちょっと厳しいね
38:名無しの神官 ID:e7HaEdt
3-3……いや、2-2で誰か
神官でトーナメントを上がってきたら無条件で応援するよ
39:名無しの神官 ID:d5JwR8B
応援(全額bet)
40:名無しの神官 ID:U7C2WR5
あ、いや、全額はちょっと……
41:名無しの神官 ID:hCc66hm
じゃあ1-1なら全財産を賭ける?
42:名無しの神官 ID:4aL6GCt
それは無理
そもそも賭けが成立しねえもん
43:名無しの神官 ID:9H8bnYf
誰も上がってこないよ
断言する
44:名無しの神官 ID:CcyyiMA
北の喧嘩師くんでも無理
45:名無しの神官 ID:hCc66hm
そっかー
46:名無しの神官 ID:zeXdm2Z
メイスもどきの金属バット持ってる人だっけ?
47:名無しの神官 ID:Jp9wa9p
そうそう
タイマン上等とか言っていたけど、足りないんスわ
圧倒的にゲーム内性能が
「あ、わっちわっち! わっち! わっちっち! ちぃ! ちゃーい!」
「うるさいよ。なんだ?」
後半原型を留めていないじゃないか、呼び方。
なにをあわてているのか、無駄に声もでかい。
幸い今の時間の店内は話し声も多く、それほど目立つことはなかったが。
「セゲムのリプレイ上がってる! グループ戦の予選!」
「!」
俺は自分のスマホを置くと、急いで秀平のスマホの画面に注目した。