予選経過と大遅刻のホワイトデー 前編
555:名無しの魔導士 ID:xdfnsnn
ここで小技をひとつ
平日昼間に予選をやるとレベルが下がるぞ!
お試しあれ!
556:名無しの騎士 ID:jd3csfb
嘘をつくんじゃない
普通に昼間、ランカーに会ったぞ
557:名無しの武闘家 ID:skyijii
夜勤民、有給民、変則シフト民
そして学生は春休みである
昼も夜も大差ないぞい
558:名無しの軽戦士 ID:d9748jn
ウチのギルメンの大学生どもなんて、
イン率イン時間が爆上がりよぉ
羨ましいねー
559:名無しの重戦士 ID:y42jgjp
いいのかね?
大事な青春をゲームに捧げて
おっさんは心配だよ
560:名無しの重戦士 ID:isefsyd
そういうおっさんも青春をゲームに捧げた口では?
561:名無しの重戦士 ID:y42jgjp
おう
人生もう一回やり直しても同じことする自信あるわ
562:名無しの弓術士 ID:t7bc3y7
同じ穴の狢じゃないか
563:名無しの神官 ID:35ufxhk
心配できるような立場じゃねえ!
564:名無しの神官 ID:szid4zr
それよりも、既に予選突破ラインが
予想より高いんですが……
7勝か? 7勝必要なんか?
565:名無しの軽戦士 ID:jh3f8zx
学生は休みなのもあってか、
いつものイベントより早めに動いているみたいね
累計ポイント報酬があるから、
終盤でも対戦相手に困ることはないだろうけど
567:名無しの魔導士 ID:ht4nxd5
たしかに勢いあるけど、今だけじゃない?
568:名無しの弓術士 ID:g69gxnk
うむ、どっかで突破ラインは停滞すると思う
ただし下がることはないがな!
569:名無しの騎士 ID:pfuu8fn
さすがに6勝で高スコアなら大丈夫っしょ
570:名無しの騎士 ID:gczniyk
5勝だと……さすがに無理か
571:名無しの騎士 ID:hmdf8es
まだ当落ライン上だけど、最終日までには弾かれると思う
572:名無しの魔導士 ID:7dx6mbs
なんにせよ、トーナメントに出たい人は
余裕を持っといた方がよさそうだなぁ
そろそろ予選期間も中盤って感じだし
573:名無しの神官 ID:7ux4bc7
試行回数は時間内なら無限だから、
とにかく何度もアタックするしかないねぇ
574:名無しの武闘家 ID:tk34zks
おう、偶然連勝できるまで粘ったる!
575:名無しの騎士 ID:5f4ffwn
10戦成績で偶然は無理じゃないかなぁ
多少の上振れ下振れはあるだろうけど
576:名無しの武闘家 ID:bip9y8n
その上振れをつかみに行くって話でしょうがよ!
1勝多いか少ないかで結果が変わるんだからさぁ!
577:名無しの騎士 ID:69pwc83
あ、最低限の実力があるのは前提なのね
578:名無しの重戦士 ID:hfyc4wg
それはそう
579:名無しの弓術士 ID:cy5rr7h
当たり前のことを言うな!
闘技場をぶらぶら歩いてから、数日が経過した。
俺はPCで掲示板を見つつ、イベント予選スコアの推移にも目を通す。
……確かに書き込みにあったように、予選突破ボーダーの伸びがよい。
現状だと5戦勝利した上で、スコアが高ければ暫定突破順位になるようだ。
まだ予選期間はあるが、チームメイトの都合もある。
ギリギリまで引っ張らず、早めに安全圏に到達しておくのが吉。
掲示板にもあったこの考えは、俺の見解とも一致して――。
「ふひ」
「……」
間の抜けた呼吸音のようなものが聞こえ、思考が中断させられる。
発生源は背後から。
「あっひゃっひゃっひゃっ! ひーっ!」
「うるせえな!」
変な呼吸音は笑いの予兆だったらしい。
ちょっと古めのサブモニターに、変換コードを噛ませて繋いだレトロなゲーム機。
それをプレイしている秀平が腹を抱えて笑っていた。
「しかもなんでアクションゲームで大笑いしてんだよ!」
「だって見てよ、この空中殺法のポーズ!」
「あ?」
画面を見ると……。
ワイヤーアクションじみた動きで、飛び蹴りのポーズのままポリゴンのキャラが天に浮き上がっているところだった。
助走も予備動作もなく、非常に不自然極まりない動きである。
「ちょあーっ!」
「あぶなっ!?」
椅子から立った勢いのまま、そのポーズと同じ蹴りの体勢で跳びかかる。
身構える秀平の横を通過し、ベッドの上へと安全に着地。
「当たらねえよ! 現実でこんな技!」
「いやいや、わっちの再現度にも問題があるぜ……」
そりゃそうだろう。
あのキャラの動き、現実の人体には無理な角度で足が上がっているし。
2Dキャラなら気にならない嘘のある動きも、3Dになると途端に不自然さが目につく。
今となっては、古いローポリキャラはそこも味であるが。
「で、結局お前、なにしに来たんだよ。わざわざ人の家にレトロゲーしにきたのか?」
「それもある。わっちの物持ちの良さには脱帽するよ。この家のレトロゲームだけで、俺は一日でも一月でも一年でも余裕で過ごせて……じゃなくて」
連絡もなしに、秀平が我が家を訪れたのは数十分前。
狙ったかのように、理世も未祐も不在のタイミングである。
「わっちにご相談があります」
「金なら貸さんぞ」
「いや、違うって! 確かに金欠ではあるけど!」
「どうしてもっていうなら、金利はトイチな」
「だからぁ!」
改まってという態度をされても、こちらの応対は変わらない。
だって秀平だもの。
「……ほら、あれだよ」
「あれ?」
「ほ、ほら! ホワイトデーの――」
「今更か!? 今が何日だと思ってんだよ、お前!!」
ホワイトデーは春休みに入る前、卒業式の少し後に過ぎている。
そういや「相談する」と言っていた割に、なにも言い出さないと思っていたら……。
「お、怒んないでよ! 本当に金欠だったんだよ! いいんちょには待ってもらっていい? って聞いて、許可はもらっているから!」
「はぁー……」
「あ、そうそう。いいんちょにも、そんな感じの溜め息をつかれた」
当たり前だろうが。
ひっぱたかれなかっただけでも、ありがたく思えよ。
諦められているというか、性格をよく把握されているというか。
よく愛想を尽かされないな。
「まあいい。うやむやにしなかっただけでも上出来だ。お前にしちゃな」
「返す言葉もございません……」
「それで、金は確保したんだな? っていうか金欠だったなら、手作りとかでもよかったんじゃ?」
「……」
秀平がふいっと視線を逸らす。
あ、そう言われるのが嫌で、相談する時期をここまでずらしやがったな。
「わっちには、ちょいとショッピングモールに付き合ってほしいのさ。もうホワイトデーのフェアは終わっているだろうけど、お菓子の専門店とか雑貨屋なら問題ないだろうし」
「そうか。手作りは?」
「一人で入るには、勇気が必要なファンシーなお店もあることだしさ」
「手作りは?」
「わっちが一緒に行ってくれると、助かって――」
「手作りは?」
「しつこいな!? 俺にできるわけないでしょ!!」
そんなこんなで、野郎二人で早速外に出たのである。
TBに時間を割きたかったし、今日は家にいたい気分だったのだが……仕方ない。
「菓子の作り方なら、いくらでも教えてやるのに……」
「いやいや。わっちの教え方がよくても、俺の料理スキルじゃ完成度が……女子はそういうところドライだと思うし」
「それはちょっとわかる」
これが男なら単純なので、完成度よりも気持ちが籠もっているかが最優先。
「重い」とか言っちゃうやつは、恵まれすぎているかゲス野郎のどっちかという感じ。
で、勝手ながら女子のほうから受ける印象は……。
「半端な手作りよりは、有名店のブランドお菓子……か?」
「でしょ!? 俺もそんな気がするんだよ!」
「まあ、これも一部女子への偏見かもしれんが」
最終的には、相手が本命やタイプであるならなんでもいいんだろうな。
そこまで行くと男女一緒だろう、さすがに。
あまり考えすぎると思考の沼にハマるので、これ以上はやめておくが。
「そしたら秀平。目当ての店は? どっかあるんだろ?」
「いや、全然?」
「おい」
勢いよく外に連れ出したから、目的地があると思ったらこれだ。
じゃあ今、俺たちはどこに向かっているんだ? もう帰ってもいいか?
「そもそもいいんちょって、なにが好きなの? シュールストレミング?」
「アホか」
一応、店の多い駅前に向かっているのは間違いではないと思う。
ただし佐藤さんにそんな奇特な食の好みはなかったはずだ。
シュールストレミングが売っている店にも心当たりはない。
「あー! なにをあげたら喜ぶのかわかんない! 全然わかんないよ! わっち助けて!」
「俺だってわかんねえよ」
「なんで!?」
「関係性が級友の範囲内だもんよ」
「なんだよ使えねえ! 使えねえなあ、わっちは!」
「ぶん殴るぞ」
普通に甘いものが好きだったはずなので、定番のクッキー・マカロン・チョコあたりでいいような気はするが。
せっかく秀平がその気になっているので、適当に済ませるのは佐藤さんに悪い。
俺もちょっと前に、自転車の件で世話になったばかりだしな。
「仕方ねえな……」
一旦駅前に向かう足を止め、道路の端によってスマホを取り出す。
わからないなら、わかる人に訊けばいいのだ。
「あれ? なに? 電話すんの? 誰に?」
「斎藤さん」
「あ、マジ? リサーチしてくれんの?」
秀平も歩みを止めて真横に立ち、俺のスマホを覗きこんでくる。
最初はメッセージでと思ったが、それだといつ返信をくれるか不明だ。
明日以降になると秀平のやつ、絶対にやる気をなくす。あるいは尻込みする。
……。
もしかしたら迷惑になるかと考えつつも、電話をかけることにする。
タイミングが悪かったらごめん、斎藤さん。でも、できれば出てくれ。
耳にスマホを当て、ワンコール。
ツーコール……が鳴り終わる前に、反応があった。
『は、はいっ!?』
その早さに驚きつつも、声を出すため小さく息を吸いこんだ。
「あ、もしもし斎藤さん? 岸上ですけど」