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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アイテムコンテストとギルドの発展
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ピラミッド探索その3 死線と少女の資質

「――むんっ!」


 アルベルトの剛腕が唸る度に炎の魔人『ナール王の残滓』のHPはごりっと削れていく。

 それを見る限りこのボスも楽勝なのではないかと勘違いしそうになるが、実態は違う。

 このモンスターは常に微弱な回復を行うようで、放っておくとじわじわHPが回復していくのだが……。

 問題はそこではなく、奴の高い攻撃力にある。


「ぐぅっ!」

「!」


 炎の魔人から予備動作なしで熱波が発生し、アルベルトにダメージを与えてくる。

 避けるのが難しくしかも範囲攻撃・魔法属性なので重戦士の前衛二人は一度攻撃を受けるだけで瀕死になる。

 そのせいで俺達は慎重な攻めを強いられている。

 驚くことにフィリアちゃんは獣じみた動きで躱して見せたが。

 更には一定確率で状態異常「やけど」にしてくるおまけ付き。非常に厄介だ。


「リィズ!」

「はいっ!」


 俺が『ヒーリングプラス』を詠唱、それに合わせてリィズが『ダークネスボール』で敵を足止めする。

 遠距離攻撃が来ないことを祈りつつ、俺を庇ってくれるリィズと一緒に距離を取りながら『ヒーリングプラス』をアルベルトへ発動させた。

 そして炎の魔人がこちらを向いた直後、セレーネさんが『ブラストアロー』を放つ。

 炎を吹き散らしながら突風を伴った矢が魔人の胸元を貫通していく。

 表示上HPはしっかり減るのだが、どうにも手応えのない光景である。

 矢を撃ったセレーネさん自身もしっくりこない様子。


「……」


 フィリアちゃんがちらりとこちらに目配せしてから『ヘビースタンス』を発動。

 攻撃・防御が上昇するものの、魔法抵抗は上がらないスキルのはずだ。

 それに、わざわざこちらを見たということは……もしや戦闘不能前提で突っ込んで、ダメージを取りに行く気か?

 ならばまずは『アタックアップ』で支援、大技を放つ体勢の彼女を援護する。

 バフを使ったことで魔人がこちらに炎を飛ばしてくるが、この攻撃だけは読みやすい。

 躱して『リヴァイブ』の詠唱を開始する。


「行けっ、フィリア! お前の力を見せる時だ!」

「うん……!」


 アルベルトに呼応してフィリアちゃんは斧を腰だめに構え、大きく息を吸って体を捻る。

 そのまま突進、そして少女は炎の魔人の目の前で一陣の竜巻と化した。

 『トルネードスウィング』――自分を中心に斧と共に激しく回転して、炎の塊を蹴散らしていく。

 ユーミルのように三半規管の弱いプレイヤーなら一瞬で自分の方が参ってしまう欠陥のある技だが、使いこなせばその威力は抜群。

 重戦士の攻撃力を軽戦士並の速度で次々と叩き込む様は圧巻の一語である。

 最終的に彼女は実に三割近いダメージを『ナール王の残滓』に与えた後、反撃の炎に巻かれて戦闘不能となった。

 この親にしてこの子ありという事実を、まざまざと俺達に見せつけた形である。


「すごい……」

「あれだけ回転して的を外さないのもそうですが、炎に向かって恐れずに向かっていく姿勢が……」


 セレーネさんもリィズからもそんな言葉が漏れる。

 見た目以外は本当に父親似なんだな……寡黙ではあっても、小さな体に溢れんばかりの闘争心が宿っているようだ。


「よし、完成! アルベルトさん!」

「分かっている! 任せろ!」


 フィーネちゃんの戦闘不能から数秒、『リヴァイブ』が発動してフィリアちゃんがフラフラと立ち上がる。

 その間はアルベルトが壁になり、俺達への攻撃を完璧にシャットアウトしている。この安心感。

 敵のHPも残すところ三割、あともう一踏ん張り。

 全員がそう思ったところで、異変それは起きた。


 アルベルトの一撃が炎を斬り裂き、HPが二割を切った瞬間。

 炎の魔人の体が何倍にも膨れ上がり――爆ぜた。


「――!?」

「!!」


 爆風によってPTメンバー全員が声も上げられずに壁に、床に、天井に叩きつけられる。


「――かはっ! はぁ、はぁ……」


 熱で焼け付く喉を抑えながら起き上がった俺の目に映ったものは、倒れ伏して微動だにしない四人の姿だった。




 まずいまずいまずい! 俺がやられたら全滅する!

 今の爆発はどうやらHPが減少をトリガーにして発生する大技だったようだ。

 発狂モードに入って暴れまわる魔人から逃げながら、最初に誰を蘇生させるか必死に思考を巡らせる。

 後衛は駄目だ、どちらも敵を引き付けて逃げ回るだけの運動能力はない!

 となるとアルベルトかフィリアちゃんだが――アルベルトの戦闘スタイルは攻撃は最大の防御と言わんばかりに、圧倒的な膂力りょりょくで相手を抑え込むというものである。

 なので、実体が無く魔法攻撃を主体とする目の前のこいつを相手に時間稼ぎをするには相性が悪い。

 先程見せた少女の反応を思い返し、決断する。


 俺はインベントリから『聖水』を取り出すと、バックステップしながら炎の魔人の隙を窺った。

 チャンスは一度、失敗すればWTが発生して打つ手がなくなる。

 炎の魔人が腕を伸ばして激しく振り回す。

 それを搔い潜って瓶を振りかぶり、投擲!


「当たってくれぇ!」


 魔人の攻撃が激しいせいで投げざるを得なかった瓶は、少女の体にぶつかって割れる。

 青白い光が輝き、中身の液体がフィリアちゃんの体を包む。


「……?」


 何が起きたのか分からない様子で、フィリアちゃんが半身を起こして周囲を見回す。

 仕方ない、死に慣れているユーミルが異常なのだ。

 だが、早くこちらに気付いてくれ、もう……!


「!! ハインド、危ないっ!」


 初めて聞いた彼女の大声。

 それに驚いている余裕は無く、俺は無様に転がって炎から逃れていく。

 慌てて次の攻撃に備えて起き上がると、俺を守るようにして立つ細い背が見え……。


「……ハインド、皆の回復をお願い。私は前衛の役目を果たす」

「――! ああ、頼んだよ!」


 『中級ポーション』を目の前の小さな背中に投げ、HPを回復。

 彼女の生存能力を信じ、WTが開けた『リヴァイブ』の詠唱を開始。

 ターゲットは神官おれの次に魔法耐性の高い魔導士であるリィズだ。


「……っ!」


 フィリアちゃんが跳ね、転がり、駆け、時には屈みこんで四足歩行に近い体勢すら取って魔人に的を絞らせないように動き回る。

 大斧という重量級の武器を持ちながら軽戦士顔負けの回避能力を見せる彼女の姿に、自分の選択が誤りではなかったことを確信した。

 惚れ惚れするような動きだ。

 そして『リヴァイブ』が発動、起き上がったリィズがアルベルトに『聖水』を使用。

 娘の孤軍奮闘に目を見張るアルベルトだったが、平静を取り戻すと彼もセレーネさんに『聖水』を使った。

 これで全員復活、最後に『エリアヒール』を使って一気に戦況を立て直した。

 そこでようやくボロボロになったフィリアちゃんが下がり、アルベルトと壁役をスイッチした。


「よくやった、フィリア。後は父さんに任せろ」

「……うん」


 すれ違う瞬間、アルベルトが大きな手でフィリアちゃんの頭を軽く撫でる。

 ――あ、今フィリアちゃんが微かに笑ったような気が……いや、気のせいか。

 良く見れば普段と同じ無表情だ。


 『ナール王の残滓』のHPは四割にまで回復していたが、娘の活躍を見たアルベルトの背中にはかつてないほどの気合が漲っている。

 既に『バーサーカーエッジ』を発動し、その体は赤黒いオーラに包まれていた。

 俺達渡り鳥の後衛三人組は目配せし合うと、リィズは敵に『ガードダウン』を、俺は『アタックアップ』をアルベルトに使用。

 グレートソードに赤い光が収束し、『ランペイジ』のチャージが開始される。

 バフ・デバフを使用した俺達を無視して、『ナール王の残滓』はそちらに釘付けに。


 アルベルトが攻撃を紙一重で躱しながらそのままチャージを続けていく。

 一際眩い光が弾けてチャージが完了した直後、セレーネさんの『ブラストアロー』が魔人の体を穿つ。

 矢を受けて動きを止めた『ナール王の残滓』の前でアルベルトが跳躍した。

 大上段に構えた大剣、そして気合の乗った雄たけびと共に渾身の一撃を解き放つ!


「おおおおおおおおっ!!」


 轟音。

 四割あった敵のHPバーが盛大に弾け、炎が霧散していく。

 いやはや、レベルが15も上のボスモンスターなんだけどな……あそこから一撃でもっていくのか。


 限界まで重い武器を持ち、防御を捨て、攻撃を躱しながらチャージを最大まで完了。

 攻撃モーションを可能な限り大きく取り、更に弱点である頭部を的確に狙う。

 理論上は重戦士なら誰にでも可能とはいえ、実際にやれるかどうかは別問題だ。

 まさに異次元の強さである。


 戦闘が終わったことを悟ったアルベルトが静かに背中に剣を収める。

 俺達も長い息を吐いて互いに笑みを交わし合った。

 危なかった……勝てて本当に良かった。


 そのままスーッと不自然に室温が下がり、何かが落ちる音に振り返るとそこには宝箱が置かれていた。

 更には予想通りと言うべきか、視界の中にゆっくりと字幕が流れ始める。


『ダンジョン・ナール王のピラミッドにおいて 傭兵アルベルト様・フィリア様・セレーネ様・リィズ様・ハインド様 のパーティが20階を踏破しました。おめでとうございます!』

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― 新着の感想 ―
[気になる点] フィーネちゃんの戦闘不能から数秒 ↑ フィリア の間違いだと思われます。
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