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談話室とチーム決め

「だからぁ、拙者が組むって! こっちだってハインド殿とのコンビで負けっぱなしなんだよ!?」

「お?」


 ヘルシャたちとの打ち合わせをした、その日の夜。

 前回のログアウト地点からギルドホーム内の談話室に向かっていると、言い争うような声が聞こえてきた。

 どうしたのかと疑問に思いつつも、近づいてドアノブに手をかける。


「ダメだ! ここだけは譲れん! あいつの隣は私のものだ!」

「おぉ?」


 開ける直前。

 トビに続いて、今度はユーミルが声を荒げているのがわかった。

 若干(ひる)んだものの、喧嘩というほど強い語気でもない。

 入室すると、席から立ち上がって言い合うトビとユーミルが目に入る。


「……なにがあったの?」


 そして遠巻きにサイネリアちゃんとシエスタちゃんが見守っていたので、そちらに近付いて声をかける。

 言い合う二人は、俺の入室に気づかなかったようだ。


「簡単に言うと、先輩の取り合いですねー」

「俺の?」


 質問に答えてくれたのはシエスタちゃん。

 ――その言葉から察するに、揉めているのはイベント出場のチーム組みに関してか?


「……リコリスちゃんも?」


 よく見ると、ユーミルとトビの間にリコリスちゃんが立っている。

 特別強く言い争いに参加してはいないが、リコリスちゃんなりの精一杯険しい顔で踏ん張っている。

 もちろん迫力は皆無であるが。

 俺の視線を追うようにしつつ、続けて答えてくれたのはサイネリアちゃんだ。


「リコはユーミル先輩と組みたいみたいです」

「だよね」

「でも、ユーミル先輩とハインド先輩の三人でも出たいみたいです」

「ん?」


 予想通りの答えと、予想外の答えが返ってきた。

 俺も含めた三人で?

 いつもヒナ鳥三人、仲良し体制を崩さなかったのに……。

 シエスタちゃんとサイネリアちゃんはそれでいいのかと表情を窺うが――あ、これ妹を見守る姉の顔だ。

 特に三人の仲に影響はなさそう。


「……」

「……」


 と、そこでサイネリアちゃんと目が合う。

 すぐに恥ずかしそうにらされるが、また見てくる。

 ――逸らして、目が合って。

 ――逸らして、また目が合う。


「……え、サイネリアちゃんもなの?」


 さすがになにが言いたいのか理解できた。

 俺と組みたいらしい。


「その、できれば。でも、別のイベントでもよくて……」

「そっかぁ」


 なにがきっかけでここまでしたってくれているのかは、きっと彼女にしかわからない。

 だからというか、ここは真面目に応える場面だろう。


「ありがとう。嬉しいよ」

「うぅ……」


 笑顔を向けると、サイネリアちゃんは顔をうつむかせた。

 茶化してくれるメンバーがいないので、若干むずがゆい空気に。

 シエスタちゃんはニヤニヤしながら放置なのでタチが悪い。

 ええと、なにか言わないとな……。


「今回出ないとすると、また競馬のイベントでもあればいいんだけどね」

「それだと、一緒に出られなくないですか? 二人乗りでもしますー?」


 やっとシエスタちゃんがしゃべった。

 そろそろ助けてくれる気になったらしい。


「確かに。じゃ、射的とか?」

「射的?」

「?」


 二人が揃って首を傾げる。

 サイネリアちゃんが弓術士だから思いついただけだが……。

 矢でも投擲とうてきでも、もちろん魔法でもいい。

 的当てのコンテストなんかがあっても面白いかと思ったのだ。

 それを説明すると、二人の顔に納得の色が浮かぶ。


「シャイニングの遠当とおあてには自信があるぞ」

「その言葉だけ抜き取ると、なんか変な感じしますねー……や、意味はわかるんですけど。先輩、動いている相手の目をピンポイントで狙えますし」

「いいですね。弓道の団体戦みたいな感じですか?」

「そうそう」


 シエスタちゃんは変なところで引っかかっているが、サイネリアちゃんの表情はほぐれた。

 とりあえずこれでいいとして……。

 元の話題、決闘イベントをどうするかだが。

 なんとなく、目立った意思表明をしていないシエスタちゃんを見る。


「あ、ご安心をー。私はグループ戦以外に出る気はないのでー」

「うん。知ってた」

「あれ?」


 完全に予想通りの答えだった。

 そりゃそうか。


「うーん」


 意思表明といえば、俺もしていないんだよな。

 だからあんな言い争いを生んでしまっているので、早く決めなければならない。

 今回は「積極的に参加したい」という意欲そのものはあるのだが……。


「どうしたらいいと思う? サイネリアちゃん」

「私ですか!?」


 問題は誰とどう組むかだ。

 悩んだ時は他人を頼れということで、サイネリアちゃんにいてみる。


「お、いいじゃーん。サイ、考えてあげなよ」

「え、ええー……」


 そこで再度「じゃあ私と……」と言う性格をサイネリアちゃんはしていない。

 戸惑いながらも、至極真面目に考えようとしてくれる。優しいね。


「そ、そうですね。みんなと出られるように、一生懸命調整するか……」

「穏当な手段だねぇ。先輩の自由はないけどー」

「他には?」


 サイネリアちゃんは、まだなにか腹案がありそうな顔をしている。

 ただし「あまり気は進まない」といった様子で続けた。


「……いっそ、今回は一切出ないと宣言するとか」

「あー」

「私と同じかー」


 シエスタちゃんのようにグループ戦だけ出場、それも悪くはない。

 ただ、先程も触れたように個人的には他カテゴリにも出たい。


「なんとか、その二つ以外で角が立たない出場方法はないかな?」

「ユーミル先輩もトビ先輩も、ハインド先輩と2対2に出たいようなので難しいですね……」

「そう考えると、一生懸命調整する案は微妙かもですねぇ。どっちかは2対2じゃない戦いに回ることになりますしー。全放棄のほうがマシ?」


 二人には言わないけれど、今の状況はヘルシャがおちいったものに似ている。言わないが。

「いやー、引っ張りだこでつれえなー! あー、つれえなー!」……みたいな空気が出ちゃうからな。

 ヘルシャと同じだ、なんて言ってしまった日には。嫌だよ、そんな先輩。

 俺の場合はトビが言ったような「過去の負けの清算」が主目的だったり、ユーミルのように「作戦立案を丸投げできるのがいい」って感じで求められていると思う。

 もちろん、単純にただ組みたいという考えも持ってくれているとは思うけれど。


「――あ、そうか」


 ヘルシャが最終的にったのは「外のコミュニティでチームを作る」という方法だ。

 外といっても、全く知らない人と組むのはハードルが高い。

 そうなると……そうだな、やはりフレンドリストの中の誰かにお願いする形になるか。


「先輩。なにか思いつきましたー?」

「そうなんですか?」


 シエスタちゃんが目敏く表情を読み取ってくる。

 サイネリアちゃんは自分が出した意見がどう扱われるのか、ちょっと心配そうだ。

 大丈夫だよ、悪いようにはしないよ。


「うん、ちょっとね。とりあえずあいつら止めようか」




 議論の間に顔を出すと、いたのか!? と驚かれた。

 渦中かちゅうの人物のはずなんだがなぁ……。

 ともかく、こちらの話を聞いてくれる態勢にはなった。


「――今回、俺はグループ戦以外、ギルドメンバーと組みません」

「なんだと!? ふざけているのか!?」


 勿体ぶると怒るユーミルがいるので、単刀直入に。

 まあ、単刀直入に言っても怒られたのだが。

 内容が内容だけに仕方ない。

 なんとか言葉を尽くしてなだめ、落ち着かせる。


「ドリルの真似か……?」

「そういうんじゃない。真似とかじゃないから」


 そして怒りが収まっての第一声がこれである。

 ちょっと当たっているだけに、誤魔化すための言葉が早口になったのはこれまた仕方ない。

 違うから。参考にしただけだから。


「私みたいに、半サボり体制ですか?」

「そこは想像に任せるよ。出ないかもしれないし、誰かギルド外のプレイヤーと出るかもしれない」


 これはシエスタちゃんから出た言葉だ。

 確かに、ギルド内で組まない=出ないとも取れるからな。

 今のところ、誰かにお願いして一緒に出るつもりだけど。


「なんで隠すのでござるか!? 出るのでござるか!? それとも出ないのでござるか!?」


 隠す――というか。

 出られなかったときに格好がつかないから断言しない、というだけの話である。

 出ると宣言しておきながら、もしフレンド全員に断られたら恥ずかしいだろうが!

 ……そう素直に言ってもよかったのだが、トビの顔を見ていたせいか、別の言葉が口を突いて出る。


「ほら、俺が急に敵で現われたりしたら面白いじゃん?」

「面白くない!」

「面白い! はっはっは! それは確かに面白いでござるな!」

「トビ。お前、第一回大会の時にやったよな」


 ユーミルには一喝されたが、トビは同意しつつ笑っている。

 そういやトビが組んでいたミツヨシさん、元気だろうか?

 メールなどでのやり取り自体はあるものの、最後に会ってからは結構な時間が経っている。


「とはいえ、まだ相手なんて見つけちゃいないし、まるっきり未定なんで。出ない可能性もある」

「どっちだ!?」

「まあまあ。逆に、全くの肩透かたすかしでもそれはそれでいいじゃないの」

「いいんですか!?」


 流れで結局、本音のところも語りつつ。

 ……ユーミルの勘がいいので、言ってしまっておいたほうがいいという判断だ。

 含むところは別にないからな。


「第一、最初にユーミルが言ったんじゃないか。今回はグループ戦以外、自由行動だって」

「確かに、言ったな! 私がそう言ったな……うむ……」


 しおしおと反対する体勢を解くユーミル。

 自分の口から出た言葉だけに、強く否定するのも難しくなったようだ。

 ……そんなにしょんぼりせんでも、グループ戦の2対2で組めばいいじゃないか。

 グループ戦はメンバーを組み替えながらの戦いになるだろうから、ユーミルともトビとも組む機会があるはずだ。

 ――と、そろそろめに入るか。


「もちろん、グループ戦に全力なのは変わりないから。みんな頼むな?」


 最後には集結して、総力戦で挑むという姿勢は変わらない。

 それまでの戦いは肩慣らしに使うのも、グループ戦と同じくらい力を入れるもまた自由。

 好きに遊べと言う話だ。ゲームだもの。


「それは当然でござるよ!」

「愚問だな!」

「むしろハインド先輩のほうが心配です!」

「うん、頑張るよ」


 リコリスちゃんも言うようになったな。頼もしい。

 しっかりグループ戦に体力・気力を残すことにしよう。

 そもそも、組んでくれる人がいるのか以下略。


「じゃ、そういうことで。ほら、仕事じゃ仕事。散った散った」


 手振り身振りも使って解散をうながすと、銘々(めいめい)動きだした。

 みんな、まだ日課の生産活動が終わっていない。

 俺も新装備作製のため、すでにセレーネさんがいるであろう鍛冶場に向かわないとならない。

 メンバーを探すにせよ、予選に出るにせよ、まずそれらを済ませてからだ。

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― 新着の感想 ―
おー、まさかハインドがギルド外の娘(断定)と出る展開に!これは面白い!! フィリアちゃんとコンビ組むと予想!といか期待!! …個人的にはリコリスorトビと組むパターンも見たかったけど(汗) >シエ…
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