ピラミッド探索その2 炎の魔人
10階の休憩所を出ると一気に敵の強さが増した。
一戦ごとの時間が徐々に延び、そこからは進む速度も格段に落ちる。
しかし、戦闘を重ねることで徐々に互いの連携も向上。
バフのタイミング、デバフの対象、矢による敵攻撃の遅延、そして前衛二人による圧倒的な殲滅。
落ちる攻略速度とは裏腹に、戦闘における安定感は増していく。
「お前達と一緒なら、どこまでも進めそうな気分になるな」
「快適……」
俄にこちらの三人も忙しくなってきたわけだが、アルベルト親子は俺達の後方支援がお気に召した様子。
現在の階層は20階、道中の敵のレベルはいよいよ50以上にまで到達。
ここまでの成果は等級の低い宝石類に布素材がいくつか、毒状態を防ぐ首飾りに小さな金塊が少々といったところで……。
「ちょっと寂しい成果だな。首飾りはレアっぽいけど」
「これじゃ来た意味があまり……破壊可能オブジェクトが無いか、壁や床のあちこちを探ってはいるんだけど」
「結果ここまで隠し部屋のようなものは無し。どこまで登るか、判断が難しいところですね」
情報不明な場所を探索するという都合上、念のため所持金を預けて全滅対策はしてきた。
だが、出来るなら死に戻るような事態は避けたいところである。
更なる成果を狙いつつも安全に配慮するという、落とし所を探りつつの慎重な進行となる。
そんな俺達の様子を見たアルベルトが、考えるようにしながら口を挟む。
「ふむ……こういったダンジョンは大陸各地に存在してはいるが」
「あ、何かご存じですか? 何でも良いので、少しでも判断材料が欲しいのですけど」
「攻略に意欲的なプレイヤーの中には無論、先んじて入った者も居るそうだ」
アルベルト親子は既に馬を購入し、依頼を受けてはあちこち駆け巡っているそうだ。
その分だけ俺達よりも様々な情報に通じている。
実質的に多方面のプレイヤー達から生の声を聞いて回っているわけだから、物によっては掲示板よりも早く高精度な情報を保有している可能性が高い。
彼が言いたいのは早解き……つまり、誰よりも早く攻略を目指すプレイヤー達の話のようだが。
「そういうプレイヤーからは、共同攻略の依頼とかされないんですか?」
「得てしてそういう連中は、自分達だけの手で攻略をしたがるものだ。何かにつけてトップ攻略を狙っているから、情報も独占を狙って他人に教えたがらない。仮に俺達に依頼しに来るとしたら、最終手段としてだろうな」
「ああ、まあ体面を気にするのであれば格好つかないですよね。傭兵込みで攻略した、なんて」
「だから俺が知っているのは、20階にボスクラスのモンスターが居るということくらいか。これも本人達に直接聞いたわけではなく、又聞きということになるが」
「てことは、この階にボスが……?」
それが中ボスなのかダンジョン全体のボスなのかは不明だそうだが。
しかし早解き組が攻略を完了した際には喧伝したがる者が多いそうなので、恐らくは……。
「まだ誰も20階を攻略していない……ってことだよね? 多分」
セレーネさんも俺と同じ推論を持ったようだった。
詳しい情報が上がっていないということはそういうことになる。
考えられる例外としては……。
「淡々とトップを走る、知られざる強プレイヤーなんてもんが居ない限りはそうでしょうね」
「そもそも攻略者はゲーム側にアナウンスされてしまうのではないでしょうか? 例えばフィールドボスの初討伐者のように」
リィズの言葉を受けて思い出す。
そういえば『ヴェノムスコーピオン』を倒した際には、俺達の名前をアナウンスされたんだっけ……。
フィールドボス・エリアボスなんてものは門番として大陸中のあちこちに居るから、これに関しての一つ一つは大した話題にならないのだけれど。
その中で頻繁に名前を見るプレイヤーというと、闘技大会準決勝で戦ったリヒトパーティくらいのものだ。
「言われてみれば、確かにダンジョン攻略ってアナウンスは一度も見ていない気がするなぁ」
「ずっとログインしているわけじゃないから、見逃している可能性も充分あるけど……」
「ですが掲示板で一切話題に上がらないなら、そういうことで間違いないのでは? 人の少ない日中であっても、誰にも見られないというのは不可能でしょうし」
「……お前達はそういった議論が好きなのか? つい止め所を見失ったぞ」
アルベルトの声に俺達は我に返った。
確かに今話しても、特に意味のある内容ではなかったな……。
「ユーミル、トビが居ない時の後衛三人だとこんな風になることが多いですね。普段なら――」
「ええ。ユーミルさんが、話は分からんが先に進んでも良いか? とか言い出して一人で先に進んでしまうので。ですよね? セッちゃん」
「あ、ああー。確かに言いそうかも、うん。トビ君も似たような感じだし」
「なるほどな」
「でも……バランス、取れてる?」
フィリアちゃんが小首を傾げつつそう呟いた直後のことだった。
不意に通路が途切れ、今度は薄暗い広間のような空間に出る。
そこに入ってまず気が付いたのは、異様なまでに高い室温と息苦しさで……。
「全員止まれ。奥に何かが居る……!」
片手を上げてのアルベルトの制止の声に、俺達はその場で立ち止まる。
闇の中から現れたそいつは、遠く離れた距離でも一目で分かる存在感を放っていた。
何故なら、そいつの体は――
「体が、燃えている……?」
「と言うよりも、炎が人の形を成していると言うべきか。どうやらこいつがここのボスのようだ!」
俺の呟きにアルベルトが答え、大剣を抜いて炎の化身に向けて構える。
それに対してモンスターの炎が激しく燃え盛り、敵意があることを存分に示してくる。
表示されたレベルは55、モンスター名は『ナール王の残滓』……。
遅れて俺達も武器を構え、ボスモンスターに斬りかかるアルベルトの後に続いた。