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騎士コンビの奮闘

「へい、大将! やってるぅ!?」


 ――帰れ。

 そう咄嗟とっさに返しそうになったが、かろうじてこらえる。

 日曜も午後になり、トビが決闘の観戦所にやってきた。


「やってない」

「いやいや! めっちゃやってるでござる! バチバチに戦っているでござろう!」

「うるせえなぁ……」


 戦闘中の騎士コンビを指差しながら、トビがやかましく隣に並ぶ。

 観客は俺たちだけ。

 まだ二人はAランクを脱出できていない。

 今の決闘ステージは城下町。

 俺とトビが以前、メディウスたちに負けたのと同じ場所である。

 銅像の立つ広場を中心に、入り組んだ路地からの奇襲も可能な人気ステージ。


「ノクス、オッス!」


 トビが肩のノクスに挨拶すると、ノクスは片方の翼をバッと広げて応じた。

 賢い賢い。

 昼食を挟んだついでにホームに戻ったので、今回はノクスも観戦に連れてきた。


「どれどれ、ハインド監督の指導が実を結んだか。とくと拝見!」


 トビの視線の先で、激しい剣戟。

 相手も近接職コンビ、重戦士と騎士の男女である。

 リコリスちゃんが前で受け――


「お?」


 ――ユーミルが飛び出し、防御が甘いほうを狙う。

 失敗したら素直に下がって体勢を整え、再び同じ動きを繰り返す。

 ただし、その繰り返しの動きが半端なく速い。

 目まぐるしく前後左右が入れ替わる。


「おお?」


 二人とも運動神経がいい上にスタミナがあるので、単純な反復行動がこの上なく強い。

 動きの単純さ故に隙もミスも少ない。

 それを何度も続けていると、相手側に集中力の低下と疲労の色が見えてくる。

 二人の性格からは考えられないような、手堅い試合運びだ。


「……なんか、それほど派手に変わった感じはしないでござるな? もちろん改善はされているでござるが、基本通りっていうか」


 トビが抱いた感想も、俺と似たり寄ったりのようである。

 回復職がいない戦いなので、まずは防御重視に。

 被ダメージを減らしつつ、少しずつ着実に相手からダメージを奪う。

 どちらかというと、これまで二人が相手側に使われて負けていた戦術だ。


「そりゃあ、基本は大事だからな。どういう状態になるのを想像していたんだ?」


 両チーム互いに鎧を装備した職同士、市街地での戦いは見た目の上では映えている。

 ただ、いかんせん地味な戦いであるというのは否めない。

 なにせ大技がどちらからも飛んでこない。


「あの二人のコンビなら、なんか滅茶苦茶やってくれるかなぁって」

「そういうの、セオリーを押さえたあとでやるもんじゃねえ? 中途半端な技だと、上位ランクに戻ったときに通用しないし」

「格ゲーのガチャプレイみたいな?」

「そうそう」


 上位プレイヤーは、見てから対応という動きを簡単に実行してくる。

 多少、変な動きに面食らったとしても、慣れるのが早い。

 ――と、相手にミスが出た。

 リコリスちゃんのガードで体が泳いだ重戦士を、すかさずユーミルが『ヘビースラッシュ』を叩き伏せる。

 決定打とまではいかないが、大ダメージと呼んでいい削り具合。


「おおー……いい感じでござるな。しかし……」

「面白くないってか?」


 セオリー通りすぎて面白くない、と顔に書いてある。書き殴ってある。

 次いで、いい笑顔での首肯しゅこうが返ってきた。

 今度は「ミスでもいいからなにかやらかせ! せっかく来たんだから!」と読み取れる。


「ミスでもいいからなにかやらかさないでござるかなぁ? せっかく見にきたのでござるから!」

「ぅおい」


 そのまま言葉にするなよ。

 さすがにゲスすぎないか? 二人がSに戻れないと、最悪な雰囲気のままイベントを迎えることになるのだが。

 メンバーの中で一番そういう空気に弱いくせに……。


「勝利に派手さは必要ないと俺は思うけどな。本当に強い人ってあっさり勝たないか?」

「一流はセオリーを押さえた上で、変化球や奥の手を隠し持つものでござろう?」

「……」

「……」


 主張がぶつかり合い、沈黙。

 そのまま言い争いに発展する――かと思いきや。


「いや、両方……?」

「で、ござるな……」


 ふと気づく。

 互いに誰を想像したかは不明だが、最近の俺たちはプロゲーマーの動画をいくつか見ている。

 これもメディウスたちの影響である。

 勝ち方を一種類に絞る必要はない。


「大体、ユーミル殿も……あと、リコリス殿もかな? 絶対に言ったでござろう? 私たちだけの必殺技がほしい! とかなんとかって」

「……言っていたが」


 議論が膠着こうちゃくしたことで、話の切り口を変えてくるトビ。

 ついでに眼前の戦いもやや膠着状態に突入している。


「そしてハインド殿は甘いから、なにか考えてアドバイスをしたと拙者は見た!」

「なんか、そこまで綺麗に読みきられると……なんかな」

「やー、目に浮かぶようでござるな!」


 と、実際に目を閉じて笑みを浮かべるトビ。

 笑みというかにやけ面なので、見ていると非常に腹が立つ。

 相手にしたら負けという思考の下、話を強引に進める。


「……まあ、お前の言う変化球。変わった技があるのかないのか、知りたいならこのまま見ているといい」

「なにかあるのでござるな!? なにかあるのでござるな!?」

「うるさいしつこい」


 それと正面に回り込んでくるんじゃない。

 ユーミルたちの姿が見えなくなるだろうが。

 ――あ、そうそう。


「お前、視界共有で酔わないタイプだったよな?」

「視界共有? ……あー、平気でござるよ? 拙者は昔から3Ⅾゲーム全般、体調不良でも一日中プレイできる男! カメラぐるぐる、どんと来い!」

「体調が悪いときは休め。ゲームするな。……そしたら、敵チームのどっちかと視界共有しておくといい」

「ほうほう!」


 俺の言葉に疑問を挟まず、嬉々として視界共有を開始するトビ。

 面白そうなことに対してはとことん貪欲だ。

 はたして、トビの期待を上回ることができるのか。

 そもそもユーミルとリコリスちゃんは「例の技」を使用することができるのか。

 さあ、注目。


「おっ? 二人が建物の影に入って……」


 トビは動きに積極性がある、重戦士の男性側と視界を共有したようだ。

 俺は多数のカメラを見て状況を把握。

 重戦士がユーミルたちを追い、不意打ちに注意しながら路地に突入したところ……。


「きえぇぇぇいっ!」

「来た来た。ってか、なんでユーミル殿は奇襲で叫んでんだ」


 その場の全員が予想できた通りに、ユーミルが剣を構えて突進。

 トビのつぶやく声にも余裕がある。

 当然、重戦士の男性も攻撃を簡単に回避することに成功した。

 ……ように見えた直後。


「「えっ……!?」」


 重戦士とトビの声が重なる。

 視界共有の上では、今まさにシールドが眼前一杯に広がっていることだろう。

 リコリスちゃんのシールドバッシュをまともに受け、重戦士が大きく転倒。


「……!」


 共有を切り、トビが目を丸くしつつこちらを見る。

 なにが起きたのか説明してくれ、という顔だ。


「あ、これが今のユーミルたちを横から見たカメラな」


 カメラの機能を操作し、十五秒ほど戻してからトビに画面を投げる。

 渡したのは添えた言葉の通り、ユーミルたちを横から捉えた視点のものだ。

 ……映像を確認するトビの口角が、じわじわと上がっていくのが目に入る。


「どうだ? おも――」

「あっはっは! あっはっはっはっは!」

「――……面白かったか?」


 ……タネを明かすと実にシンプル。

 ユーミルの背にべったり張り付くように、低い姿勢でリコリスちゃんが追従して突撃。

 ただそれだけの攻撃である。


「うひひひひ! ひーっ!」

「いや、笑いすぎだろ……」


 それでも、重戦士の目には突然リコリスちゃんが現れたように見えたはずだ。

 もちろん、どれだけリコリスちゃんが小柄でも、ユーミルの後ろに完全に隠れることは不可能。

 いかにユーミルが大きな動きで目を引きつけるか。

 いかにリコリスちゃんが躊躇ちゅうちょせずに飛び出せるか。

 そして遮蔽しゃへいから飛び出すタイミング、遮蔽の大きさと相手が見ている角度の把握も重要となる。


「ぐっ、げほっげほっ! ははは!」


 なによりも、隠れたリコリスちゃんを誤魔化ごまかす勢いが大事だ。

 ある意味、ここはユーミルの得意分野。

 無意味な叫びもこのためのもの、といえば納得できるだろうか?

 ……年頃の女子として、どうかと思う叫びではあったが。


「まだ笑ってんのかよ。もう試合終わったぞ」


 決闘はそのまま、相手の動揺が収まる前に決着。

 トビが来る前に行った試合では、ミスも多かったが……。

 段々と安定感が出てきたように思う。悪くない調子だ。


「だって、面白さの方向性が……くくく。横からの視点だと丸見えだし……!」

「満足したか?」

「満足! いいでござるなぁ、あの攻撃! シンプルなようで、意外とテクニカルなのもいい! いっそ、拙者も含めた三人での縦列攻撃! というのは!?」

「絶対失敗すると思う。やめとけ」


 縦に並んでの連続突撃は、どうやらトビのお気に召した模様。

 ツボに入ったのか、まだ笑いが収まらないようだ。

 ……できれば、このまま勢いに乗ってSランク復帰まで行けるといいのだが。

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― 新着の感想 ―
ジェットストリームアタックは、最初の1回しか通じないジンクスがあるからね……
[良い点] トビ!ユーミル!リコリス!ジェットストリームアタ(ry
[良い点] ユーミルの突撃を隠れ蓑にしてのリコリスを伏兵にしたシールドバッシュ…スゴく良い必殺技 小柄なリコリスちゃんと目立つユーミル、そして二人の思い切りの良さが揃ったからこその必殺技というのが大…
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