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反省・相談・改善タイム

 負けが()んだ時、人はどういう反応を取るか。

 子どもであれば、癇癪かんしゃくを起こして泣きだしたり、怒りだしたりもするだろう。

 大人であっても、感情を抑えきれなければ子どもとそう変わりない。


「ぐっ、ぬっ、ぐぎぎ……」


 そんな中で、最もNGな行動は他人に当たり散らすことだろう。

 他人でなくとも、物に当たるというのも中々に見苦しい。

 理想としては、深呼吸して抑えこめればいいとは思うが……。


「ううー……」


 そうそう上手くいかないのが、現実といったところ。

 ユーミルは険しい顔で歯噛はがみし、リコリスちゃんは悲しそうにうめいている。

 どちらも互いのせいにしない、怒りを誰かにぶつけたりもしていないのは立派だが。

 連敗が続き、かなり精神状態はよろしくない模様。


「……うん、よし。それじゃあ、そろそろ対策・改善会議の時間にしようか」


 ここが限界と見たので、俺は一旦切り上げることを提案する。

 声が届くと、沼地ステージの泥を跳ね飛ばしながら二人が全速力で駆け寄ってくる。

 泥の塊が俺の顔に向けても飛ぶが……戦闘フィールドの透明な壁に、べちゃっと音を立て付着。


「うおおっ!?」


 怖いっての! 

 反射的に身を引いちゃったぞ。

 にぶいから一拍遅れてだが。


「――やっとかっ! やっとかぁ! 地獄のような時間だったぞ!」

「ハインド先輩が救いの神に見えます!」

「それは勘違い」


 人を追い込んでから助けてみせる、なんて詐欺師の行動である。

 悪質なマッチポンプだ。

 リコリスちゃんには、もっと人を疑うことを身に着けてもらったほうがいいだろう。

 ……俺たちは戦闘神の神殿に戻り、休憩スペースに移動しながら話を続けた。


「俺からなにか言う前に、聞いておきたいんだけど。二人はどう思った? どんな精神状態で戦っていた?」

「む、そうだな……」


 まだ追い込む気か!? なんてののしられるかと思ったが、ユーミルは平静な表情で考え込む。

 さすが、切り替えが早い。

 リコリスちゃんは一瞬驚いた顔をしてから、それにならう。


「なんとなく、次も負けるのかなぁ? と思いながらの戦いは……はい、辛かったです……」


 先に発言したのはリコリスちゃん。

 ユーミルより後から考えだした割には早い回答。

 俺が思っているよりも、リコリスちゃんの思考瞬発力は高いのかもしれない。

 ユーミルは腕組みを解いてから、それに続く形で口を開く。


「私は……そうだな。これだけ連敗したなら、確率的に次こそ勝てる! 次は勝てる! もう一戦だけ! あと一戦! これで最後だから! という――」

「ダメなギャンブラーの思考」

「――のは冗談で、気持ちで負けたら終わる! 勝ぁぁぁつ! と己を鼓舞し続けていたぞ!」

「うーん、お前すごいな。勝者のメンタル」

「格好いいです!」

「そうだろう!」


 リコリスちゃんと一緒になってめると、ユーミルがふんぞり返る。

 とても先程まで、連敗して鬼の形相をしていた人間とは思えない。

 リコリスちゃんもいつの間にか、すっかり笑顔だ。

 ……気持ちの切り替えについては二人とも問題なし、と。わかっていたが再確認。


「じゃあ、具体的な戦闘方針に関してだけど――」

「高度な連携!」

「したいです!」

「――うん、それもわかっていたよ……」


 結局のところ、二人が調子を崩した原因はそこにある。

 メディウスたちの戦い方を見たせいだろうか?

 やつらの連携は見事というか、事前に約束事が決まっているような動きだった。

 だったら私たちも! と考えた結果がアレなのだろう。


「せっかくユーミル先輩と組んでいるんですから! 私もせめて、ハインド先輩の半分くらいは格好よくサポートしたいです!」

「うむ! 私とハインドほどは難しいとしてもだ! 絶対にアホ忍者とよりはいい連携ができるはずなのだ! 私がリコリスの伸びた能力を活かす!」


 ……それだけではなさそうか。

 前々から二人で連携力を高めたいという想いは持っていたようだ。

 むしろ、そう何度も名前を出されると、俺のせいという気すらしてくる。


「そういうことなら、なるべく自分たちで色々と考えてほしいな。もちろん助言が必要ならするし、明確におかしいところには口を出すから」


 俺がそう言うと、二人はうんうんとうなりだした。

 横からやかましく口を出したところで、そうそう身につかないものだ。

 自分で出した答えのほうが意識しやすく忘れにくく、修整も利く。


「とにかく、まずは反省点の洗い出し……だな!? リコリス!」

「おーっ! ユーミル先輩、なんだか賢そう!」

「はっはっは! ……実はハインドのやり方を真似しているだけだ」

「そこで隠さず言っちゃうところが素敵です!」


 なんだかなぁ、といったやり取りの後で。

 二人がこちらをチラ見。

 うん、そのまま続けていいと思う。うなずきを返す。

 ユーミルは満足そうにうなずくと、得意気な表情で再度口を開く。


「とりあえず、戦闘中に何度もぶつかったのがよくなかった。高度な連携を目指すには、とにかく練習――」

「イベントまで時間がないのを忘れるな」

「――は無理なので! なにかないか、リコリス!?」

「えっ!?」


 急にユーミルから水を向けられ、困惑しきりなリコリスちゃん。

 それでも一生懸命に考える。考える。


「えーと、えーと……あ!」

「なにかあるのか!?」


 なにか思いついたようだ。

 顔を上げて、ぱっと表情を明るくするのでわかりやすい。


「えっと、バド部のお友達から聞いた話なんですけど」

「バドミントン部!」

顧問こもんの先生があんまり詳しくなくて。後輩ちゃんのダブルスについて、色々調べたって言っていて――」


 スポーツの連携は万事に通じる……かもしれない。

 そんなわけで、リコリスちゃんのお友だちの話を参考にしつつ。

 簡単な約束事、それから互いの位置取りなんかについて話しあっていく二人。

 うんうん、いい感じじゃないか。

 途中、一言二言ほど俺から助言はしたが、おおむね二人の力で改善案が練られていく。


「連携については、こんな感じで行ってみるか! 次の戦いが楽しみになってきたぞ!」

「ですね!」

「うむ! では、次は連携ミス以外! 他の敗因がなんだったかを探るぞ!」

「そうしましょう!」


 連携については一度切り上げ、またうんうんと唸りだす二人。

 もう俺が口を出さなくても大丈夫か?


「……あ! わかった! わかったぞ!」


 そう思っていたところで、ユーミルが人差し指を立てる。

 リコリスちゃんの視線を受けつつ、そのまま――


「ハインド!」

「え? 俺?」


 ――なぜか、こちらを向くユーミル。

 すっかり後方腕組みモードに入っていたので、面食らってしまう。


「謎は全て解けた!」

「……こういう時のお前って、期待を裏切るパターンが多い気がするが。なんだ?」


 全て、とか大きいことを言っているのが不安を増大させてくる。

 変わらずワクワクした表情を向け続けるリコリスちゃん。

 リコリスちゃんの期待を裏切るなよ?


「私たちがまるで勝てなかった原因! それは!」

「それは?」


 気を持たせるように、無駄にでかい動きと一緒にめを作る。

 溜めて、溜めて……って、長いな。早く言え。


「……お腹が空いていたからだ」

「馬鹿野郎」


 押さえると同時、タイミングよく鳴るユーミルの腹の虫。

 性格に反し、可愛らしい「くぅ」という音である。

 食事の話題だから俺のほうを見たのか……。


「どっちだ? 今? ゲームの空腹度? それともリアルのほう?」

「りあるのほう!」

「舌が回りきってねえぞ。そんなに? そんなにか?」


 現実のほうの時間を確認すると、正午が迫ってきていた。

 昼食の下準備は……朝のうちに済ませたんだったな。

 理世の体調も変化がないか気になる。

 俺は休憩所の椅子から立ち上がった。


「これは、一旦解散かな……」

「はい! 食後に続きをやりましょう! ハインド先輩も!」

「え? ……そ、そうだね」


 そのまま離脱もありかと考えていたら、リコリスちゃんに満面の笑みで告げられてしまった。

 なんだろう、もう補助輪を外してもいいかな? と思っていたら……。

 今度は後ろを手で持っていてほしいと、かわいくお願いされた気分。

 とうさん疲れたよ。

 ……ちなみに、二人乗りの自転車はタンデム自転車というらしい。

 上手く使えば、一人乗りを上回る速度で走れるそうだ。上手く使えれば。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハインドパパの苦悩は続く… [気になる点] とするとユーミルは娘の姉の方でリコリスは妹の方か。 [一言] つまりはさす姉妹!似すぎ!
[良い点] ユーミルとリコリスがちゃんと考えれば反省点&改善点を見つけられること [気になる点] 今までスポーツの経験をゲームに活かそうとしなかったこと [一言] >父さん疲れたよ。 ハインド君…そ…
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