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二人の現状

 決闘モードも実装から日が経ち、ゲーム上では何度かアップデートがほどこされている。

 ステージ追加、降参を宣言する機能の追加、過度な挑発行為への罰則追加などなど。

 ちなみにトビは挑発行為で、一度警告を受けたことがある。マナーは大事。

 そして観戦モードにもアップデートはあり、特に決闘者と視界を共有できるモードは迫力満点と評判もいい。人によっては酔うが。

 ただ、俺の場合はそちらの視点は用いず……。


「カメラ3……俯瞰(ふかん)視点をモニターで表示」


 音声入力を行うと、目の前に上空から見た映像が浮かび上がる。

 今は縦横にヒビの入った地面が映されているだけだ。

 ランダム選出されたフィールドは『荒野』で、遮蔽(しゃへい)物が少なく地力が物を言うステージ。

 ……先程も触れたように、視界そのものを移動させることも可能ではある。


「VRらしい機能といえば、そうなんだけど」


 しかし、運動神経が悪いと酔うのは必定。

 共有するのは視界だけで、体の感覚はそのままというのも酔いを加速させる原因だろう。

 あと、普通に高いから怖い。特にこの上空視点は怖い。

 故に複数のモニターを表示しての観戦に努める方針だ。

 臨場感では負けるが、こちらのほうが戦況把握には向いている。


「ノクスはすげえよなぁ……」


 ある意味、この上空視点はノクスの普段の視点といってもいい。

 今日は連れてこなかったが、観戦中はひとりなので連れてくるべきだったと多少後悔。

 定位置の肩が寂しい。

 ……と、もう戦闘が始まるな。

 あとは各チーム後方のカメラを一つずつ表示、他は適宜(てきぎ)追加といった形で――


「ふんがぁ!」


 ――あ、接敵したな。

 それにしてもひどい掛け声だ。

 ユーミルの初撃を避け、距離を取った相手は「あれっ?」という顔をする。

 相手も女性で、大学生くらいに見えるコンビである。


「勇者……ちゃん?」

「と、ヒナ鳥の元気な子? え? でも、これAランク戦……」

「うぉぉぉい! 言っておくが本物だからな! 本物!」

「私も本物ですよ! リコリスです!」


 ユーミルとリコリスちゃんが慣れた様子で言い返す。

 もしかしたら、すでに何度も繰り返されたやり取りなのかもしれない。


「なんでAにいるの……?」


 そして相手方から放たれる、当然の疑問。

 それだけユーミルらには「Sランク常駐」のイメージがついている。

 ユーミルは影のある表情でそれに応えた。


「私たちだって、Aに落ちることくらい……ある……」

「そ、そうなんだ……?」

「そうだ……」


 両チームの動きが止まる。

 場の空気も止まる。

 されど、戦闘時間だけは変わらずカウントされていく。

 このままだとノーゲーム扱いで、どちらもレートポイントが下がってしまう。

 俺は無粋とわかりつつも観戦エリアから声を上げた。


「いや、戦おうよ?」

「「「はっ!?」」」


 観戦者はエリア内に影響を与えることはできないが、声だけは届く。

 戦闘開始位置が、俺が立つ外縁部寄りだったので、あまり声を張らずに済んだ。

 他の観戦者がいたら野次が飛んでいる――かもしれない場面だ。

 とにもかくにも、両者が動きを再開させる。

 俺が声を上げたことで相手コンビがチラチラこちらを気にしているが、それはそれ。


「い、行くぞ? ここから仕切り直しだからな?」

「だ、大丈夫よ! いつでもどうぞ!」

「なんだかなぁ……」


 ぎこちなく、互いを気遣いながら戦闘を再開。

 相手チームの人たち、優しいな……。

 後ろの背の高い茶髪の女性が弓術士。

 先程からユーミルと話している、平均身長で黒髪の女性が軽戦士のようだ。

 前衛後衛のコンビ。

 ――組み合わせの相性でいうと、こちらは一気に接近できれば有利。

 相手は攻撃をいなしつつ、なるべく多くの矢を当てられれば有利といったところ。


「おっ、いい位置取り」


 戦闘が再開されて、三十秒ほど観察していると……。

 相手コンビには、きちんとAランク相応の力があるのがわかった。

 しっかり互いに射線と牽制・防御を考えながら、役割に徹して動いている。

 距離の取り方もいい。

 それでも、普段のユーミル&リコリスのコンビであれば余裕を持って勝てる相手である。

 二人の突破力はゲーム内全体で見てもトップクラスだ。

 しかし……。


「ぐえっ!?」

「あっ!? すみません! すみません!」

「いや、いい! 気にするな、リコリス!」


 我らがチームの先輩後輩コンビは自滅気味だ。

 今も移動方向が被ってぶつかってしまった。

 ……にしても、すげえ重心が安定しているな。リコリスちゃん。

 防御型・攻撃型の装備差もあるとはいえ、高身長のユーミル側が吹っ飛んだぞ。


「うーん……」


 どうもみ合っていないな。

 二人が調子のよかったときって、どういう動きだったかな……?

 確かユーミルがひたすら突っ込んで――


「挟み込むぞ、リコリス!」

「はいっ……!?」

「ぬああっ!?」


 ――ああ、またぶつかった。

 どちらも個人の能力では相手を上回っているのだから、一対一を場に二つ作ればいいだけの話なのだが。

 どういう意識が働いて、こういう動きになってしまっているのだろう?


「うぅーん……」


「お互いタイマンしろ、それが最大の連携だ」と助言するのは簡単だ。

 また、それを素直に実行できればSに戻るのはそう難しい話ではない……のだが。

 どうにも引っかかる。

 リコリスちゃんの考えながら動いているような表情。

 ユーミルらしくないリコリスちゃんを気遣うような動き。

 これは……。


「リコリィス! 下ぁ!」

「はいっ!」


 リコリスちゃんが盾を上方にぶん投げ、ユーミルの股下をスライディングでくぐる。

 その後、転がって盾を見事にキャッチ。

 そのまま後衛の弓術士のところへ向かう。

 軽戦士に対しては、ユーミルが足止めの一閃を放つ。


「おおっ、トリッキー」


 ユーミルの長い足とリコリスちゃんの小柄さが活きた、面白い仕掛け。

 ……だが、その戦闘で光る動きはそれだけだった。

 後衛までの距離が遠かったため、動揺から立ち直った弓術士によりリコリスちゃんは迎撃。

 その間にユーミルも軽戦士を倒しきれず、一時はタイマンの形になったが――。

 そのまま、与えるダメージが足りずに負けてしまった。


「ま、負けた……」

「負けました……」


 タイムアップの音が無情に響く。

 簡単に総評すると、序盤が悪すぎた。

 二人がぶつかったりしている間も矢は飛んできていたし、軽戦士の人もリスクの低い攻撃でコツコツダメージを取っていた。

 互いに戦闘不能にこそならなかったが、時間切れの判定負けである。


「ほ、本当に調子が悪そうだね……?」

「次のイベントまでには復活するよね? 応援しているから、頑張って!」


 はげましの言葉と共に、対戦相手のお姉さん方は去っていった。

 連戦するかどうかを問うシステムウィンドウが開かれたまま、ユーミルとリコリスちゃんはその場で膝をつく。


「敵に同情されたぞ!?」

「いい人たちでした……なんだか、普通に負けるより悲しいです……」

「馬鹿な!? 嫌味よりもダメージが大きい、だと……!?」


 世の中不思議なもので、ストレートにののしられたほうが楽という状況が存在する。

 優しさは時に毒になる。

 今の二人にとっては「弱い」とか「期待外れ」とか言われたほうがマシだったのだろう。


「……」

「……」

「……や、そんな無言で悲しそうな顔をされても」


 無言のままこちらを向き、目で訴えてくる騎士コンビ。

 にしても結局、観客は最後まで俺しかいなかったな……。

 ユーミルは特に人気者なので、Sランク戦でレートマッチに潜っていると、ほぼ必ず観客が何人か寄ってきていたのだが。

 観戦目当てで神殿に来た人も、リストの上にあるSランクの試合からチェックするので――まあ、これも悲しい現実ということになるか。

 Aランクの一覧まで目を通す人はまれということだ。


「これが私たちの現状だ……」

「うぅ。イベントに間に合わなかったら、すみませぇん……」


 バトルフィールド外縁部、俺の近くまで寄ってきて、揃って項垂うなだれる。

 元気印の二人が、すっかり自信を失ってしまっている。

 特に“ユーミルと組んでランクを戻す!”と、息巻いていたリコリスちゃんは意気消沈だ。

 しょんぼりである。

 眉が八の字に垂れ下がっている。


「……うん。ひとまず、もう一戦行こうか?」

「「!?」」


 そう一言だけ告げてから、俺はどう改善を目指すべきか考え込む。

「鬼!」だの「スパルタ!」だの「ドS!」だの、ユーミルの声で聞こえた気がしたが。

 今は気のせいということにしておいてやろう。今は。

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― 新着の感想 ―
余談でもクズを晒す変態忍者は流石。
[良い点] >「……うん。ひとまず、もう一戦行こうか?」 >「「!?」 スパルタ&ドSなハインドにゾクゾクしました…! [気になる点] ハインドの新たな一面にヒロイン達は…? [一言] しょぼーんリ…
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