表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1047/1111

Sランク復帰への道

 普段から決闘をやるメリットとして、決闘ポイントというものがある。

 一般の通貨のようには使えないものの、貯めればレアな装備やアイテムを含む景品と交換が可能だ。


「むむむ……」


 ワープポータルがある大神殿の隣、決闘に使う小さいほうの神殿。

 通称・決闘用神殿、正式名称は『戦闘神の神殿』にある一室。

 受付に女性神官が立つ交換所の前で、俺はうなっていた。


「なにを悩んでいるのだ? ハインド」


 近くで武器の手入れをしていたユーミルが、後ろから声をかけてくる。

 ――リィズがゲームに復帰した翌日。

 俺たちは早速レートを戻すため、待ち合わせの最中となっている。

 予定の時間より早くインできたため、今はリコリスちゃんを待っている。

 決闘ポータル周辺は人が多かったが、ここは今のところ他のプレイヤーの姿はない。


「結構ポイントが貯まったんだけど。使うかどうか迷っている」


 そう返しながら、俺はユーミルに景品一覧表を渡した。

 プレイヤーが使う電子のメニューパネルとは違い、羊皮紙に書かれた趣のある一品だ。


「おっ! どれと交換するのだ? 神官の聖武器、聖杖マーシィロッド……はないか。セッちゃんの杖でいいもんな!」

「まあな。もしセレーネさんと出会っていなかったら、交換も視野に入れていたんだろうけど」


 決闘初期シーズンから交換所に置かれている『聖装備シリーズ』というものがある。

 こいつを目標に決闘に通いつめているプレイヤーは多い。

 見た目よし、耐久性よし、性能よしで、今の目線で見ても一線級なハイレアリティの武器。

 ただ、最近はセレーネさん作の武器・防具がこれらを全ての面で超えつつある。

 ありがたい反面、少々恐ろしくもある。

 特に装備を奪取可能なPK対策に関しては、フィールドに出る度に気を張る日々だ。


「うーむ。ならば、万能素材のユニコーンの角か?」

「ああ。リィズが無限にほしいって言っていたな」


『ユニコーンの角』は薬品調合素材・アクセサリー素材・武器防具素材と、あらゆる場面で使用可能な素材となっている。

 ユーミルが言った通り、その用途と性質は万能の一言。

 粉末にして畑に撒く、馬の餌に混ぜる、などの生産方面にも使えてしまう。

 そのまま敵に突き刺し武器として使う、なんてロックな使い方もあるとかないとか。


「でも、俺はいいかな。ユニコーンの角って、例外的に料理の材料にだけはならないし」

「そう……む? ……そ、そうか。そうだな!」


 馬の餌にはできるが、人間が食べるのには向いていない。

 ちなみに馬の餌に混ぜても、効能は馬が元気になるだけだ。

 霊力を得てユニコーンに変化したり、ペガサスに進化したりはしない。

 ペガサスが欲しい弦月さんの命で、ギルド『アルテミス』が試してみた――という話を風の噂で耳にした。


「――そうか、わかったぞ! この辺の上位攻撃魔法の巻物スクロールだろう!? 使い捨てだが、神官のハインドにとっては貴重な自衛手段に……」

「おー、悪くない悪くない。いい読みだ」

「ふふん!」

「だが残念。正解はこっちの……」


 俺は身を寄せ、ユーミルが持つリストのとある項目を指差す。

 交換ポイントは三万ポイントきっかりで、『聖装備シリーズ』の二万八千よりもポイント消費が多い品だ。


「これ。神様イチオシ☆神界調理器具セットだ!」

「わかるかぁっ!」


 ぺしーんと、手に持っていた景品一覧を叩きつけ――ようとしてから、そっと受付に戻すユーミル。

 そうそう、公共物だから大事にな。

 受け付けの神官さんが一瞬驚いた顔をしたが、丁寧な扱いを見て笑顔に戻る。


「大体なんだ、そのふざけた名前は! 間に入った星マークは!」

「知らん。けどそもそも、未登場の料理神という神様がいるらしくてな?」

「料理神!?」

「決闘の景品に置いてあることからして、多分だけど戦闘神と仲よしなんだろうな」


 腹が減っては戦ができぬともいう言葉もある。

 まあ、神様に食事が必要なのかは定かではないが。

 料理の神様がいるからには、神様だって食事をできる可能性は高い……のかもしれない。


「……今更だが、この世界の神はずいぶんと担当が細かいな? 愛と豊穣の女神は、まあメジャーとしても。他に出たのは――動物神だったか?」

「それだけ神様の数が多いのかもな。日本の神の数よりは絶対少ないだろうけど」

八百万やおよろず!」

「ああ。万物に宿りまくっとるからな、日本の神様」


 受付の神官さんが、俺たちの話を「へー」とか言いながら聞いている。

 ついついユーミルと二人で顔を見てしまうと、柔らかな笑顔が返ってきた。

 愛嬌あいきょうがあって面白いな、この人……。

 今度、時間がある時に見かけたら雑談を持ちかけてみようかな? 今は難しいが。


「あ、すみません。この調理器具セットと交換お願いします」

「はーい。神様イチオシ☆神界調理器具セットですね」

「するのか、交換!?」


 交換決定を告げると自分の体から光が溢れ出て、女性神官が差し出した水晶に光が吸い込まれる。

 ポイントを大量消費したが、「お金ではない」という一点が心理的負担を和らげる。

 あと、単純に好奇心に負けた。

 普通の調理器具とどう違うのか、非常に気になる。気になって仕方がない。


「そ、それはそうと、リコリスはまだか? 私はとっくに、準備完了して――」

「お待たせしましたっ!」


 ほぼ時間通りに、リコリスちゃんが交換所の扉を元気よく開ける。

 俺は鍋、包丁、お玉にフライ返し、ザルなどを受け取ってから振り返った。

 走ってきたリコリスちゃんが待ち構えていたユーミルとハイタッチする。


「よしよし、来たな!」

「うーし。じゃあ、早速行ってみようか。二人でパーティ組んで」

「あれ? このまま行っていいんですか? ハインド先輩。改善案とかって……」


 とりあえず『神様イチオシ☆神界調理器具セット』はインベントリに。

 性能がとても気になるが、今は二人の決闘ランクだ。


「一応、俺もメディウス戦のリプレイは見てきたけどね。でも、あれって二人が調子を崩す前の戦いじゃない?」

「うむ。負けは負けだが、言われてみれば善戦したような気がするな。負けたが」

「すごい悔しそう」

「悔しいです!」


 どんな戦いをしたのか、俺もドキドキしながら頂上戦のリプレイを見たのだが……。

 少なくとも、他人に後ろ指をさされるような内容ではなかった。

 僅差きんさの決着だった。

 最後はルミナス、メディウス両名共に瀕死の状態まで追い込みつつも、競り負ける――という接戦だった模様。

 トビが言うほどボコボコだったわけではない。負けたが。


「でも、その後の連敗中にどんな戦いをしたかは知らない。二人とも、リプレイを残してくれていないから……」

面目めんぼくない」

「すみません……」

「ああ、まあ、気持ちはわかる。わかるからいいよ」


 決闘のリプレイは、勝手に公式にアップされるものとは別に……。

 個人の端末に過去五戦分まで自動で記録される仕組みだ。

 二人は悔しすぎたので、ログアウト前に怒りに任せて消したらしく、記録は綺麗さっぱり残っていない。


「つまり、まずハインドは“今の状態を見せろ”と言っているのだな!」

「そうそう。状態を把握しないことにはなにも言えないからな」


 なんとなく予想はつくが、それをもとに話を進めるのは危険だ。

 言われている側も、決めつけで話をされてはいい気分ではないだろう。


「しかし、連敗から時間がっているのは確かだぞ? あえて悪い状態を見せながら戦う! なんて器用な真似が私たちにできるはずもなし!」

「それは知ってる。だから、今日になってリフレッシュできていたから、すんなり連勝! ってなるなら、それはそれでいいよ。そのままSに帰ってきてくれ」

「ハインド先輩が見守ってくれているから大丈夫! っていう場合もあるかもです!」

「うんうん。とにかく、俺は初戦と――二戦目、もしかしたら三戦目くらいまではなにも言わないから。とりあえずやってみ?」


 なんにしても、とにかく実戦だ。

 交換所を出て決闘待機所に向かいながら、三人でこれからの予定を詰めていく。


「連敗してレートが下がっても――」

「怒らん怒らん。どうせ、っていうとそのランクの人たちに怒られそうだけど。Aランクの半分以下まで落ちたんだし……もう、いくつ負けてもあんまり変わんないよ」


 レート戦で「勝利した際」のポイント変動は、ランクによる変化が小さめなのに対し……。

「敗北した際」のポイント下降はSに近いほど、Sで高い位置にいるほど多くなる。

 現在のユーミルたちの二対二レートポイントは、Aランクの底辺。

 限りなくBランクに近い場所。


「その位置だと敗戦時のレート下降も緩やかだからな。中級者も混ざるようなエリアだし、そうそう無様なことにはならんでしょうよ」

「ふっ。それはどうかな……?」

「俺はともかく、お前は負ける前提で話すなよ……自信満々に自信喪失(そうしつ)したことを語るんじゃあない」

「哲学か!?」

「哲学でもないし、特に矛盾もしていないからな。ほらほら、決闘ポータル前が空いたぞ」


 Aの下位からBの上位は最も人口が多いボリュームゾーンのレート帯であり、勝率五割を少し割る程度でも余裕で維持が可能だ。

 通称『ぬるま湯ゾーン』あるいは『吹き溜まり』と呼ばれる場所に入ってしまっているので、ここから更に連敗を重ねてもあまり影響はない。

 それよりも再び連勝の流れに乗って、Sに近づいた際に、いかに「いい状態」にあるかが大事。


「ってことで、いってらっしゃい。俺は観戦席で二人の戦いを見守っているから」

「うむ! いってくる!」

「いってきます!」


 ユーミルとリコリスちゃんはそれぞれの得物、長剣とサーベルの柄に触れつつ気合を入れる。

 観戦者の自分は、一拍遅れて円盤型のポータルに乗っかることになる。

 設定は済んでいるので、このまま進めばそれで同じ決闘場所に移動するはず。


「……ハインドには、ああ言ったがな。やるからには全て勝つつもりでのぞむ! そうだろう? リコリス!」

「ですね! ハインド先輩に余計なお手間は取らせませんよー!」


 と、大量の旗を立てつつ二人が決闘ポータルに向かう。

 始まる前から、なんだかダメそうな予感が漂っているが……。

 ひとまずは宣言通り、戦いぶりを見守ることとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 大変申し訳ないのだがハインド氏 そこで『今度雑談持ちかけてみよう』とか思ってるの、こっちとしては(まーたNPCたらしこむ気だよこの子…w)なんて方に思考がいくんだがwww 今回は受付さん女性…
[良い点] ハインド、値下げ交渉と料理のことになるとテンションおかしくなるよね…ユーミル側がツッコム側になるとは(笑) だが、そこがいい…! [一言] リコリスちゃん、言動や仕草が一々かわいすぎる/…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ