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やらかしと決闘ランク

「あれは十年前のことだった……」


 腕を組んだユーミルが遠い目をして語りだす。

 多くの面々は「また悪ふざけがはじまった」とあきれ顔だったが。

 純粋な目で首をかしげる者が約一名。


「十年?」

「リコ、触れちゃダメ」

「くっ……!」


 出鼻をくじかれ、言葉に詰まるユーミル。

 そしてそれを見逃す俺たちではなかった。


「七歳の時の出来事でござるかぁ」

「あの人、早生まれなのでまだ十六歳ですよ。3月生まれです」

「そういやそうでござったな」

「しょうもないこと言っていないで、早く本題に入れ」

「むーっ!」


 冗談交じりで煙に巻こうとしたのだろうが、あえなく失敗。

 今度は素直に普段の口調で、ユーミルは己の頭上を指し示した。


「まずはこれを見ろ! 見れば大体わかる!」

「あん? なんでプレイヤーアイコンなんかを指差して……」


 直後、職、レベル、プレイヤーネーム、所属ギルドの下に……。

 非表示設定を切ったのだろう、金属プレートのような四角の枠内にアルファベットが表示される。

 ここに表示されるのが決闘ランクなわけだが――


「あ? いつも通り、Aで……A!?」

「うわぁ……」


 ――ここしばらく、ずっとSランクだった決闘総合レートがランクダウンしていた。

 時間経過による自然減少で、簡単に落ちるような数値ではなかったのはリィズが言った通りだ。

 リィズも下がったランクを見て引いている。

 で、あるならば……答えはひとつ。


「……負けたのか?」

「……」


 さっと顔を背けるユーミル。

 決闘に出た理由は、次イベントの予告があったから。

 その予行演習、練習のつもりで――というのは想像に難くない。


「……どれくらい?」

「憶えていないくらい……」


 憶えていないくらい連敗したのか……。

 しかし、なんだってレートバトルに潜っているのか。

 決闘にはレートポイントの増減がない『フリーバトル』というモードも存在する。

 もちろんプレイヤーの真剣さに差はあるが、練習するならそちらでもよかったはずだ。

 俺は質問を重ねる。


「……ひとりでか?」

「リコリスも巻き込みました……」

「え? リコリスちゃん?」

「――あっ」


 目が合ったリコリスちゃんの頭上に、アルファベットが出現する。

 ユーミルが非表示を切ったから自分も、と思ったのだろう。

 上下にブレているが、ランクは『A』に見える。

 ぴょんぴょん跳ねて必死に手で隠そうとしているが、触れられるものじゃないので丸見えだ。

 連動してランク表示も元気に跳びはねている。


「……」

「あ、あのだな、ハインド?」

「す、すみません。あの、怒らないでくれると嬉しいなって……」


 深呼吸、深呼吸。

 大丈夫だ、俺は怒っていない。

 たった五日でやらかしすぎだろ、とか思ってはいけない。

 クールだ、クールになるんだ。

 いや、むしろフールになりたい。いっそなにも考えたくない。


「……まあ、下がってしまったものは仕方ない。問題はどういう負け方をして下がったかだ」

「あー、それなのでござるが」


 トビが手を上げ、その拍子ひょうしにノクスがこちらに飛んでくる。

 肩の定位置に収まったところで、俺はトビに視線を向け直した。


「どうも、メディウス&ルミちゃんと戦ってボコボコにされたそうでござるよ」

「え? それって偶然か?」

「ランダム決闘で偶然だそうで。公式の“頂上戦”のリプレイでさらされていたんで、拙者その戦いは見たでござるよ」


 しかも全世界の晒し者に……。

 決闘高ランクの戦いは、毎日数戦分のリプレイが自動で上がるシステムなので仕方ないといえば仕方ないが。

 トビが言ったように『頂上戦』という名で、日に三本から五本程度の動画が公式ページにアップされるという仕組みだ。


「で、その後はムキになって連戦。冷静さを欠いて、普段なら勝てる相手にも連敗――という形だそうでござるよ」

「おおぅ……」


 その一戦はともかく、その後は非常によくない経過を辿たどったようだ。

 もうその時間よりも後の掲示板を見るのが怖いぞ、俺。

 どんな言われ方をされているやら。


「気持ちはわからなくもないでござる。拙者も別のゲームで覚えがあるでござるよ。負け分を取り返すまで血眼になって、止まるに止まれなくなるの」

「そうだな! 仕方ないな! わはははははは!」

「ふざけているのですか?」

「……すまん」


 笑うユーミルを突き刺すようににらむリィズ。

 さすがに言い返せる状況でないとわかっているのか、ユーミルが笑いを引っ込める。


「しかし、そんな私でも今回の件で学んだことがあるぞ!」

「……一応、聞いてやるよ。なんだ?」


 ただ、黙る気はないようだ。

 教訓を得たとのたまっているが、ロクでもないことを言う予感しかしない。


「止めてくれるハインドのありがたさ! すぐに立て直してくれるハインドのありがたさ! クールダウンにハインド! ヒートアップにもハインド! これ大事っ!」

「お前には自制心というもんがないのか?」

「ユーミル殿の精神構造に、ハインド殿がデフォで組み込まれているでござるな……」

「ニコイチってやつですー?」

「いえ、単なる欠陥装置でしょう。ハインドさんの操縦がお上手なだけです」


 操縦した記憶はないが、色々と補い合っている自覚はある。

 こちらから提供するのが「慎重さ」や「立ち止まって考えること」だとすると、俺が受け取っているのはユーミルの「前向きさ」だとか「行動力」だとか。

 ユーミルが言葉を続ける。


「あと、嫌味を言いつつもアドバイスしてくれる、ちっこいのも一応必要」

「ついでのように言われても嬉しくありませんが」

「それと、セッちゃんの装備と狙撃と包容力! サイネリアの視野の広さと冷静さ! シエスタの機転とマイペースさ! リコリスの勇気と元気! トビのカサカサムーヴ!」

「待って拙者だけ変じゃね!?」


 仲間たちの長所を挙げていくユーミル。

 話が長いな、そろそろ結論を――と思ったところで人差し指を立てる。


「つまり!」

「つまり?」

「ハインドを筆頭に、仲間抜きの私は――ネトゲプレイヤー的には、雑魚ざこのままだということだぁ!」

「言いきりやがった」

「言いきりましたね……」


 なんと清々(すがすが)しい敗北宣言だろうか。

 トビが「ざーこざーこ」とはやし立てているが、一旦無視の方向で。

 ユーミルも反応を示さず、急に膝をついて下を向く。


「一年近く経っても変わらない! 変わらない……なぜだぁぁぁ! うおぉぉぉん!」

「泣くな」


 未祐が過去にやったゲームでは、まるで成績が振るわなかったと聞いたのはいつだったか。

 TBを始めた頃だっけ?

 ちなみに、仲間というと今回はリコリスちゃんが一緒だったわけだが。


「リコリスちゃんは? 連敗した時、どういう――」

「リコリスは私と同類だからストッパーにならん! イケイケの時はいいが、崩れる時は一緒に崩れる!」

「妙なとこだけ的確な分析」


 そこまで理解できているのに、どうして二人でレートバトルに突撃してしまったのか。

 リコリスちゃんはユーミルに同類と言われ、嬉しそうに笑っていたが……。


「リコはユーミル先輩の太鼓持ちみたいなところあるもんねー……残念」

「一緒になって熱くなっちゃ駄目でしょ」

「ごめんなさい……」


 シエスタちゃんとサイネリアちゃんにきっちりしかられていた。

 一転、しょんぼりとした表情である。

 二人がしっかり言うべきことを言ってくれたので、俺からリコリスちゃんに言うことはない。


「こうなると、一週間でランクを戻さないといけないか。下がったのは……」

「二対二決闘だけだ! さすがに一対一とかはやっていない!」

「そうか……よし」


 ポイントが下がったのは二対二のみ、総合はAで止まっているとなれば話は簡単だ。

 後衛職であれば、特に配点が大きい多数戦――五対五だけをひたすら伸ばすという手もあるのだが。

 騎士の総合ランク配点は、少数戦と多数戦でほとんど同じ。

 下がってへこんでいるところを戻すほうが難易度は低い。


「そしたら各々、誰かしらの後衛と組んで出るようにしよう。意識も変わるし、前にレートを上げた時も、同じ組み合わせを多く使ったしさ」

「むぅ。リコリスと一緒にリベンジしたかったのだが……」

「やめとけよ。時間がない。Sランクトーナメントに出たくないのか?」

「出たい!」

「だろう?」


 二人とも後衛がいたほうが、集中力が増すタイプだ。

 自分が倒れたらまずい、敵を通したらまずいという意識が働くためだろう。

 その点、前衛同士だと役割分担が曖昧あいまいになりやすい。


「リコリスちゃんも、いいかな? 悔しいのはわかるけど」

「……」

「リコリスちゃん?」

「……やです」


 リコリスちゃんにも同意を求めると、まさかの反対を受けた。

 俺は予想外だったため、一瞬固まってしまう。

 サイネリアちゃんも驚いたように、リコリスちゃんの顔を見る。


「リコ?」

「嫌です! ユーミル先輩に、リコリスと組むと負ける――なんてイメージを持たれたままは嫌なんです!」

「リコ……」


 だが、その主張を聞いて俺は納得した。

 そして反省した。

 ユーミルが「そんなこと気にしない」と言うのは分かりきっていたが、リコリスちゃんの気持ちを考えたらどうだ。

 当然、このままでは嫌だと思うだろう。苦しいだろう。


「ハインド先輩、ごめんなさい。でも、私……」

「わかった」

「え?」

「いいよ。ユーミルと組んでの二対二で」


 沈痛な面持ちで話していたリコリスちゃんが、ぱっと顔を上げる。

 俺はなるべく安心させられるよう、笑顔で胸を叩いた。


「その代わり、次の決闘レートマッチには俺もついていく。そんでうっとうしいくらいに口を出す。一戦ごとに反省会をしちゃったりもする。それでもいいかな?」

「ハインド先輩っ!」

「ぐふっ!?」

「ありがとうございます! ありがとうございますっ! 私、頑張ってレートを戻します!」


 リィズが受けたのに近い勢いの抱きつき。

 ただ、こちらは体格差があるので受け止めるのに造作ない――はずだったのだが。

 体格差故に、いい感じに鳩尾みぞおちに頭突きが決まる。

 息ができない。


「そ、そんな感じで……みんなも、イベントまでにレートが下がりすぎない程度なら、決闘の練習はしてもいいと思う……危ない、ときは、フリーバトルも活用して……以上、で……」

「あれ、ハインド先輩!? ハインド先輩! ハインドせんぱぁぁぁい!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] FATALITY...しちゃったかぁ……www
[良い点] お?リコリスとのフラグが遂に立つか…!?(わくわく) [気になる点] ……ユーミルさぁ……(呆) 単体で突撃思考のままだと初期と同様にクソ雑魚なのはビックリだよ……ハインドが偉大すぎる […
[一言] 苦しんでるのは一人じゃない(悪い意味で)
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