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お休みとちょこっと進路のお話

 かかりつけ医の診察を受けたところ、不調の原因は冷えと疲労。

 そのほかの異常はないということで、しばらく安静にしていれば大丈夫とのこと。


「そんな経緯で、理世りせ……リィズは、しばらくお休みです」


 そこまで重い症状ではない。

 しかし大事を取っての休養である。

 ――理世のために消化がいい食事の準備、その後は自宅に荷物を持ってきてくれた健治けんじ秀平しゅうへいに会い、俺と未祐みゆ用に別メニューの夕食を用意。

 理世の身の回りの世話を済ませ、寝かしつけていつもの家事まで終わらせると、すっかり夜になっていた。

 今はゲームにログインし、みんなに事情説明中といった感じだ。


「そんで看病する俺も、ちょいとログイン頻度ひんどが減ります」

「なんだと!?」


 最も身近にいて、最も事情がわかっているはずのユーミルが驚きの声を上げる。

 なんでだよ。


「あ、あー。なんだか私も体が重くなってきたなー! どうしてだろうなー!」


 談話室内を落ち着きなく歩きながら、両手を上げて大袈裟おおげさなげくユーミル。

 うん、どう見ても元気そうだ。


「無理でござるよ、ユーミル殿」


 それを見たトビがやれやれと肩をすくめながら溜め息をく。

 どちらも演技がかっているが、トビは輪をかけて酷い。


「だって、ユーミル殿が風邪ひくわけないじゃん」

「ノクス、氷魔法! やつの背中を狙えっ!」

「ひょっ!? ピンポイントで服の中ぁ!」


 ユーミルが腹を立てるのも納得だった。

 ノクスの世話はユーミルのほうがトビより多くしているため、指示に従い氷をポコポコと精製している。

 ……ここは砂漠なんだし、涼しくてちょうどいいんじゃないか?

 そんな冷めた目で見ていると、シエスタちゃんが俺の服のそでを引いてくる。


「先輩、先輩。今日はもう、妹さんについていてあげなくていいんですか?」

「早めにログアウトはするけど、今のところ眠っているから大丈夫だと思う」


 突然どうこうなる可能性は限りなく低いはず。

 ただまあ、心配なことに変わりはないので、少し話したらログアウトするのは確定だが。


「ほほう。ではでは、ゲーム内では私の看病をしてもらいましょーかねー」

「どういうこと? シエスタちゃんは元気……元気? じゃない」


 元気に疑問符がついたのは、今日も非常に眠そうにしているからだ。

 そんないつも通りなシエスタちゃんに看病とな? どういうこと?


「先輩がお医者さんで、私が患者。つまり――お医者さんごっこですよー」

「なんかいやらしい」

「海外だとやべー意味になるやつでござるな……」


 俺の言葉に続き、氷の山を背負ったトビがおののふるえる。

 単に寒くて震えているだけの可能性もあるが。

 トビを追いかけ回していたユーミルは……あ、いつの間にかリコリスちゃんと一緒にノクス、それとマーネの世話に移行している。

 トビの相手は飽きたらしい。


「ハインド先輩はどちらかというと、看護師さん向きだと思います」

「お?」


 意外なタイミングで言葉をはさんできたのは、サイネリアちゃんである。

 男性看護師は未だ数が多いわけではないが、一般認知度は上がってきている職業だと思う。


「母さんと同じ職業か……」


 確か、母さんの職場にも何人か男性看護師はいたはずだ。

「力仕事や警備の面で助かる」といった話と、「女性看護師のほうがいいと患者に嫌がられることがあって不憫ふびん」といった話。

 いい面と悪い面、両方の話を聞いた記憶がある。

 ……現実的な職業として考えると、かなりハードな選択だ。


「医者よりはまだ向いていると思うけど。大変そうなのを間近で見ているからなぁ」

「どちらも責任が重い仕事ですよね」

「それはどの仕事もそうだけど、医療系は特に強いメンタルが必要だと思うよ。もちろん知識もだけど……」


 体力気力知力、必要なものが多すぎる。

 その上で、相手を見ずにパソコンばかり見て診断する医者は嫌われるとか。

 特に開業医だと致命的なので、コミュニケーション能力まで求められる……とのこと。

 接客スキルのようなものまで必要とは、恐れ入る。

 看護師に到っては言うまでもなく、まず愛想が要る。患者をはげます明るさ強さ共感力が要る。

 ……こう考えると、改めてウチの母さんはすごいと思う。


「あれー。なんか真面目な職業考察になっちゃいましたねー」


 軽い雑談の種を提供したつもりだったシエスタちゃん的には、納得いかない流れだったようだ。

 元の流れに引き戻すべく、この中で一番医者っぽい見た目の人は? と違う視点での話題を提供する。

 話しながら、シエスタちゃんはセレーネさんに視線を向けた。


「言い出しっぺの私が一番似合うと思うのは、やっぱりセッちゃん先輩ですかねー」

「え? リィズちゃんじゃないの?」

「知能レベルはそうですけど、妹さんはほらー……見た目がね?」


 言葉尻こそにごしたが、子どものごっこ遊びのようだと言いたいのは伝わってきた。

 それを言われてしまうと、実際に社会に出た時に苦労しそうだと考えてしまう。

 で、でもきっと、もう少し背だって伸びるはずだし? 今だって、制服さえ着ていれば小・中学生に間違われることはない。

 スーツや制服、白衣など、職業服の力を信じるんだ……!


「そういう意味では、セッちゃん先輩は研究者っぽい格好全般が似合うかなって。眼鏡めがねだし」

「そうでござるな。眼鏡だし」

「あの、そこまで眼鏡が重要なら、別に私じゃなくてもいいんじゃ……?」


 安直なイメージで断定するシエスタちゃんとトビ。

 戸惑うセレーネさん。

 もちろん半ば冗談だとわかっているので、サイネリアちゃんも俺も適当に応じる。


「シー。眼鏡が知的に見えるというのも、今となっては古いイメージな気がするけど?」

「っていうか、要は白衣が似合うかどうかって話になっているよね? 医者だって白衣だから、別に異論はないんだけど」


 探求心の強い性格も相まって、セレーネさんが一番似合うというのは間違いない。

 なお、先程内心で触れたコミュニケーション能力は見ないこととする。

 優しさは足りているんだけどな。

 ……そんな結論が出たところで、難しい顔をしたのはサイネリアちゃんだ。


「でも、実際に医者を目指すとなると――」

「サイはまたぁ。どうして現実的な話にしたがるのさ? んー?」


 やけに職業適性や、現実で目指すにはという話をしたがる。

 俺も気になっていたので、シエスタちゃんの質問は渡りに船だ。


「ごめんなさい。今日、部の先輩と受験に関する話をして。それで、私たちもそろそろ考えないとなって……」

「あー」

「なるほど」


 そういえば、時期的に公立高校の受験はそろそろか。

 俺たちの高校でも、次の土日がそうだったはず。

 私立はもう終わっているんだっけ? 確か。


「おぅ……拙者、しばらく耳をふさいでいてもいい?」

「現実逃避だね、トビ君……気持ちはわかるよ」


 進路と聞いて、トビが表情を消して耳を塞ぐ。

 精神的な圧のほとんどを苦手とするセレーネさんも、耳こそ塞いでいないが似たような心情のようだ。


「なんだなんだ、お前たち。変に神妙な顔をして」

「なんですか?」


 と、そこで二羽の鳥を連れたユーミルとリコリスちゃんが会話に合流。

 場所が離れていたわけではないので、会話の端々(はしばし)は聞こえていたはず。


「いやさ。そろそろ本格的に進路を決める時期が近づいてきているんだなぁって。俺たち、次で三年生なわけだし」


 そんなわけで、つまんで説明した。

 やがて両名に理解の色が浮かぶ。


「それはそうだが、遊ぶときに考えることではないな! 遊ぶときは遊ぶ! そういうのは後!」


 もっと言うと、遊ぶ前に先に片付けておくのがベスト! 秒で! とユーミルが続ける。

 素敵です、ユーミル先輩! とはやし立てるリコリスちゃん。

 ……素敵かどうかは置くとして、いつ聞いても、とても合理的で気持ちのいい考え方だ。

 そうだな、ゲームしながら考えることでもねえや。

 サイネリアちゃんに視線を向けると、笑顔と共にうなずきが返ってくる。

 それを確認してから、俺はユーミルに向き直った。


「……なんだかんだ、お前が一番賢いんじゃないかって思う時があるよ」

「む? そうか? 世の中、悩む必要がないことも多いからな! 直感! 閃き! そして行動!」

「いいですねぇ。世界中がユーミル先輩的な人だらけになったら、その時点で社会が崩壊するとは思いますけど」

「要はバランスが大事ってことだね……」


 シエスタちゃんとセレーネさんがつぶやいたところで、その夜のTBでの活動は一時解散となった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リィズの背丈について内心で精一杯フォローするハインドに笑いました(笑) 流石のハインドでも苦しかったか… [気になる点] おおぅ…進路の話、ログイン頻度の低下、そして章タイトル…もしやガチ…
[良い点] ほんまに終わるんか、これ。終わる雰囲気が……。
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