表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1029/1111

プロゲーマーたちの私生活

 ランキングが上がらない。


「むぅ。2位……」


 正確には、上がったが頭打ちになったというべきか。

 見ているランキングは、もちろん『勇者のオーラ』が景品となっているアタックスコアランキング。

 全体の2位にユーミル。

 それ以下は古参のいつものメンバーが名を連ね、10位にセレーネさんが入っている。

 ここまではいい。


「メディウスめ!」


 ユーミルの上、1位にはメディウスがランクイン。

 ランクインというか、イベント初日から不動の1位である。

 誰も追い越せない。ずっと追いつけない。

 セントラルゲームスの他メンバーも強く、サポート職を除くほぼ全員が30位以内というすきのなさだ。


「ヤツになにか弱点はないのか!?」

「なんでもいいけど、どうしてそんなギリギリの場所で順位を確認してんだ?」

「む?」


 ユーミルががけっぷちから背後――こちらを振り向く。

 俺たちが今いる場所はTB内、サーラ国内『ドロック山』の山頂。

 初めて今回のレイドボス『怪鳥カイム』と戦ったのと同じ場所だ。


「崖上は特撮主人公の立ち位置だからな! 気分がいい!」

「突然崖の上に現れるヒーロー……」


 そして崖下にはピンチの民間人と、それを襲う怪人・怪物と。

 まあ、俺たちの敵は下じゃなくて上から来るんだけどな。

 レイドの連戦待ちでひまとはいえ、もっと他にやることがあると思うが。


「昨今だと、ヒーローはあまり高いところに行かない気がするでござるよ? むしろ崖上は、悪役がイキりムーヴをかます場所では?」

「あー。高いところから見下ろしてなんか言うやーつ、ですねー」


 なんだろう、言われてみれば。

 子どもが真似をして高いところに登ろうとするからだろうか?

 トビとシエスタちゃんが言うように、最近は悪役のほうが率先して高所を取りたがっているような気はする。


「ファンタジー作品なら崖上もですけど、城の屋上とか、塔の上とかが定番ですねー」

「意味深な台詞を言うためだけに高いところに行く悪役たち……でござるな?」

「完全になんとかと煙の理論じゃねえか」

「なるほど。それは後ろから押したくなりますね……押していいですか? 悪人でお馬鹿なユーミルさん」

「いいわけあるか! 誰が悪人だ!」


 お馬鹿のほうは否定しなくていいのか……?

 リィズが本当に押そうとするので、ユーミルは慌てて崖近くから広場に戻ってくる。

 現実は当然として、ゲーム的にも落ちたら助からない高さだ。

 ユーミルが立っていた崖は途中の取っ掛かりも少なく、切り立った絶壁に近い地形である。

 あえて落ちると宝箱が! 貴重な素材が! ……などということもないと断言できる。

 蘇生不可な位置で戦闘不能になるだけだ。


「で、ユーミル殿。先程の話でござるが」

「崖の上に立つのはヒーローか、それともヴィランかという話か?」

「いや、そちらではなく」


 にしてもレイドメンバーの集まり悪いな。

 いつもなら次戦まで一分以内で進めるのだが……。

 それだけみんな回復薬が足りないのだろうか?

 レイドもそろそろ終盤戦に差しかかるところだ。


「メディウスたちの弱点! に関する話でござるよ」

「知っているのか忍者マン!?」

「そのC級ヒーローみたいな呼び方、嫌でござるなぁ……」

「大丈夫だ。お前はE級だ!」

「ひど!?」

「ランクダウンのなにが大丈夫なんだ……?」


 今後、待ち時間がさらに伸びるようなら場所替えを検討するとして。

 二人が話しているランキングのほうも問題だ。

 俺たちはメディウスたちに勝ちたいし、『勇者のオーラ』も逃したくない。

 忍者マンが言うには――。


「はっきり言って、あいつらのプレイヤースキルは拙者たちより上!」

「知っているよ。プレイ歴はこっちが長いんだけどなぁ……」


 今更、再確認するまでもない事項だ。

 ユーミルはなにか反論したそうだったが、弱点について聞き逃すまいと我慢している。

 それだけ勝ちたいのだろう。


「しかぁし! 私生活のレベルは雑魚ざこ!」

「うん? ん?」


 それはゲームになんの関係があるのだろうか。

 忍者マンは話を続ける気のようなので、とりあえず最後まで聞いてみよう。


「まずはこちらの動画をどうぞ! でござる!」


 そう思っていたら、ゲーム内ブラウザに動画を映して引っ張ってきた。

 動画の内容は――あれ?

 動画というか、これは生配信の形式だな。

 広めの部屋で、数人の男女がPCやモニターに向かって作業している映像だ。


「なんだこれは?」


 ユーミルが疑問の声を上げ、忍者マ――もういいか。

 トビがそれに答える。


「これは、セントラルゲームスどもの現在の状況にござる! 拠点に集合中の!」

「現在の? ゲームプレイの生配信ではなく、ゲームをしている人間たちの部屋を生配信――ということですか?」

「ややこしい!」


 リィズが状況の理解に努めるべくくだき、ユーミルが眉間みけんしわを寄せる。

 そうだな、見た感じゲーム画面がおまけで部屋の映像が大きくメインにされているな。

 部屋内の映像が大窓、ゲーム画面が小窓で表示という形式だ。


「これ、どういう層が見ているんだ?」


 俺も配信を見ていて疑問がいたので、トビにいてみる。

 リアルで大会に出るチームだからか、一緒に練習などもするのだろう。

 察するに、ここは仕事場兼・練習場所ってところか。

 今も世界一プレイ人口の多い格闘ゲームの映像が別窓で映されている。

 操作しているのは……あ、この前洞窟で会ったジェイジェイか。

 ちょうど映像が切り替わった。

 自分が配信に映っていることに気がついたのか、ジェイジェイがカメラに向かって手を振る。

 他にキャシー、ルミナスさんはVRゲームをプレイ中。

 他数名の姿が映るも、メディウスの姿はなかった。


「どういう層? うーん、一緒に作業したい人とかでござるかな?」

「あー。漫画家やイラストレーターの人が原稿作業を流したりする、あの感じ?」

「近い近い」

「弁当屋さんの調理風景が淡々と流れるような」

「それそれ!」


 要は、作業用動画とか配信とか言われている「流し見してください」という系統のものか。

 無編集の車載動画とか、き火をながめる動画なんかとジャンルは近いわけだ。

 もちろん、このセントラルゲームスの生配信を見ているのはゲーム……中でも、プロが関わる大会なんかに興味のある層が中心だろう。


「私生活の切り売りもしてんのか。さすがプロだな……そして視聴数……」

「割と多い! こんな配信なのに!」


 編集されたゲームの動画ほど伸びているわけではないが、それでも手のかかっていない垂れ流し配信の割に四桁超えの数字がある。

 ユーミルが驚くのも無理はない。

 これは最低限、生の姿に不快感がないと思われている――どころか、個人にファンがついているレベルではなかろうか?

 ……まあ、そこはいい。

 トビが言いたいのはそこではないだろうから。


「で? このライブ映像からどんな弱点を見出みいだせと?」

「よく見るでござるよ、ハインド殿! 皆の衆!」


 よく見ろと言われてもな。

 相変わらず、映っているのはゲームにいそしむプロゲーマーたちの姿だ。

 ……ちょっと部屋が散らかり気味なのが気になる程度だな。

 足元に電子機器を置かないで欲しい。踏んだらどうするんだ。


「――わかった! はい!」

「はい、ユーミル殿」


 元気に手を挙げ、張り切って答えるユーミル。


「座りっぱなしだから体がなまっている! どうだ!?」

「今の俺らも、現実の体は部屋で寝っぱなしなんだが……」

「それにキャシーさん、起きて筋トレ始めましたよ……?」

「ぬおっ!?」


 面識のあるサイネリアちゃんが、VRギアを外して隣室に移動したキャシーの映像をユーミルに示す。

 薄着になったキャシーの腹筋は六つに割れていた。

 引き締まっているとかそういうレベルを逸脱している。

 そして結構重量のありそうなベンチプレスを軽々と上げ――……面積少なめのトレーニングウェアで動いているせいか、なんだかちょっとセクシーだ。

 それを見たユーミルは舌を巻く。


「あ、アスリート級の肉体美……だと!?」

「トレーニングルームもあんのか。フィジカル面で差は出そうにない……どころか、負けそうじゃないか? ユーミル」

「むぅ……」


 俺たちがTBで上位成績を出してきた要因として、ユーミルとトビがゲーマーにしては動けるという点が大きい。

 ただまぁ、セントラルゲームスは元々格闘ゲームやFPSのプロチームなわけだから、反射神経は重要だ。

 指がよく動くよう、腕周りを鍛えるということもあるのだろう。

 ジェイジェイも高身長でいい体をしていたので、いかにもインドア人間らしい「にぶさ」のようなものは期待しないほうがよさそうだ。

 メディウス、ルミナス両名も動けるタイプのゲーマーだった。

 と、すると……。


「……あー。ジェイジェイが格ゲーの練習をしていたけど。大会が近い、とか? TBに限定すれば、意外と俺たちとプレイ時間は大差ない?」

「ハインド殿、半分正解!」


 半分?

 半分か……他にもなにかあるのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 連中最短ルートで突っ走ってるだろうから 余暇で思わぬ攻略を作り出した上に リアルの陽キャぶりで煽るか 鳥が勝てるのはハインドの存在と使える時間の多さだけだろう
[良い点] 私生活が弱点になるとしたらプロゲーマーとしてゲーム優先しすぎていて命を削っている=常に体調不良気味みたいな感じかな? もしくはゲームでも料理できず、他者から買うのも難しいから料理バフを得…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ