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代替品を探そう

 それから数日、レイド戦の成績が多少は安定してきた。

 理由は継承スキルに設定した遠距離攻撃によるものだ。

 ただし、継承スキルの枠は一つだけである。

 ユーミルは大技を設定できないことに不満がありそうだったが、それよりも喫緊の課題は――


「ポーションがなければチョコを食べればいいじゃない!」


 ――やはり、MPポーションの確保についてだろう。

 予想以上に減りが早い。

 というか、予想以上にカイムが強い。

 どれだけ俺たちが頑張っても、野良の面子めんつが悪いと上の段階まで行けないということが多々発生している。

 そんな中、ギルドホームの談話室で休憩中に、ユーミルの突飛な発言。


「チョコって、バレンタインイベントのか?」

「そうだ!」


 確かにバレンタインイベントのチョコにはMP回復に関係するものもあった。

 しかし某王妃の言ってもいない発言を引用されても、難しいものは難しい。


「使ってもいいけど、数が足りないぞ。一日どころか数戦で足りなくなるだろ」

「違う! 私が言いたいのは……ええと、あれ! あれだ! ティッシュがないときにトイレットペーパーを使うというか、からしがないときにマスタードを使うというか!」

「トイレットペーパーがないときにからし?」

「お尻が!」


 ぶほっ! と、セレーネさんが噴き出している。

 こんなしょうもない下ネタがツボにまったようで、苦しそうに笑いをこらえて顔を真っ赤にしている。珍しい。


「つまりポーションじゃない、代替品を使うのはどうかってことか? 新しくMPポーションの代わりになるものを探せって?」

「そうだ! それそれ!」

「相変わらず先輩の超翻訳(ほんやく)……」

「あれが即わかるのはハインドさんだけです」

「ユーミル語でござるな」


 いや、みんなそう言うが今回のはわかりやすい部類だろう。

 ちゃんと例え話で伝えようとしてくれたのだから。

 ひどいときは前提のない指示語連発で意味不明だぞ?

「あれ」とか「それ」がマシンガンのように発射されるもん。


「でもなぁ。そんなの、みんな考えていると思うんだよ……」


 MPポーションが高いなら、他の手段で。

 まっとうな意見だが、それだけに誰でも思いつく考えではある。

 だがユーミルは諦めない。


「なにかないのか!? 情報死滅系ゲームとか言われているTBなら!」

「え? そんな呼ばれ方されてんの?」


 情報死滅って。

 確かに、ゲーム内で情報屋が成立するような環境ではあるけれど。


「うむ。プレイ人口の割に攻略サイトの情報がスカスカ! とか言われているぞ!」

「特に企業系情報サイトがよわよわザコすけでござるなぁ。よく知らない外の人からは、本当にこのゲームやっている人いる? なんて意見も頻繁ひんぱんに目にするでござる」

「掲示板の盛況せいきょうぶりですとか、実際にゲームの中に入ると一瞬で吹き飛ぶ意見ですけどねー」


 攻略情報の扱いに関しては今まで散々、何度も触れてきたことではあるが。

 ゲームをやっていない人たちから見ると、そんなふうに見えていたというのは初めて知った。


「やっぱり情報公開してドヤる人より、隠して一歩先んじてやろうって人が多いんだな。これって、割とこのゲーム独特の文化な気が……」

しかり。これだけ人口の多いゲームでは珍しいでござるよ。対戦ゲーマー気質が多くて拙者は嬉しい!」


 つまり同じ承認欲求から出る行動でも「こんなの知ってて、みんなに教えてあげる俺スゲー!」よりも「ランキング上位の俺……!」のほうが優先されると。

 いやまあ、俺じゃなくて私とかあたいとかワシとかボクかもしれないけど。

 そこはどれでもいい。


「ま、まぁ、とにかくわかった。そんなTBだから、探し残しや新発見がまだあるかもってことだな?」

「そういうことだ! レイドが駄目になるかどうかなんだ、やってみる価値ありますぜ!」

「うん。唐突に奇跡が起きそうなセリフだけど、成功の保証はまったくないな」


 いつだってノリと勢い任せのユーミルである。

 だが、今回はユーミルが圧倒的に正しいと見た。


「……仮に回復量が初級ポーション並みでも、チョコみたいにカテゴリが別なら併用できるもんな」

「そうですね。メインにはなり得ませんが、補助には使えます」


 リィズも賛成のようだ。

 他のメンバーも……うん。

 連戦によるレイド疲れもあるのだろう、息抜きも兼ねて賛成といった表情だ。

 ポーションの残量を気にしながらの戦いだから、余計に神経がり減っているんだよなぁ。

 いい機会ととらえよう。


「よし、じゃあ次の行動は――ギルマス提案のMP回復薬探しということで。誰か反対の人は?」

「異議なし!」

「でござる」

「なーし」

「はい」


 話している間に冷めたお茶を飲み干し、俺たちは行動を開始した。




 期限は今がイベント中ということもあり、明日一杯程度までに限定した。

 空振りでも気にせず、レイドに戻ろうという話だ。

 主目的がおろそかになっては意味がない。

 ……それから、提出期限が近い学校の宿題・課題が終わっていない組は強制的に帰らせた。


「横暴!」

「うぅ……嫌です! 後で必ずやりますから!」

「サボりたい……」

「殺生でござるよ!」


 などと言っていたが。

 俺たちが学生の身分で長時間のログインを許されているのは、実生活に悪影響を出していないからである。

 メリハリが大事。


「終わったかどうか、後でしっかりチェックするからな」


 三時間後にビデオチャットするむねを通達して、四人は一度解散とした。

 厳しいようだが、先延ばしにしても後が辛いだけだ。

 そんなわけで、この場にいるのは課題消化済みのメンバーである。


「ふう。なんか……一気に静かになったな」

「騒がしいのが全員ログアウトしましたからね」


 俺のつぶやきに対し、リィズが答える。

 残ったのは俺とリィズと――


「ウチの二人がすみません……」

「いやいや、ウチの二人も似たようなものだし……」


 ――サイネリアちゃん。

 それからセレーネさんである。

 騒がしくなりようがないメンバーだな、そういえば。

 四人で王都内・神殿への道を歩きながら、俺はセレーネさんに視線を向ける。


「そういや、セレーネさんは大学の課題……レポートでしたっけ? そういうの、どうなんですか? 宿題なんかと違って、期限が長いものもありますよね?」

「あ、うん。私は前期の内に多く単位を取っているし、平気だよ」

「さすがですね」

「レポート……単位……なんだか、出てくる単語が“大学生”って感じですね」

「あ、あはは。確かに、中学校だと聞かない言葉だよね」


 サイネリアちゃんがセレーネさんにあおぎ見るような視線を向けている。

 中学校は義務教育なので単位は意識しないし、レポートというよりは「宿題のプリント」とかいう呼び方だったな。

「論文を作れ」ではなく「穴埋め問題」が主な感じ。

 プリント……ああ、そういえば。


「あと、やたらレジュメって言葉が出てきません? 大学からは」

「あ、うん。講義のときに配られる資料とかのことだね。元は要約とか概要、履歴書って意味……だったかな?」


 俺の質問に対し、セレーネさんが知識を揺り起こしつつ話していると、即座にリィズが補足。


「フランス語ですね。意味はセッちゃんが言った通りで合っています」

「み、みなさん博識はくしきですね……」


 サイネリアちゃんが感心しているが、話題を提供した俺の知識が一番浅い。

 俺が見たのは、大学を舞台にした……あれ、アニメだったか? 小説? ドラマ?

 いまいち憶えていないな。

 とにかく、セレーネさんが言うように講義に使う資料をそう呼んでいた記憶がある。

 セレーネさんとリィズによると論文の要約、のような意味で使われているようだ。


「あれ、どうも聞いていてしっくりこなくて。なんで急にフランス語? ほとんど大学だけですよね? 会社のプレゼン資料とかにも――いや、履歴書って意味もあるならややこしいな。使わないか」

「確かに、なんだかしっくりこないことも多いかも。普通に資料って呼んじゃ駄目なのかな? って、私も思うときがあるよ」

「……えと。間違っていたら申し訳ないのですけど……大学の教授は基本、研究者だからではないでしょうか?」

「おっ!」

「あっ」


 言葉の違和感について話し込む俺とセレーネさんに、サイネリアちゃんが恐る恐るといった様子で割って入る。

 俺も、そしてセレーネさんもしっくりくる意見に、その場が納得の色に染まる。


「……サイネリアちゃんの言う通りかも。教授がレジュメって言うから、学生もみんなそう言うって流れな気がするよ」

「論文発表は分野によってはグローバルなものですしね……教授にとって講義もプレゼンの一種と考えると、レジュメという呼び方も妥当だとうになります」

「教える人の意識の差かぁ。鋭いね、サイネリアちゃん」

「い、いえいえ。そんな」


 謙遜けんそんして赤くなるサイネリアちゃん。

 答えが正しいかどうかは置いておくにしても、かなり説得力のある意見だ。

 それをスッと出せることがすごいと思う。

 ややあって、サイネリアちゃんは照れを軽く引きずったまま人差し指をあごに当てる。


「それにしても、当たり前ですけど……メンバーが変わると、雑談の内容も変わりますね」


 改めてそう言われると……。

 なんだろう。

 数分前までは、尻にからしを塗るだのの話をしていたんだよな。

 あの四人が抜けただけでかなりの落差だ。

 俺はうなずきながらサイネリアちゃんに言葉を返す。


「そうだね。知能指数が軽く100くらい違うね」

「そこまでですか!?」


 PCのCPUに例えると、使用率3%くらいで話していた感覚だ。

 ほとんど反射というか感情のままにしゃべっていただけである。


「いやぁ、あれはあれで楽しいんだよ。この場のみんなも、たまには知能指数5くらいで話そうぜ!」

「そ、それは下げすぎではないでしょうか……?」

「チンパンジーの十分の一じゃないですか……もう会話不能なレベルです」

「あ、あはは……」


 残念ながら、三人からは賛同を得られなかった。

 楽しいのに。

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― 新着の感想 ―
騒がしい組は脊椎反射で会話してるのか。 そりゃ学習しないわけだ。 場合によっては楽しいのも分かるけど、作品内での役割がうざい系に全振りしてるのがちょっと。 賢人会との落差よ。
[一言] どんな知能数の会話でも楽しめハインド最強!
[一言] >知能指数5くらいで これ、ハインドが言ってるからまだこの反応なのよね トビとかユーミルが言ってたら…いや、うん 考えないようにしよwww
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