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戦士団、参上!

「うっ……」


 怪鳥カイムから放たれた、翼の形をした光弾。

 着弾時の爆風ダメージ等はないのか、動かなかったのが功を奏したらしい。

 HP半分ほどを残し、俺はうめきながらも立ち上がった。


「よっ、と! ずいぶんなご挨拶でござるな! 紙な拙者、瀕死ひんし!」


 少し遅れて、トビも近くで跳ね起きる。


「しかし、回復の猶予ゆうよはありそうです……ハインドさん」

「あ、ああ」


 ここからさらに追撃されたらまずい状況だが、カイムは悠然ゆうぜんと空を旋回している。

 同じく無事だったリィズの言う通り、立て直す時間はくれるらしい。

 ……あおるように真上を飛んでいる辺り、そこまで長いものではなさそうだが。


「みんな、集合!」


 こういうときは総回復量に優れる『エリアヒール』の出番だ。

 仲間に加え、ついでに近くのプレイヤーにも当てて支援ポイントを稼いでいく。

 どうぞどうぞ、出入りはご自由に。


「あー、癒されますねー……」

「いや、シーも回復魔法使いなさいよ……」

「セレーネ先輩、流れ弾とか平気でしたか!?」

「うん。リコリスちゃんが守ってくれたおかげで、小ダメージで済んだよ」

「全員無事……あれ? なんか足りなくないか?」


 なんかというか、いつもに比べて随分と静かだ。

 俺に続いて、みんなも欠員に気づく。一番騒がしいあいつがいない。

 ――あ、なんか随分と遠くに倒れているな!?


「ユーミル先輩!?」

「ゆ、ユーミル殿が戦闘不能に! なんであんな場所で!?」

「どういう当たり方をしたのでしょうね……」

「と、とにかく蘇生だな……あいつがいないと、ダメージソースが心許こころもとない」


 まだ回復陣の効果は残っているので、陣の中から蘇生薬を遠投。

 システムの命中補正もあり、倒れているユーミルの背中で瓶が割れる。

 薬剤が体にかかり、蘇生の光に包まれた。


「!!」


 ユーミルがバネ仕込みのような動きで跳ね起きた。

 そして俺たちの足元の『エリアヒール』に気づくと、回復の恩恵に預かろうと走り寄ったのだが――


「あっ!」

「あ」


 ――辿り着く寸前で回復陣が消失。

 立ちすくむユーミルとばっちり目が合う。


「……」

「……」


 なんだろう、目の前で駆け込み乗車が間に合わなかった人を見るような気まずさ。

 かける言葉が見つからない。

 ……そんな沈黙を破ったのは、ユーミルのほうから。


「……あの、ハインド。回復……」

「お、おう。今やる」


 単体回復に切り替え、ユーミルを全快させる。

 これでグループメンバーの立て直し完了。

 フィールド全体を見回しても、みんなどうにか戦えそう――という状況になったところで、怪鳥が攻撃を再開。


「ありがとう、ハインド! ……にしても、ひどいではないか! もっと早く気づいてくれ!」

「悪かった。でも、どうしてそうなった? 低耐久のトビですら戦闘不能にならなかったのに」


 ユーミルと話している間にもカイムが『眷属けんぞく』を召喚。

 黒と白の小さな鳥の群れ。

 それらが歪んだ空間から飛翔し、プレイヤーを襲いはじめる。

 召喚を終えると、カイム自身はバリアのようなものに包まれた。


「どうしてそうなった、だと? ……弾をけようと動き回ったら、近くのやつに全部当たった!」

「……悪かった」


 俺が最初にけろとか言ったせいか。

 あの攻撃のバラけ具合だと、その場で動かないほうが生存確率は高かった。

 仮に「防御!」とだけ叫んだとしたら、そうはならなかっただろう。

 ――と、悠長に話をしている時間は終了のようだ。

 こちらにも、カイムの眷属が大挙して飛来してくる。


「ハインドさん。白が物理弱点、黒が魔法弱点のようです」

「おっ、分析早い。さすがリィズ」


 俺が試すまでもなく、リィズが周囲の状況を見て眷属たちの耐性を見抜く。

 言われた通りに黒に『シャイニング』を放つと、風船が割れるように爆ぜて消えた。

 まとわりついてきた黒を杖で殴ると、固い感触と共に0ダメージの表記。

 反して、白は杖で払っただけで割れる。リィズの分析通りか。

 どうもHPは極小の模様。ただし数が非常に多い。


「うおー! 的が小さくて当てづらいでござる! 誰かノクス呼んできて!」


 ついでに小さくて倒しにくいときた。

 特にトビは己の短い得物でどう攻撃したものかと、非常に苦戦している。

 眷属たちの攻撃力はそれなりで、小物と高を括って囲まれ続けると戦闘不能に――なったな、あっちの野良プレイヤーが。


「ふん! ぬん! ……キリがないぞ!? 近接、あんまり当たらないし!」

「こういう敵は範囲攻撃だな。俺たちは焙烙玉ほうろくだまを投げとけ。他の白い鳥はセレーネさんとサイネリアちゃんが片付けてくれる。そりゃ!」


『焙烙玉』を空中で炸裂させると、面白いように敵の数が減る。

 それを見たユーミルは俺にならい、剣を収めてアイテム袋に手を突っ込む。


「むお、確かに凄い効果的! 私もやるやる!」


 レイドはもちろん、アイテム使用可である。

 範囲攻撃にとぼしい俺とユーミル、トビにリコリスちゃんは投擲とうてきアイテムを多用すれば補うことが可能だ。


「しかし、ちょっと消費が激しいでござるな……」

「今回は本当に、アイテム資産の消費が怖いです! いいんですか? ハインド先輩!」

「いいよ、初戦だし。色々試して、二戦目以降の改善に繋げよう。必要経費ってやつだ」


 相手が低耐久なので、もっと爆薬の少ない『焙烙玉(弱)』を用意するなり節約の方法はある。

 どの道、今の手持ち分を使い切っても影響はあまりない。

 ホームのアイテム倉庫には、まだまだ在庫がそれなりに存在している。


「ハインド、黒いのは!? 白いのはいいけど、黒いのは焙烙玉で倒せないぞ!」

「現状だと、リィズの闇魔法とシエスタちゃんの光魔法頼り」

「うえー。魔法系の投擲アイテムを開発してくださいよー、せんぱーい。いーそーがーしーいー」

「文句を言わないでください。そしてサボらないでください」


 魔法属性の投擲アイテム……取引掲示板で見た記憶があるな。

 わざわざ開発しなくても、それを買うか真似すればいいような気がする。

 ――あ、あとはそうだな。


「ユーミル。最終手段としては、バーストエッジを空にぶっ放す手があるぞ」

「お? ……おお! そういえば、あの技の衝撃波は魔法だったな! よーし!」

「最終手段な。できればカイムにぶつけたいから、本当に最終……最終手段だって言ってんだろ! 撃つ気満々の構えじゃねえか!」

「え?」

「囲まれてどうにもならない時だけにしてくれ。次のカイムの動きが読めないんだから」


 言ったのは俺だが、使用間隔が長い大技を雑魚に使ってどうする。

 ……それにしても、この召喚フェイズ? とでも呼べばいいだろうか。

 時間が長いな。眷属を無視して、本体を攻撃しても案の定というかダメージが通らないし。

 ――あ、カイムがまた光って……。


「追加入りまーす! ……って感じでござるかぁ!? 勘弁して!」

「おかわりとか聞いてないです!」


 全滅を待たずに眷属の第二陣が登場。

 プレイヤーがこれだけ居ても、手が足りないというか眷属の減りが遅いというか。

 いつまで続くんだ? まさか、眷属を倒し切らないとカイムのバリアが解けないとか……ないよな?


「……もしかして、ここで呼べばいいのだろうか?」


 周囲を見ると、ポツポツとプレイヤーたちとは違う表示……。

 支援キャラであることを示す光、だろうか? そういったものに包まれた人員が戦闘に加わっているのが見える。

 支援は召喚型で一緒に戦ってくれるタイプを筆頭に……。

 補助効果を味方に、妨害効果を敵にといったバフデバフ型。

 持続火力を一定時間出して帰るタイプ、瞬間火力の高い一撃をお見舞い! などと様々だ。

 俺たちが最も多く呼びたい戦士団はというと――っと、危ない気配。

 一旦離脱しなければ。


「みんな、どう思う!? 呼んでいいか? 戦士団!」


 眷属の群れに囲まれないよう距離を取りつつ、意見をうかがう。

 対集団に強いとは言えないメンバーが多いためか、答えはすぐに返ってきた。


「呼ぼう! 単純にきつい!」

「使いどころかと」

「数が多すぎて、遠からず決壊しそうです! お願いしたいです!」

「サマエル以外の支援は、出ししぶるようなもんじゃないでござるよ! ハインド殿、早ぅ!」

「……了解、呼び出すぞ!」


 新実装の『勢力貢献報酬』のポイントは、同グループのメンバーなら均等に獲得となる。

 そして普段からの援助や訓練の手伝いもあり、戦士団の好感度(呼び出し効果)は全員が最大値。

 だから誰が支援要請しても効果・結果は一緒だが、後衛のほうに余裕があるのはどの戦闘でも同じ。基本的には俺の役目である。

 支援コマンドを実行、『王宮戦士団・砂漠のフクロウ』を選択。

 すると間を置かず、整然とした軍靴の――というには、一歩統率の足りない音が周囲に響く。


「ようやく出番ね!」


 ティオ殿下を先頭に神官部隊が。

 他にも魔法隊・弓術隊、そして戦士隊と団員が勢ぞろいだ。

 全員が前進を止めたところで団長・ミレスが一歩前へ。

 シミターをかかげ、号令をかける。


「王宮戦士団、攻撃開始!」

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