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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アイテムコンテストとギルドの発展
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料理部での活動

 調理室には鼻腔をくすぐる香ばしい匂いが漂っていた。

 ジュワジュワという音を立てながら、揚げられたパンが浮き上がってくる。

 それがきつね色になったところで、順番に油切りバットの上に移していく。


「副部長、もう食べていいかな? かな?」

「アタシ、お腹空いたよー」

「油が切れるまでもうちょっとだけ待って。というか君達、部長を見習いなさい。あんなに行儀よく待って――」

「あつっ! はふっ、サクサクしてる。美味しー! 最高!」

「……ごめん、嘘だった」


 むしろ誰よりも盛大にフライングしてた。

 俺の視線に気付いても、井山いやま部長は食べる手を止めない。

 仕方ないか、今日のメニューは部長の大好きなパン系のピロシキだからな。

 中身は豚ひき肉、玉ねぎ、春雨に炒めた卵を合わせた物となっている。


わたるちゃんも、一旦手を止めて揚げ立てを食べましょう? ね?」

「その前に、女性陣は揚げないなら使った器具の片付けくらいしておいてください。男ばっかに任せてないで」

「残念ながらもう終わりました、副部長……」

「載せる皿はこれでいいっすか? 横に置きますね」


 料理部の男女比率は男子が四人に対して女子が約十人だ。

 そのパワーバランスによる悲哀が感じられる普段の光景である。

 細かい雑用のほとんどは、悲しいかな喋ってばかりの女子に代わって黙々と男子がこなすことが多い。

 生地を練ったり包んだりは頑張ってやってくれたんだけどな……片付けになると途端に動きが鈍る。


「うん、この皿で良い。そしたらいつも通り、お腹減ってない人は冷めたら包んで持って帰ってくれい」


 三年生の男子が居ればもう少し違ったのだろうが、残念ながら料理部男子の最高学年は二年生である。

 二年が二人、一年が二人の計四人。

 それでもおっとりした井山部長の元、仲良く週一回の活動を続けている。

 亘「ちゃん」という呼び方は個人的にやめて欲しいところだが。


「健治、そっちはどうだ?」


 揚げ物をしている鍋は二つ。

 一つ一つのサイズは小さめだが、大量に包まれたピロシキをどんどん揚げていく。

 呼びかけた先に居るのは、俺と同じ二年生の男子である真柴ましば健治けんじだ。


「まだ三合目。でも、そろそろ運動部を呼んでも良いんじゃね?」

「呼ばなくても、どうせ匂いに釣られて――」

「岸上くーん!」


 ほら来た。

 斎藤さんの声が響いて真っ先に女子テニス部の面々、続いて他の運動部もぞろぞろとやってくる。

 運動部に比べると少ないが、文化部の連中もまばらにやってくる。

 休憩時間がバラバラなのでタイミングは一定ではないが、一時間もすれば二百個近くあったピロシキが全てはけた。

 男性陣は一仕事終えた感じで、ようやくそこで一息つく。


「相変わらず、すげえ勢いで無くなるよな……」

「野獣っすよ、この時間の運動部は。野に放たれた獣っす」


 パン粉が散らばった皿とテーブルの上を片付けながら、男どもが固まって作業しつつ愚痴る。

 女子は女子で料理の写真・レシピ等の活動内容を纏めたノートをせっせと作ったりしている。


「去年までは料理部だけで細々と食べて終わりだったのに、どうしてこうなった」

「そうなんですか?」

「ああ、井山先輩がさ……」


 折角作るんだから、もっと沢山のみんなの喜ぶ顔を見れたら嬉しいなぁ……ねえ、亘ちゃん?

 というパン屋の娘らしい発想でもって、俺を巻き込みつつ先生方と交渉。

 井山先輩が品行方正な優等生だったことも味方し、現在のような特殊な状況を生んでいる。

 地元の商店に安く食材の協力をお願いしたり、根回しが色々と大変だった一年生の時の思い出。


「それ、副部長が片棒を担いでいるじゃないっすか!」

「だってお前、あのホワホワした笑顔で迫られて断れるのか? ああ見えて押しが半端なく強いんだぞ?」

「亘は休み時間までクラスに押しかけられてたんだぞ……周りの視線も何のそのだ、あの人」

「うへぇ……」


 健治とは去年までクラスが一緒だったので、当時の状況をよく知っている。

 その時はまだ部員じゃなかったんだよな、こいつも。

 そして俺達もようやくテーブルに座ってピロシキに齧りついた。

 少し冷めてしまっているがサクサクとした食感、トロッとした中身の餡が絶妙で……


「「美味いっ!」」

「「美味いっす!」」

「ねえ、亘ちゃん。今、私の話をしてなかった?」

「「「……」」」


 我らが部長殿はのんびり屋であらせられる。

 ツーテンポくらい遅いです、井山先輩……。




「はい、では今日の料理部の活動を終わりまーす。お疲れさまでしたぁ」

「「「お疲れ様でしたー」」」


 先輩のゆるっとした締めの挨拶と共に、その日の活動は終了。

 俺と健治は教室に一度戻り、荷物を取ってから校門までは同行する。

 その途上、ドタバタ走る音と共に大声が背後から迫ってきた。


「わっち! わーーーっち!」

「あ? おい、アホが呼んでるぞ亘」


 渋々振り返ると、健治の言う通り廊下を駆けてくる秀平アホの姿が。

 帰宅部のこいつがこんな時間まで残っている理由を、俺は既に知っている。


「よう、補習野郎。もう補習は終わったのか?」

「変な呼び方しないでよ! あ、健治も居たんだ。ちーっす」

「何、お前補習だったの? 馬鹿だなあ、知ってたけど。知ってたけど」

「それ二度も言う必要ある!?」


 本当にな……あんなに頑張って教えたのに、結局秀平は二教科で赤点を出した。

 かといって教えなかった場合、もっと悪い結果になっていたのは目に見えているが。

 なので「二教科で済んだ」と考えた方が俺の精神衛生上マシな気がする。


「ま、まあいいさ。丁度良いし一緒に帰ろうぜわっち! あ、健治も一緒に帰る?」

「秀平お前、俺が逆方向なのを知っててワザと言ってんだろ? んじゃまたな、亘。あ、あとそこのアホも、あばよ」

「おう、またな健治」

「あばよー!」


 別れの挨拶を残し、健治は校門を出たところで俺達とは逆方向に去っていた。

 その様子を見送ってから、俺達も並んで歩きだす。


「そうそう、わっち。TBの新イベントの詳細来てたよ」

「……いつも思うんだけど、お前はどのタイミングで公式サイトをチェックしてんの? 毎回俺よりも知るのが早いよな」

「い、いやあ、そのー……」


 さては授業中だな。また赤点取る気かこいつは。

 それはそれとして、アイテムコンテストの詳細が来たのか。

 どういう審査を行ってどんな報酬が得られるのかは未定だったから、気になっていたのは確かだ。


「歩きスマホは危ないから、帰ったら詳細を見るわ」

「ならネタバレは控えることにするよ。んでさ、ギルドホームの改造の件なんだけど」

「またかよ。もう既にあちこち忍者屋敷みたいになってんのに、これ以上どこを弄るんだよ?」

「いやいや、まだまだ。今度は一部屋丸ごと、隠し部屋にする計画が――」

「そんなことしても、リコリスちゃん達の玩具にされるだけじゃねえかな……」


 隠し扉からスッと出てこられるとビクッとなるから止めて欲しいんだが。

 彼女達は前言通り頻繁にこちらのホームに遊びに来るようになった。

 前よりも賑やかになったホームで、ここの所は各自生産活動にのめり込んでいる。


 ……そんなTBのことは一度置くとして、それより今夜の夕飯は何を作ろうかな……?

 家に残っている食材を思い出しながら、俺は秀平と夕日に染まる道を歩いた。

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[一言] 可哀想すぎてなんも言えん、
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