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エリアボス

「早速スキルを試そう!」

「言うと思ったよ……つっても、既に北エリア以外の敵は一撃だからな。ここで試すしかないのか……」

「そういえばそうだな!」

「なら、余り群れてないゴブリンを探そうぜ。アルミラージだと、このレベルでも結局は一撃だろうから、捨て身を試すにしても――」

「ヒャッハー! 新鮮なモンスターだぁ!」

「聞けよ!」


 ユーミルがアルミラージに向かって突進していく。

 良かった、一匹だ……一応、半分くらいは話を聞いていたらしい。

 ただ、スキルを発動しても意味はないけどな!

 ユーミルが捨て身を発動してアルミラージに斬りかかる。

 防御を下げるだけの無駄な行為になっとる……縛りプレイかな?


「このっ!」

 外れ。

「くらえっ!」

 ミス。

「何でっ!」

 当たらない。


 アルミラージもレベル上昇と共に素早さが高くなっているようで、ユーミルは速度を完全に見誤っている。

 昨日、経験値稼ぎの為に優先的且つ大量にアルミラージを狙って狩ったので、感覚が低レベルの方に合ってしまっているのだろう。

 手間取っている内に複数のアルミラージが集まっていき――。


「ぎょえーーっっ!!」

「うわ……」


 ユーミルは多数のアルミラージの角攻撃を一斉に受けた。

 全身のあちこちを串刺しにされ、一瞬で体力が消し飛ぶ。

 まあ実際の痛覚的には、指であちこちを軽く突かれた程度に抑えられているんだけど。

 それでも見た目の上では結構、ショッキングな絵面だ。

 なんというか、回復も補助魔法も掛ける暇が全くなかったぞ……。

 今回は敵に一撃もダメージを与えていないので、俺はアルミラージの群れが去るのを動かずにじっと待った。

 ……もういいかな?


「立ったまま死んでるし……お前は武蔵坊弁慶か」


 聖水の瓶を開け、頭の上からふりかけていく。

 段々と死に芸みたいになってきてんな……そもそも死ぬなって話だが。


「――はっ!」

「起きたか。無駄に死んだ気分はどうだ?」

「モフモフこわい……モフモフこわい……わーくん、つののはえたモフモフが……」

「幼児退行!? ってお前、そうやって今の失態を誤魔化す気だろう! さっさと聖水を無駄にした分を稼ぐんだよ、早くしろや!」

「ちっ、バレたか……」


 懐かしい呼び名まで持ち出しやがって……。

 しかし、もう聖水は一本しかないんだぞ。

 どうするんだ、これから先。


「なぁ、ハインド。孤立したモンスターを素早く倒せれば、効率はいいか?」


 悩む俺に対して、ユーミルが意外な提案をしてきた。


「うん? そうだな……素早くって事は、お前の捨て身を使って敵が集まる前に一体ずつ狩るってことか?」

「そうそう」

「他のプレイヤーも少ないけど居るし、ちっと索敵さくてきに時間は掛かるが……まあ、悪くはないな。確かに命中すれば二倍だから、ゴブリンでも二発以内で確殺だろうし。お前も被弾を一発以内に収めれば、死なない訳だから」

「だったらやってみないか? 戻るのも面倒だし、私はここで粘ってみたい」

「うーむ……ユーミルにしてはまともな提案……」

「そうだろう! ……ん? 今、私は馬鹿にされなかったか?」

「気のせい気のせい」


 このゲーム、フィールドが結構広いんだよな……移動が手間と言えばその通りで。

 ユーミルの弁にも一理ある。

 戻らずに済むならそれに越したことはない。


「じゃあこうしよう。一回でも死んで、聖水が尽きたらそこで撤退。それまではここで粘るってことで。どうだ?」

「おお! ならば私次第ということだな!」

「アルミラージなら俺でも一撃で倒せるからな。それを念頭に置いて戦ってくれ」

「うむ、心得た!」


 その後のユーミルは、先程の不注意を帳消しにするような活躍を見せた。

 ゴブリンに対して完璧なヒット&アウェイを繰り返し、直ぐにアルミラージの速度にも適応していく。

 レベル13、14、15……気が付くと、レベル16を目前にして武器の耐久値がギリギリになるまで、どちらも死なずに敵を倒し続けることに成功した。

 レベル15になってからは囲まれても対応出来るくらいのステータスになったので、普通に群れと戦って稼ぐことができた。

 インベントリ内の取得したドロップアイテムを整理しつつ、ダメージの回復も終えて二人で一息つく。


「やり遂げやがった……すげえ」

「ふふん! 見たか!」

「お前のこういう時の集中力は、目を見張るものがあるよな」


 実は、密かに俺が未祐に対して昔から尊敬している部分でもある。

 底力というか、プレッシャーが掛かる大事な場面ほど力を発揮するというか。

 絶対に口に出しては言わないけども。

 その分、普段のミスだったり抜けている部分が余りにも多過ぎるしな……。


「しかし、武器の耐久値がもう限界だな。村に戻って武器屋のオヤジに修理してもらわないと」

「そうだな。それにしてもハインド、ここはどの辺だ? 敵を倒すのに夢中になって、随分と奥まで来てしまった気がするが」

「確かに。ここはさっさと引き返して――」


 ズンッ……ズンッ……


「……なあ、ユーミル。俺は非常に嫌な予感がするんだが」

「奇遇だなハインド、私もだ。楽しみだとはいったが、それは万全な状態の話で――」


 音が近付いてくる。

 明らかに大型生物のソレだと分かる地響き。

 ゴブリンやアルミラージが発するモノでは決してない。


「グアァァァァァッ!」

「出たぁぁぁ! オーガ!? レベル20!? 無理無理無理無理!」

「てっ、撤退! 撤退ぃぃぃ!」


 三メートルはある巨大な『鬼』が、鉄の塊を振り下ろして襲い掛かってくる。

 平原の柔らかな地は抉れ、盛大に土砂が撒き散らされ――


「あだだだだ!? ら、ライフが! 飛んできた土砂にもダメージ判定があんのか!?」

「ハインド! 私の方が足が速い、囮に!」

「あっ、馬鹿やめろ!」

「一太刀なら耐久も持つ! はず! チェストォ!」


 ユーミルの『スラッシュ』がオーガの腕に食い込む。

 敵の体力が僅かに削れるが、剣が抜けずにユーミルがそのまま宙づりになる。


「あ、あれ?」

「剣から手を放せっ!」


 俺は急いでユーミルに『ガードアップ』の魔法を掛ける。

 オーガが斬られた腕を振り回し、その反動で剣ごと放り出されたユーミルに向け――


「ガアッ!」


 棍棒を振り抜いた。

 当然、空中で避ける術がある訳もなく。


「ぎにゃぁぁぁぁ!!」

「何やってんだ!?」


 ユーミルが剣を持ったまま吹っ飛ぶ。

 って、一撃で即死か!? 体力ゲージ0で地面を派手に転がっていく。

 補助魔法が全く意味を為さなかった……って、そんな場合じゃない!

 ユーミルが吹っ飛ばされた方向は、都合が良い事に逃げていた方向だ。

 最後の聖水を投げつけ、立ち上がるのにもたついているユーミルを抱えて走る。


「痛い痛い! ハインド、持ち方が雑じゃないか!?」

「うるせー! 丁寧に抱えてる暇なんかあるか! ――ひぇっ! 怖ぁっ!」


 真横の地面に棍棒が叩きつけられる。

 俺達はそのまま逃げ続け……中央エリアに入ったところでようやくオーガから解放された。

 ――行動限界、北エリア全域かよ……広過ぎるだろ……。

 逃走経路に他のプレイヤーが居なくて、本当に良かった。

 平均的なプレイヤーの進み具合はまだドンデリーの森~ホーマ平原南部のようだ。


「殺意に満ち溢れた設定だったな……ハインド」

「ぜぇ、ぜぇ……あそこで一回は死んでおけ! という運営の悪意が透けて見えたな……初見殺しにも程がある」

「ま、私は運営の意図通りに一回死んだ訳だが!」

「威張んな! 剣を手放せば死ななかっただろ!? どうして――」

「お前が初めて作った武器を捨てられるか! 私は死んでも放さんぞ!」

「えっ……そんな理由だったのか? ……はぁ、全く。所詮はゲームのデータだっていうのにこいつは……」

「うん? 今、最後の方になんと呟いたのだ? ハインド」

「何でもねーよ。気にすんな」

「?」


 義理堅い奴だな……そんな理由を聞かされたら、もう何も言えないじゃないか。

 ……それにしても、初日に劣らずドタバタした戦いだった。

 アイテムも枯渇、武器の耐久値もないので、そのまま俺達は村へと戻ることにした。




 そして、例によって『アルトロワの村』の広場。

 時刻は十二時近く、そろそろ寝ないと明日に響くな。

 ユーミルも名残惜しそうにしながらも、時間を気にして終わるかどうかを俺に聞いてくる。


「今日はここまでか? ハインド」

「そうだな。でも、忘れない内に武器の修理だけしてから――」


 ビー、ビー、ビー! 使用者の体に異常が生じています!

 5秒後にVRX3500を強制終了します。

 5、4、……

 何だ何だ!? 異常!?


「ゆ、ユーミル!? なんかVRギアから警告が!」

「は? ……まさかとは思うが亘、お前、部屋の鍵を――」


 閉めてない、そう答えようとした直後だった。

 ――接続を終了します。

 そんなメッセージが流れた後、俺の意識はTBの世界から切り離された。

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