皇帝陛下の複雑な現状
君へと拝謁したその後
「ヤバイな、国傾けそう…」
麗しの姫君が女官長と退出すると、玉座から半分ずり落ちながら両手を頭に抱える。
「うわぁ〜、冗談でも止して下さいよ〜」
「おまえだって今のあれ見ただろ⁈」
「お気持ちはわかりますけど〜、オレだって今半勃ちですし〜」
「だよなぁ、あれは最早兵器だよなぁ」
憧憬深き幼馴染みで従姉妹に激似の娘さんが、お目々うるうるで健気な懇願である。しかも、あなたしかいないのー、である。これで奮い起たない男は居ないではなかろうか?
「ぜってぇ、ヴィルトとハーヴグーヴァにゃ見つかるなよ。あ、あとアクイーラもか」
陸海空の師団長達は揃いも揃って山賊、海賊、空賊と場所は違えどそれぞれに音に聞こえし盗賊団の頭領であったので、己れの欲望には忠実で真っ直ぐである。
「魔術師団長殿もです。見つかり次第、速攻確実に剥製にされて御自分の寝室に飾られてますよー」
「こっわ、何それこっわ。なんだよヴァイスハイトもかよ〜。もーヤダ、アインちゃんがなんとかして」
恨めし気に帝国軍の良心であるアインオーガ機甲師団長を見遣るが、そもそもそんな野郎共を軍団隊長職に軒並み据え置いているのは陛下御自身であるので自業自得なのである。だかしかし、戦時中はほんと大変に便利で役に立つ人達なのでこれはもう仕方が無い。
「あ、忘れてましたけどフォックスが求婚してました」
「ええええ、あの無関心無感動人間がか?」
「はぁ、目の色変わってましたから〜。褒賞に娶らすって言えば3つくらい国余裕で堕として来ますよ?」
「そんなに領地増えたら今度こそ睡眠時間なくなって死ぬ。つーか、それより先にリアムとかに刺されて死ないか?」
「あいつモテモテですからね〜。ーーん?それより陛下のお嫁さんにしちゃえば丸く収まるのでは〜?」
「皇后にしたくらいで、あいつら諦めると思う?」
「思わないですけど。陛下、議会からいい加減に嫁娶れって突き上げ喰らってるんでしたよね〜?それとも誰か心に決めた方がいらっしゃるのですか?」
「んな、ロマンチックな理由あるわけないだろ。おまえらが問題ばっか起こすから忙しくて碌に結婚してる暇がねぇんだろが」
奈落に届くかのような重い溜息を吐いて項垂れた頭を持ち上げる。
「なんで連れて来ちゃったのかねぇ」
「御命令です」
「わかってらぁ」
投げ遣りに言って、天を仰ぎ玉座に深く沈んだ。