虜囚と少年
賢王の幼年期
「どうしてこんなところにいるの?」
「さて、どうしてだったっけなぁ」
「こんなところにひとりでさみしくないの?」
「別にさみしくはねぇかな。ここはいろんな奴等の声がするのさ」
「いろんな声ってどんな声?」
「そうさなぁ、だいたいはイカれた怨嗟の声だが、なかには為になることを賢しらに語って行く声もあるぜ」
「ということは、あなたは物知りってことかな?」
「まぁ、そこそこにな、ここブチ込まれる前は七つの海を股にかけてたしなぁ」
「海って七つもあるの?」
「もっとあるんだが、おおまかには七つだ」
「ふーん、ほんとに物知りなんだね」
「そんなにたいしたことねぇよ、ただの荒くれ者だ」
「あらくれもの?」
「まぁ、乱暴な奴って意味だ」
「乱暴したから、捕まったの?」
「まぁ、それもあるんだが、色々あってだなぁ」
「ふーん、大変だったんだね」
「まぁ、大変だったが、今は暇さ」
「だったら、僕の相談に乗ってもらえますか?」
「いいぜ、なんか悩んでんのか?」
「僕は国を滅ぼすんだって」
「そりゃあまた、ずいぶんとスゲーこといわれたなぁ、誰に言われた?」
「僕が生まれてすぐに、国一番の大魔法導師様と、おばあちゃんのお姉さんあたるエルフの神官長さんが言ったんだって」
「お、おまいさん、エルフが身内に居るのかい?」
「うん、僕の家族色々あって」
「なんだかそれも大変そうだなぁ」
「今はもうそこまで大変じゃないよ、両親は冒険者稼業に戻ってあんまり帰って来ないし、姉さんは今日お隣りの国へお嫁にいっちゃったしね」
「それでこの浜辺まで見送りに来たのか」
「こんな崖裏に人が閉じ込められてて、びっくりしたよ」
「俺だってびっくりしたさ、ここにゃ隠匿の術が掛けられてるはずなんだか、エルフ混じりだからか?」
「どうだろう?色んなモノ拾ったりはよくするよ。それより、そこって満潮になったら沈まないの?」
「あー、よくできたもんでギリ首一個分だけ空間が余る」
「なんか、そういうの非人道的って云うんじゃないの?」
「難しいコト知ってんなぁ、なんだ怒ってんのか?」
「なんかよくわからないけど、すごく腹立たしいよ」
「おまいさん、いいやつなんだなぁ」
「決めた。僕がそこから出してあげる」
「おおう、そりゃ助かるが、俺がすごい悪いコトしたからここに居るかも知れないんだぜ。怖くねぇのかい?」
「僕が寝ている間、首一個分残して海に沈められてる人がいるほうが怖いよ」
「そんなんいったら、知らないだけでもっと酷い目にあってるのいっぱいいるぞ」
「知ってしまったから、責任持って助けるよ」
「なんだか早死にしそうなやつだなぁ」
「国を滅ぼすよりはいいでしょう?」
「まぁ、そうだな。ここ出られたら頼みがあるんだけど」
「ん、どんな頼み?」
「肉が食べたい」
「肉?」
「魚と海藻ばっかりでうんざりなんだよ」
「ふふ、いいよまかせて、美味しいのいっしょに食べに行こう」
「頼んだぜ、相棒」