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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

日本から召喚されてきた聖女様に「悪役令嬢」と言われTSされて異世界に飛ばされたので、神獣様と一緒に冒険者になってモフモフしてきます

作者: 唯葵 琉里

「セシリア・ショウ・リヴァティ。貴女、召喚術もまともにできないそうじゃない。皇太子殿下の婚約者だなんてふさわしくないわ」


 突然にそう呼び止められた私は戸惑いを隠せませんでした。目の前に佇むのは、先日異世界から召喚された聖女様。




 私の住まう国では、召喚術がとても身近にありパートナーである召喚獣を皆が連れて歩いていました。私はどういう訳か、何度召喚術を発動させても契約獣が召喚されません。それどころか召喚陣に何も反応がないのです。私が通う学園の先生方も同級生達も皆が呆れて私を見ていました。



 私の御先祖様は、日本という国から勇者召喚された転生者でした。

私は勇者の末裔である為に、第三皇太子殿下の婚約者として幼少期から教育を受けていました。ですが召喚術が発動しない私は、皇太子殿下に影で「出来損ないの勇者の末裔」と言われていたのです。


 そんな私には、とても優しくて素敵な兄がいます。兄は勇者の称号を持っていました。

ですが、兄の能力は癒しの力だったのです。癒しの力では、魔王は討伐出来ません。

 兄は「偽物勇者」と言われていました。

とても美しい中性的な風貌で、誰にでも優しくて素敵な兄が私は大好きでした。



 今日も私は学園で授業が終わると、学園の裏庭で召喚術の練習をします。普段はここで独りでこっそり

練習をしているのです。


 なんと、今日はお兄様に私の描く召喚陣を調べて頂けることになりました。

 学園を卒業したお兄様は、帝都にある王城で勇者として皇帝の警護をしています。

今日は仕事を途中で終わらせて、これからこの学園に来て下さるのです。嬉しくてたまりません。


「何も発動しないのは、何かきっとオカシイ。術式が間違ってるかもしれないね」


 お兄様はそう仰ってましたが、私は何度も何度も教科書や参考書を見て練習を重ねてきました。術式が間違っているとも思えません。私がオカシイのかもしれません。



「ショウ、お待たせ。さっそく召喚術を見せてくれるかな?」


 お兄様が来て下さいました。警護の制服がとても素敵で恰好良いです。とても似合っています。


「来て下さってありがとうございます。それではお兄様、召喚術を描きますので少し下がってください」


 私はそう言うと、杖を取り出して地面に召喚術を描き始めます。横でお兄様が何か魔道具を取り出し設置し始めました。


「お兄様、それは何ですか?」


「ああ、ごめんね。これは魔術師の同僚から無理矢理押し付けられた景色と音を記録する魔道具なんだよ。同僚がどうしても見て解析したいって言うから・・・着いて来ようとまでしたから魔道具で手を打ったんだよね」


 軽く溜息を漏らしながらお兄様が苦笑いをしています。一緒に調べてくださるのなら文句は言えません。


「そうでしたか・・・あの、ありがとうございます」


「ショウは、良い子だね」


 お兄様が優しく笑って、私の頭を撫でてくれました。もっと撫でてください。




 召喚陣を描き上げた頃、私達がいる学園の裏庭の入り口付近が騒がしくなってきました。そちらを向いて見ると、私の婚約者である第三皇太子殿下と聖女様、それと賢者様の御子息と聖騎士団長の御子息がとても怖い顔をしてこちらに向かって歩いて来ます。聖女様は皇太子殿下の袖の端っこをきゅっと掴んで俯いています。その姿はとても庇護欲をかきたてられます。私もキュンってなってしまいました。


 先日、私に対して強気発言された聖女様と同一人物に思えない可愛いさです。


「セシリア・ショウ・リヴァティ。君は、我が国が最も大切にしている聖女トモカに対して嫌がらせを繰り返しただけでなく、召喚獣が手に入れれないからと嫉妬してトモカの聖獣を傷つけた。この国を護る聖獣を傷つけるなんて、その罪は到底許されるものではない」


 突然に、皇太子殿下が仰ってきましたが・・・意味がわかりません。


 私は可愛いモノも恰好良いモノも大好きです。フワフワやモコモコも大好物なのです。そんな私が聖獣様を傷つけるなんて考えられません。だいたい国を護って下さる聖獣様が私なんぞの小娘に傷つけられるはずがないではないですか。皇太子殿下も聖女様もバカですかそうですか。その聖獣様は偽物ですか?


「私は、そのような事はしておりません」


 私はフルフルと首を横に振って答えましたが、皇太子殿下は信じてくださりません。


「嘘言ってんじゃねえよ。聖獣様を小刀で刺したって聞いたぜ」

 

 そう言って睨んでくるのは、聖騎士団長の御子息。


「僕は聖女様を階段から突き落としたって聞いたよ」


 賢者様の御子息まで、すごく怖い顔で睨んできます。恐ろしいです。


「私では、ありません」


 私は泣きそうになるのをグッと堪えました。よりにもよって、お兄様がいらっしゃるこの時にやってもない事で責められるなど思ってもみませんでした。

 聖女様とはクラスが違いますから会うことなど無いに等しいのです。それこそ、先日聖女様自らやって来て文句を言って下さったのが初めての出会いで、それ以降お会いしていません。


「お兄様・・・私はやっていません」


 目に涙を溜めて、私はお兄様を見つめました。


「もちろん。僕はショウがそんな事をする子じゃないって知っているし、信じているよ」


 お兄様が私に向かって優しく言ってくださいました。もう、本当にお兄様大好きです。

そんなお兄様に気が付いた聖女様がお兄様に向かって叫びます。


「勇者様どうしてそんな所に居るのですか?そのような酷い女の側に居てはいけませんっ。騙されています・・・どうか、こちらにいらしてください」


 キツイ言い方をした後で、優しい声音に切り替えて話しかけてきます。ねっとりした喋り方が正直ちょっと気持ちが悪いです。


「それこそ、僕の妹を苛めないでいただけますか?聖女様は王城で何度かお会いしましたね・・・皇帝からお聞きしましたが、貴女は魅了の力をお持ちだそうで。貴女から微量の魔力の放出を感じますから、今も発動されてるんでしょう?このやり取り全て、ここの魔道具で録画されていますけど大丈夫ですか?」


 そう言うお兄様を見て、聖女様が顔色を変えました。真っ青になっていますが大丈夫でしょうか?


「この悪役令嬢が、勇者様まで誑かして洗脳してしまったのですね。勇者様、お可哀そうに」


 そう言って涙ぐむ聖女様に、周りの男性達が優しそうに微笑んで聖女様の背中をさすっています。


「トモカは優しいな。こんな偽物勇者の心配をするなんて・・・」


 そう言ってお兄様を侮蔑してくるのは皇太子殿下です。許せません本当に。


「こんな偽物勇者じゃ、魔王討伐どころかこの国と皇帝を護るなんてできないよね」


「偽物勇者なんて、いらねえだろ」



 許せません。お兄様にそんなこと言うなんて許せません。



「僕ね、この間とっても素敵な術を開発したんだぁ。この人達で試してみても良いよね?」


 そう言って、こちらに手の平を向けて魔力を練っている賢者の御子息を見て、お兄様が慌てています。

なんの術を発動させる気なのでしょうか。


「それは駄目です!賢者様が先日ヤバイの開発したって・・・」


 お兄様が叫んで私を庇う為に抱きしめました。発動した術は、私とお兄様の周りをクルクル周りながら光り青と赤に点滅を繰り返します。眩しくて熱くて、私はギュッと目を瞑ってお兄様を抱きしめ返しました。


 身体中が、熱く燃えるようです。でも寒く凍えるようにも感じます。そしてギシギシと骨が軋んで痛いのです。痛みに一瞬意識が遠のきました。


「ショウ!しっかりして」


 すごく綺麗なウットリする声が聞こえて、私が目を開けると、お兄様と同じ顔をしたスタイルの良い女性が私を抱きしめていたのです。いえ、これはお兄様です。私には解ります。


 私は自分の身体に違和感を感じました。恐る恐る下を向いて自分の身体を見て驚きました。

今まであったふっくらとした胸が真っ平らになっているではありませんか!この身体は男性です。


「いやあああぁぁ!」


 私は悲鳴をあげました。信じられません。叫んだ声が少し低いものになっています。

お兄様が女性に、私が男性になってしまうなんて!


「あは、アハハハハ!いい気味だわ」


 聖女様が笑っています。ちょっと笑顔が歪んでいて不気味です。


「お、おい」


 鑑定眼の能力を持っている皇太子殿下が、お兄様を見て慌てています。どうしたのでしょうか。


「どういうことだ!?偽物勇者の・・・勇者の称号が、聖女(真)って変更されてる」


 そう仰った後で、皇太子殿下は聖女様を見て目を見開かれました。一体聖女様に何が書いてあったのでしょうか。


「トモカ、君の称号が聖女(仮)に」


 皇太子殿下のその言葉に、聖女(仮)様が驚いています。

 唇をワナワナと震わせて、こちらにフラリと寄ってくる聖女(仮)様本当に怖いです。


「あなた達、邪魔よ。私の逆ハーと聖女生活の邪魔なのよ!うふ、うふふ 丁度良い魔方陣があるじゃない。その魔道具と一緒に悪役令嬢と元勇者は、そのまま消えてしまいなさいよ。聖女は私だけで良いのよっ」


 それは、私が描いた召喚する用の魔方陣です。

 聖女様は何やら呟くと魔力を魔方陣に向かって放出します。

私が描いた魔方陣に文字がどんどん書きたされていきます。聖女(仮)様が書いているあれは日本語です。


 今までウンともスンとも発動しなかった魔方陣が光りだしました。

赤く紅く鮮やかに光ったそれは、暴発して私とお兄様を飲み込むように術が発動したのです。


 ― パシィッ ―


 音がして私とお兄様が召喚陣に吸い込まれた直後、お互いが弾かれてしまいました。グルグルと景色が回転しています。酔いそうです。


 聖女(仮)様、何を書かれたのですかー!?








 気がつくと、私は鬱蒼と茂る広大な森の中で1人立ち尽くしていました。


「どこですか、ここ・・・」



 お兄様がいません。私の大好きなお兄様がいないのです。確かに抱きしめてもらっていたのに。

私は涙が次から次に溢れてきました。寂しい。辛い。悲しい。負の感情でいっぱいになります。


「お・・・おにぃさまぁ。ひっく・・・うえぇ」


 空を見上げると、月が3つ並んで輝いています。

私の世界に、月は2つしかありません。


 「い・・・異世界に飛ばされてしまったのですね。聖女(仮)に」



 途方に暮れて、少し放心していたのですがこのまま森にいたら危険です。夜の森は危ないと幼い頃から教わってきました。それは異世界でもきっと同じこと。


 私は重い足を動かして、トボトボと歩きます。幸いなことに今の私はドレスではなく、学園の召喚実技用のズボンを履いていたので岩場も草の中も平気で歩けます。男性になってしまった身でドレスは見た目的にも気持ち悪いですし、本当に助かりました。



『人間がいるよ』

『聖なる森に人間がいるよ』


 どこからか、可愛らしい声が聞こえてきました。私はキョロキョロと辺りを見回します。

ああ、いました。草花の中に隠れてこちらをジーッと見ながら震えています。

それは、頭に角が生えた小さな兎でした。この種の兎は見覚えがあります。


 そうです、この兎は召喚獣。私がいた世界では召喚されてから現れる獣。

私はゆっくりと木々や岩場の影を見てみました。あちらこちらに、私を警戒して見ている召喚獣達がわんさかといるではないですか。

それは、猿であったり狼であったり小鳥であったり・・・様々な召喚獣が私を見ていました。


 私はゴクりと唾を飲み込みます。今まで触れなかった召喚獣達が目の前にいっぱい!!

モフモフパラダイスです!


 そっと、角兎に向かって手を差し出すとサッと逃げてしまいました。残念です。


「あの、私・・・違う世界から飛ばされて来てしまいましたの。あなた達は召喚獣なのですよね?」


『召喚獣?我らは召喚獣ではない。貴様ら人間は「来たれ召喚獣」等と戯けた事を言いながら何やら術を発動させ、我らを拉致する。どれだけの仲間達が消えて逝ったか。許せぬ・・・許せぬ』


 初老と思われる狼が近寄って来て、私に向かって牙を剥いて威嚇してきます。

正直、恐ろしくてなりませんでした。


「そうだったのですね。私は何処から召喚獣が召喚されるのか考えたこともありませんでした。私の世界では、人間1人に対してパートナーとして召喚獣が1匹召喚されます。とても大切にされていますので安心してください」


 ・・・私には、いなかったんですけどね。パートナー。


 寂しい気持ちになりましたが、この獣達の誤解を解かないといけません。仲間や家族と離れ離れになる気持ちは痛いほどよく、今の私にはわかるのですから。



『森主様に、迷い人が来たことを伝えろ』


 狼のその言葉に、頷いた鷲が羽ばたいてどこかに飛んで行きました。


「あの、森主様とは・・・」


『この大陸を守護してくださっている神獣様だ。この森に棲んでおられる。貴様は森主様にお任せする』



 森主様と呼ばれる獣が神獣様!

私がいた世界では、聖獣が一番位が高い契約獣と言われていましたが神獣様はきっとその上なのでしょう。


 ワクワクして私は待っていました。胸が高まります。どんな獣なのでしょうか。モッフモフだったら嬉しいです。


 しばらく待っていますと、月明かりだった森に太陽が差し込みほんわか明るくなってきました。

ぽかぽかと暖かい陽気に、少し眠たくなりながら可愛い獣達を眺めます。抱っこしたい撫でまくりたい。

 

 基本、他人の召喚獣は触ってはいけないことになっていました。召喚獣は主以外の人に触られるのを嫌がるのです。


 でもここには、契約獣ではない沢山の獣がいます。もうパラダイスです。もっとこっちに来てその可愛い姿を私に見せてください。



 ひたすら、ぼーっとしながら、じぃっと獣達を見ていたら私の目の前が陰りました。影の先を見てみるとそこには、大きな龍が!ドラゴンではありません。フワフワでもありません。


 ツルツルザラザラ鱗がビッシリ。その身体は蛇です。鱗の生えた長い胴体に手足がついています。残念です・・・非常に残念です。


『ふむ、お前が異世界からの迷い人か。よくこの結界の張られた森の中に入れたものだ』


 この森に人間が居ないのは、結界が張られているからのようでした。聖なる森と言われているのですから人間に荒らされないように結界を張るのも当然のことなのでしょう。


「突然、お邪魔して申し訳ございません。私は異世界から、悪役令嬢と罵ってきた聖女(仮)に男性にされて飛ばされてしまったのです。その時一緒にいた兄も恐らくこちらの世界に居るのではないかと思うのです。私は兄を捜したいのです。会いたいのです」


 お願いです、力を貸してください。


 私は、深く深く頭を下げました。人間は怖い。何を考えて行動してくるか解りません。

もう、今は私の目の前にいるモフモフな獣やツルツル(残念)な神獣様に頼るしかないのです。


『お前の魂は、綺麗で汚れていない。その輝きは上位世界のモノ。お前は異世界で召喚獣が今までいなかったのではないか?』


 神獣様の言葉に、私はハッとして上を向きました。さすが神獣様です・・・私に召喚獣が居ないことをお見通しでした。


「はい、今まで何度も召喚術を試しましたが・・・一度も術が発動しなかったのです」


 そうであろう、と頷く神獣様は愛嬌があってちょっとだけ可愛く見えました。


『この世界と、お前が居た世界は平行世界で双子星だ。その上に上位世界があってそこは次元が少し違う。お前の魂はそこの上位世界の気配がする。上位世界の者が使う術式はおそらく違うのだろう』


 上位世界とは、聖女様や勇者であったご先祖様がいた日本がある世界かもしれません。聖女(仮)様は召喚術に日本語で書き足してらっしゃいました。私は勇者の末裔なので、魂がそちらの世界のモノに近かったということでしょう。召喚術は日本語で書かないといけなかったということだったのですね。だから、今まで発動しなかった。


「だから・・・だから、私には召喚術が使えなかったのですね」


 原因がわかって、私は嬉しくなりました。これで私にもパートナーができるのです。


『召喚術の発動を許す。ここで発動すれば、召喚されたモノはここに現れる。私が説明してやれるだろう?お前の世界の者達は我らを大切にしてくれていたと聞いた。ならば、許す。そしてパートナーと一緒にこの世界を旅して兄を捜すと良い』


 ニヤリと笑って神獣様が仰ってくださいます。なんて、お優しい!


 私は嬉しくて、お礼を何度も言いました。

涙をにじませながら日本語で召喚術を書きます。私は勇者の末裔なので、日本語での読み書きができるのです。



 目の前で円形の召喚陣を発動させました。それは青く蒼く碧く鮮やかに輝きました。

眩い光が森を照らします。私は眩しくて目を瞑ってしまいました。


― ピシィ ―


 空間が割れるような音がしました。今まで発動したことがなかった術が発動したのです。やった!



 どんな仔なのでしょうか、モフモフフワフワでしょうか?


 そっと目を開けた私の眼に見えたものはツルツルザラザラな鱗でした。あれ?

もう一度目を瞑って開けてみます。うん、同じです。ツルツルザラザラ・・・。


 1歩下がって、召喚獣の全身を見ます。


「しん・・・じゅうさ・・ま?」


 目の前にドドーンと神獣様が座っておられる。どゆことですか?私のモッフモフはどうされました?食べちゃわれました?


『あー・・・うん、召喚されたな。私が・・・』


 ひぃいいいいやああああぁぁぁ!!??


 何という事ですか!どういう事ですか!

召喚したのは、召喚獣でも聖獣様でもない、この世界を護りし神獣様!いやいやいや、ムリでしょ。


「神獣様を連れての旅なんて、私には無理です。世界の、大陸の守護者が居なくなったらダメでしょう?」


 私のあまりに慌てる様子に、ククククと神獣様が笑っておられます。


『この美しい魂の持ち主が、私の主か・・・ふむ、いい。良いだろう、この大陸を護りながら視察を兼ねて一緒に旅に行ってやろう』


 オイオイ、止めてくださいよ。誰か止めてあげてくださいよ。ダメでしょ、本当にこれは・・・。


「神獣様、あなた様が契約獣だなんて身に余る光栄で勿体ないことです。それに、一緒に旅に出るには神獣様は大きすぎて目立ちすぎます!」


 旅にならないと思うのです。きっと、神獣様が現れたぞーって街は大騒ぎになります。


『ふむ、そうだな・・・では、人化してやろう』


 パァっと神獣様が光ったと思ったら、目の前にとっても素敵な顔立ちの整ったイケメンが立っていました。見ているだけで目がチカチカします。ムリです!私にはこんなイケメンと一緒に旅なんてできません。


『こっちが良いか?』


 もう一度光ったと思ったら、今度は絶世の美少女が!!髪は艶々サラサラ唇はピンクでプルンとっても可愛いです。もう、開いた口が塞がりませんありがとうございました。


「どちらも・・・私には無理です。気を使ってしまって、旅になりません」


 こんな美少女と一緒なんて街中が大騒ぎです。きっと神獣様は変態男に浚われてしまいます。男性の私は恨まれて襲われてしまいます。


『ふむ・・・では獣に変化してやろう。私は神獣だからな、こんなこともできるのだ』


 パァッと更にもう一度光ったら、目の前にフワッフワサラッサラな毛並みの胴体が長くて手足が短い・・・犬?狼ではありません。これは勇者様の世界の日本にいる犬です。ミニチュアダックスという犬種ではありませんか!勇者様の本に書いてあったのを読んだことがあります。


「さすが、神獣様です!上位世界の獣ではありませんか!!!ふわっふわ!抱っこさせてください。これでしたら、喜んでご一緒しましょう!ぜひ旅に行きましょう!ぜひ行きましょう」

 

 私はそっと神獣様を抱っこします。スリスリふわふわ・・・ふわぁ幸せです!



『わん』



 ・・・・あれ?神獣様鳴きました?



「神獣様?」


『わう』


 犬だと、喋れないんですね?日本の犬ですから、吠えるか鳴くしかできないんですね?最高に可愛いです。お持ち帰り決定です。



「はぁう、可愛いです!神獣様大好きです!!ずっとこのお姿でいてください」


 私は神獣様を撫でまくります。神獣様は気持ちよさそうに目を細めて身を任せて下さってます。




 神獣様と私は、森に別れを告げて旅立つことになりました。

 私は兄を捜して、神獣様はこの世界の視察と守護を兼ねての旅なので、森の獣達は名残惜しんでいましたが旅立ちを納得してくれました。



 旅立つ直前に、神獣様が龍化しました。


『これから、街の手前まで跳ぶ。その後私は犬化するから喋れなくなるな。街で必要な時は人化するからそのつもりで。それと、私の名前だがメロキス・リィンだ。街中で神獣様と呼ばれるのは困るからな』


 そう笑って神獣様は私を背中に乗せてくださいました。


「私の名前はセシリア・ショウ・リヴァティです。ショウと呼んでください。神獣様はメロンと呼んでも宜しいでしょうか?とても可愛い名前だと思うのです!メロン!!」


 私が力みながら訴える様子に、神獣様がタジタジとして引きつっておられます。


『メロンか・・・まあ、いいだろう。街に到着したら、私を連れてギルドという施設に行き登録を済ませるといい、その時に私が契約獣だという手続きも忘れないようにしてくれ』


 ギルドという施設で登録すると、冒険者という職業につけるのだそうです。ギルドは世界各地にあるらしく、私はギルドの冒険者として収入を得ながら、旅をして兄を捜すことになりました。



 初めての異世界に初めての街!そして初めてのギルド!



 神獣様に跳んでもらって、街の手前で降ろしてもらいました。

 神獣様は犬化したので、私が抱っこします。可愛いですフワフワです御馳走様です。



 無事に街に辿り着いて、門番に街に入る許可を問題なく貰った私達はギルドに向かいます。


 ― ギギギィ ―


 古い木のドアを開けて中に入ると、そこは右側が酒場になっており掲示板が壁に貼られていました。

左側をみると、カウンターがありキレイなお姉さん達が座って冒険者達に仕事の紹介等をしていました。


 私はすぐ左側のカウンターへと歩いて行きます。


「ようこそ、我が街の冒険者ギルドへ」


 可愛らしい受付のお姉さんがニコリと微笑みました。


「こんにちは、初めてなので登録からお願いします。この仔の契約獣としての登録もお願いできますか?」


 私がニコリと微笑んで、可愛らしい受付のお姉さんにお願いをしました。


「かしこまりました、私は受付嬢のサリーと申します。これからよろしくお願い致します」


 頬をピンクにポワッと染めた受付嬢のサリーさんが、そう言いながら私に登録用紙を差し出してきました。私はメロンを膝に乗せて登録用紙を書き込んでいきます。


「私はショウと申します。この街についたばかりで何も様子がわかりませんが・・・どうぞ宜しくお願いします」



 私の登録とメロンの契約獣としての登録を済ませました。

その後ギルドのランクについて等ひと通りの説明を聞いた私は、冒険者としての依頼をこなすことにしました。



 掲示板の前に立って依頼を読んでいると、声を掛けられます。


「そこの、イケメンのお兄さん・・・まだ若いでしょ?何歳?危険だから私達と一緒に依頼受けましょうよ」


 戦士風の鎧を着こんだ、胸の大きいお姉さんが話しかけてきました。


「なに言ってるの!私と依頼受けましょうよ。こんな女と行ったら、あなた食べられてしまうわよ」


 ナンダカオソロシイ言葉が聞こえます。

 そうでした、私は今・・・男性だったのです。しかもどうやらイケメンと呼ばれてます。


 酒場に居座ってる、オジサマ冒険者やオニイサマ冒険者達が私を睨んでいます。こっこわっ!


『ぐふっ』


 神獣様のメロンは犬なのに、笑っています。くーーーっ後でコショコショの刑ですからね。



「おい、お前ちょっと調子に乗ってるんじゃねえのか?表に出ろや」


 今度は厳つい顔をしたお兄さんに声を掛けられました。

 あー、もう面倒くさいです。私は見た目は男性ですけど、心は女性ですからね?怖いのは嫌です。痛いのも嫌ですよ?


 無理矢理背中を押されて、ギルドの表に連れ出されます。何事かと人が集まってきました。恥ずかしいです。


「俺のサリーさんに色目使ってんじゃねえよ!」


 私を連れ出してきたお兄さんが叫びながら剣を抜きます。危険ですヤメテください。


「やっちまえ!俺のリリアンちゃんがそいつに声かけてたんだ許せねえ」


 リリアンちゃんって誰ですか?お胸の大きい戦士さんですかそうですか。



 剣士なお兄さんが、私に向かって剣を振り下ろしてきました。当たったら死んでしまいます。


 私はこれでも、勇者の末裔。皇太子殿下の婚約者として、してきたのは勉強だけではありません。



「身体強化・極」


 相手は剣を持っています。そんな方は容赦いたしません。


 私は自分の身体に身体強化をかけます。女性で淑女だった私は普段武器など持たせてもらえないのです。

なので、私の武器は・・・この拳!



 振り下ろされた剣を両手で挟んで止めます。そして、そのまま斜めに捻ってしまいます。


 ― パキン ―


 とても良い音がして、太い剣が折れてしまいました。仕方ありませんよね。これは戦いです!


「ひぃっ」


 自分の折れた剣を見て、剣士なお兄さんが後ずさりました。ですが、逃がしません。


 ― ドン ―


 一発だけで許してあげます。


私の、目に見えない速さの拳はお兄さんのお腹にヒットしました。身体強化した拳での突きなのでかなり痛いのではないでしょうか?


 あ、白目剥いて倒れてしまいました。



「きゃー♪恰好イイ~!」


 戦士なお姉さんが飛び付いてきます。止めてください女性は怖いんです。聖女(仮)でコリゴリなんです。


「あの、私はケンカは苦手ですの。女性も苦手ですの・・・離れてくださいます?」


 もうね、お嬢様言葉で話しかけることにしたのよ私。面倒くさいのよ本当に!

素が一番です。



「ひぅ?!?」


 あ、お姉さん達が恐怖の顔でこちらを見て一歩引きました。これは良いかもしれません。


「せっかくですので、ご一緒にドレスを買いに行きませんか?私のドレスを選んでくださると嬉しいですわ」


 これでどうでしょう?


「しっしつれいしまぷ」


 あ、逃げて行きました。群がってくださってた女性陣が、カササササと危険人物を見る目で引いてくださいました。正直ある意味、身の危険を感じていたので助かりました。今後もこの調子でいこうと思います。



 そう決心した私は、このギルドで次々と依頼を受けていきました。


 ― オークを討伐してください ―

 ― 魔獣を殲滅してください ―

 ― 海獣の鱗を捕ってきてください ―


 もう、余裕でした。身体強化を掛けたこの拳でどんな依頼もどんとコイです。

私は、どんどん強くなりました。レベルを上げていき、ギルドランクも上げていきました。


 もちろんメロンも一緒です。どうしても討伐できない強い相手にはメロンが龍化して手伝ってくれました。そして、神獣としての視察も忘れずに行います。

 

 穢れた土地をメロンと浄化しながら旅をしました。メロンと一緒の旅はとても楽しかった。


 森で野営をしたら、神獣様であるメロンの気配を察知した獣達が沢山近寄ってきます。あちらこちらから、甘い木の実や美味しいキノコを採って来てくれたので、その場で料理してみんなで食べました。もちろん、ナデナデさせてもらうのも忘れません。モッフモフのフッワフワ!癒されます。





 旅をして13年たちました。


 私はとうとう、兄らしき人の情報を掴んだのです。

 それは3つ隣の大陸にいるとの情報でした。私は迷わず海を渡って大陸を超える決心をします。


「メロン、今まで本当にありがとう。貴方はここを護る神獣様。これでお別れですわね」


 名残惜しく、メロンを撫でまくっていると・・・メロンの身体が光って人化するではありませんか。

 相変わらずの美形です。


『私の主は・・・ショウ、お前だけ。神獣の務めはこの世界どこででもできる』


 まさか、神獣様は・・・


「メロン!いえ、神獣様っ 一緒に来るおつもりですか?私は兄が見つかったら元の世界に戻るかもしれません。そしたら神獣様どうされるのですか」



 神獣様は私を抱き寄せました。ちょ、美形が何をする。



『ショウ・・・お前が好きだ』



 なに言ってますのおおおお!?



「私は・・・今は男性ですが、元は女性です。こんな身の私のことが好きなど在り得ません」


 こんな身体は気持ち悪いでしょう?私はそう言うと、神獣様が抱きしめてくれている腕を振り払いこの街から・・・神獣様の前から姿を消す為に、身体強化を足に最大限に掛けて走り出しました。



 疾風と化した私に追いつけることはないでしょう。このまま大陸を渡ってしまいましょう。


 13年、一緒に過ごしてきた神獣様とのお別れは正直辛いです。ですが、私は・・・。

 私のこんな身体では、神獣様に釣り合わないのです。私だって本当は・・・いえ、止めましょう。



 遠くから、神獣様の『グアガアアアアアアアアッ』と吠える声が聞こえます。きっと怒ってしまったのですね。こんな小娘、でなく男?に拒否されたら怒るのも当然です。ごめんなさい・・・本当にごめんなさい。





 神獣様を置いて、しばらく走り続けると海が見えてきました。

そのまま高速で疾風のごとく海の上を走ることにします。きっと私なら走ってこの海を渡れます。


「 さよなら・・・神獣様 」


 小さく呟いて私は、砂浜を駆け、さざ波に足を踏み入れました。




『 ショウ 』




 耳元で、神獣様の声が聞こえた気がしました。


 いえ、気のせいではありません。龍化して跳んで来たのでしょう。



 フワリと後ろから抱きしめられた私は、神獣様と共にさざ波の中に転倒しました。


 勢いよく走っている身に抱き着かれると、こけちゃいますでしょ!何してくれやがりますかっ。



 私はキッと神獣様を睨みました。全身濡れてビショビショです。

神獣様も濡れていて、髪についた滴がキラキラ光り頬にツツーと落ちていきます。色っぽいです。



 ヤメテクダサイ。キュンってなっちゃったじゃないですか。




『 ショウ・・・』



 ヤメテ、そんな切なそうな声で私の名前を呼ばないで。



「 き、聞きたくない」



 神獣様は、私の腰に手を回してグッと抱き起こすと、私の顎をクイっと持ち上げてくれやがりました。



『 ショウが、男でも女でも なんであっても私は心変わりすることはない。ショウの魂を、心を、その全てを・・・愛している』



 ひいいいいぃぃやああああぁぁあぁああああっ



 もう、耐えられません。心も、濡れたこの身体も。


 抗えません。




 ですが、やっぱり逃げます!




 私は、神獣様をドンっと押し退けて立ち上がると沖へ向かって走り出しました。



 

 『 ショウ 逃がさない 』



 さすが、神獣様です。私は再度抱きしめられ押し倒されました。もう一度言います。

 押し倒しやがったコンニャロー!



 沖に向かって走っていたところを押し倒されたら、沈んでしまいます。

 

 私は神獣様に抱きしめられたまま、海に沈みます。太陽に反射してキラキラ輝く海の中を大小様々な綺麗な色の魚が泳いでいます。



 あぁ、きれい。


 海も、魚も。



 そして、私を抱きしめて顔を寄せてくる・・・神獣様も。



 神獣様は、そっと私の身体を抱き寄せて海面に浮上しました。

 プカリと浮いた私達の周りに波がたち、水飛沫がかかります。



『 好きだ 』



 私は何も答えられません。



『 好きだ 』



 私の瞳に涙が滲んできます。


 そっと、私に頬に添えられた神獣様の手が、指が、私の涙をすくい頬を伝い撫でます。


 軽く、ちょんと口づけられました。私は震える唇を少しだけ開けて文句を言おうとしましたが、声が上手くでません。


「・・・あ・・・」



 少しだけ開いた唇に、もう一度神獣様が口づけてきます。今度は先ほどよりも深くしっかりと。そして、何度も。




「神獣・・・さま」



『人化の時は、メロキスと呼べ』



 あぁもうっ、完全に捕まってしまいました。逃げることもう叶いません。


 こちらの世界に飛ばされてから、ずっとずっと一緒にいてくれた神獣様。

 私の大好きなモフモフになって撫でさせてくださった神獣様。『わん』って鳴くあのお姿も、龍になったお姿は・・・ツルツルでしたけど、人化したお姿も、男性であっても女性であってもそれはとても美しくて気高くて、世界と私にとても優しい神獣様。



「 メロキス さま 」



 唇がジンジンしてきました。いい加減に止めてください。




『ショウ、兄が見つかったら・・・今度はショウの性別を戻すための旅に出よう』



「も・・・元に戻れるのでしょうか」


『戻してやる。私が必ず・・・』


 

 ああ、叶うのなら・・・女性に戻ってメロキスの隣にずっといたい。ずっと側にいたいです。

 そして、これからも犬のメロンになってモフモフさせてください。





 ・・・とりあえず、どさくさに紛れて私の首筋に舌を這わすのはヤメロくださいおねがいします。


 

 


 

 

 

 やがて私は、神獣様と一緒に海を渡り、大陸を超え・・・


 契約獣と共に真封士一族が住まう、神社の結界の中でお兄様を見つけたのです。

 そこもまた、モフモフでいっぱいでした。




 「お兄様、神獣様・・・私、とても幸せです」

 


連載中の魔腐真封の世界で、脇役として物語が続きます。


読んでくださってありがとうございました。

感想ありがとうございます。

ブックマークと評価ありがとうございます。どうしよ、嬉しくて泣いてしまいそうです。


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[一言] 聖女(仮)と聖女(真)が放置されたのが残念
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