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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第二翔 [Wistaria EtherⅡ -魔王封印篇-]
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第十七羽【死弊白狐②】

 息せき切って辿り着いた神殿の外壁を見て、俺はひとつの絶望を味わうことになった。

 ……高い。竜騎士でもない限り登るのは無理じゃなかろうか。

 以前、城壁を越えるときに使ったアラバスタ風壁ジャンプは一人しか登れないし、助走距離も必要だ。何より、この外壁は人が乗れる前提で作られていない。つまり着地するスペースがないのだ。

 鉤爪みたいなアイテムを使ってどうにか昇降することも可能ではあるだろう。だが、ここは戦場だ。悠長に登り下りする時間はない。こうしている合間にも死兵共が迫りつつある。

 登るのが無理なら壊すのはどうだ? 着地するスペースがない分、壁は薄い可能性が高い。アリシアの馬鹿力で破壊することはできないだろうか。


「壊すのはやめておいたほうが身のためよ、ツバサくん。ここが封印に関わる施設だって聞いてるでしょ? 何がどう影響するか分からないわ」


 確かに、封印術式は未知のテクノロジーだ。壁を壊した結果、封印も機能しなくなりました、では目も当てられない。

 壁如き壊したところで影響が出るとは考えにくいが、万が一ということもある。穏便に済ませるに越したことはないか。……少なくとも差し迫った状況になるまでは。


「……となると、正規ルートで這入るとして、入り口は東の方だったか……」


 見ればわんさか死兵共がいる。もはやちょっとしたバイオハザードだ。……なけるぜ。

 さて、突っ込むとなると、前衛はアリシア、菊花。中衛に俺、リチア、ナズナ。後衛が、夕凪、ルリとなる。

 こうしてみると前衛の少なさが際立ったパーティだ。その分中衛が厚いので支援魔法バフは充分に掛けられる。

 問題は前衛の少なさゆえにタンクのチェンジができないことか。応急処置や装備の交換など後方に下がる時間が作れないためレイドとしてはの安定性はかなり低い。これは団体戦なんて考慮してなかったから仕方ないんだが……。

 しかし、個人単位での戦闘であれば、このパーティは相当強い。それだけは確信している。


 まず最初に仕掛けるのはアリシアだ。大槍に炎魔法を纏わせて豪快な突きを放つ。赤薔薇の一本槍の異名通りの一撃だ。喰らった骸骨共が7体ほどバラバラになって砕け散る。

 陣形が崩れたところに切り込むのは菊花。目にも留まらぬ早業で一体一体正確に葬ってゆく。菊花は付与魔法を得意としている。ナイフに聖属性を纏わせることで殺傷力に更に磨きが掛かっている。それだけではなく、靴にも付与魔法を使用することで回避力も増強させている。付与魔法は属性やステータス補正をアイテムに纏わせる魔法で、効果範囲が狭い。そして、効果も攻撃魔法ほどの脅威はない。その代わり、少ない魔力で運用できるので前衛向きの魔法なのだ。ひっそりと菊花に習得させていた。

 そして俺はというと、周囲に風魔法を展開させていた。これにより敵の周囲の風を乱して陣形を崩したり、味方の攻撃を補助させたりと大雑把な支援が可能となる。ただし、影響範囲が広いため発動は長くできない。魔力がすぐに枯渇してしまうからだ。魔力の回復には何かと時間が掛かるので、節約するに越したことはない。使わずに死ぬわけにもいかないが。

 リチアは聖魔法でアリシアや菊花の倒し損なった敵のトドメを刺す。スケルトン系の魔物は倒したつもりでもまだ動いたりすることがあるため、リチアが後詰めとしてわりと重要な役目を果たしている。

 ナズナも遠隔で火の玉を放つ。雷撃のほうは効果がないわけではないが、不死系全般の弱点として炎で燃えやすいというものがあるため、炎属性での攻撃を優先してもらっている。

 夕凪は遠方から長弓での射撃を行う。確実に脳天を打ち抜き、骸骨を死滅させてゆく。「来るなッ、来るなッ!」とやけに必死な声を上げているが、射撃のほうは正確無比なので意外と問題はなさそうだ。……気持ちは痛いほど分かるけどな。

 ルリは得意だという回復魔法で援護してもらっている。回復といっても、ゲームみたいに瞬時にダメージが回復するような便利なものではないため、使っているのは疲労回復などの地味めな魔法がほとんどだ。しかし、消耗戦でのこの援護は存外に重宝しそうだ。

 そうして戦い始めて十五分ほど経った頃、戦局は大きく傾くことになる。


 ……キン……ッ!


 そんなふうに耳鳴りがして、俺の頭が痛み出した。そして、直感した。ヤツが来たのだ、と。


「ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」


 鳴き声だか風の音だか分からない。だが、その強烈な存在感と、立っているのがやっとなくらいの暴風がその存在の来訪を告げる。


「来やがったな、女王サマ……!」

「グゥッ?! これは想像以上だな……ッ!」

「ナズナさん、援護に回ります」

「キカ姉、ありがと、ですッ!」


 俺たちは何も想定していなかったわけじゃない。俺は三度も相対しているんだ。対策の一つや二つ、考えてきてるんだぜ!

 まずは暴風域。これを俺の魔法で妨害する。あくまで軽減しかできないが、強烈なデバフを打ち消せるんならやらない手はない。

 だが、それでもこちらの多くの手を潰されてしまっている。

 アリシアの炎魔法は風で掻き消されてしまうし、夕凪の弓矢も届かない。菊花の速度も半減してしまい、殲滅力は大幅に低下する。

 けど、全ての魔法が効果なしになるわけじゃない。風に影響を受けない魔法だって存在する。

 例えば――、


「行く、ですッ!!」


 ナズナの雷魔法は、風圧には影響されずに攻撃が可能だ。

 暴風域を雷撃が走り抜けてゆく。

 直撃した雷撃は火花を上げて〈ワイバーン・ゾンビ〉の表皮を舐めてゆく。

 ナズナは次々と右人差し指から電撃を放ち、竜の表皮に傷をつけていくが、ダメージは軽微なものだろう。

 けど、それも計算済みだ。

 ナズナは溜めた左人差し指から特大の電撃を放つ。片方の指で牽制を行い、同時にもう片方でトドメ用をストックしておく。ナズナの得意技だが、雷撃は竜の足下へ向かってしまう。

 疲労故の失敗か。そんな落胆を思わせる竜の吐息がフシュル……と呻くが、それらは全て計算尽くだった。

 夕凪が水魔法で、電気を通しやすい液体を竜の足下へ流し込んでいたのだ。地面は風の影響をほとんど受けないからな。

 そして、水溜まりを中心に稲妻が迸った。攻撃に合わせて空気を薄くしておいたんだ。電撃は広範囲にダメージを撒き散らす。

 火花が上がり爆発が起こったが、竜は地に落ちる気配すらない。……ここまで影響が少ないのは、ちょっと想定外なんだが……。


「グギャォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!」


 とうに屍体であるとは思えないような啼き声を上げ、竜は生気のない瞳を俺へと向ける。

 そして、煙の向こうから鎧の音がガシャリガシャリと不吉な音が聞こえてくる。

 仲間を呼んだ、ってわけじゃないだろうが……。やたらと図体のデカイ鎧姿のスケルトンが姿を現した。


 〈スケルトン・ジェネラル〉。

 さすがに分かるぞ、これが所謂中ボスクラスの敵だってことくらい。

 腕に抱えた巨大な斧槍は、騎馬ごと真っ二つにするような超重量の武器だろう。人一人殺すにしては過剰すぎるスペックだろ、オイ……。


重鎧死将スケルトン・ジェネラル……、中隊規模で戦うような魔物だぞ……ッ!」


 アリシアが驚きの声を上げる。

 嵐竜の女王との奇妙な縁もここで切りたかったんだが、今度も逃げるしかないか……。囲まれたら絶体絶命だしな。

 逃げようと振り返って、気づいてしまった。リチアが余裕のなさそうな顔でさっきからずっと背後を見つめていたのだ。

 そして、その絶望の正体を見てしまった。


「後ろにも、ジェネラル……じゃと……?」


 夕凪の独白のような台詞が全てを物語っていた。

 〈ワイバーン・ゾンビ《テンペスト・クイーン》〉。

 無数の〈スケルトン・ウォーリア〉。

 そして、取り囲むように3体の〈スケルトン・ジェネラル〉。

 絶体絶命の包囲網が完成されようとしていた。

ちょっと敵に本気を出してもらったら一瞬で全滅しそうになった件について

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