第十五羽【極楽鳥花④】
突如現れた骸骨兵たちを一瞬で消滅させたのは、これまた美少女の従者だった。
リチアと名乗った少女に連れられて俺たちは王都へと向かう。
ちなみに道中は優秀な仲間たちのお陰で超絶ゆるゲーと化していた。そうだよ、異世界転生ものはこうでなきゃな! ……いや、転生じゃなくて転移か。記憶がないからどうにも感覚が狂う。
まぁ、元々エンカウント率の低い地帯だ。一度通った道だから魔物討伐系の熟練度も多少上がってるし、苦戦する要素は全くない。
「ここまで徹底して熟練度システムを追求している世界もそうはないわね。魔物を討伐して熟練度を上げると、その魔物に関する特効や耐性が生じるっていうのはあまり聞いたことがないし……」
そんな独り言染みたリチアの発言をアリシアは疑問符を浮かべながら聞いていた。
他の世界との違いとか言われても、普通意味分かんないだろうしな。仕方ないだろう。
「それにしても、いつの間にリチアさんたちもこちらへ来てたんですか? もっと早く合流できてたら色々と楽になってたかもしれないのに……」
「それ、言っちゃう? 菊花ちゃんには話してなかったかもしれないけど、あたしの使う異世界転移はツバサくんのと違って汎用性に欠けるのよ。どうしてもタイムラグが発生しちゃうからね。厳密に言えばあたしの能力は亜空間創造なわけだし……」
亜空間創造……? そういや、従者関係の話は全然聞けてなかったな。元々何人居たとか、どこら辺が普通の人間と違うのかとか。
「ふふ、その辺は到着してから話そっか。あたしの相棒もそろそろ待ちくたびれてる頃だろうし」
そんなふうに言われて、俺は何度目かのお預けを食らったのだった。
――
王都にて、腕を組みながらぐるぐると同じところを回り続ける少女が一人。
魔女のような恰好をした背の高い少女は、古風な言い回しで頬を膨らませていた。
「遅いッ! いつまで待たせるのじゃ! 我が相棒は……! 我が禁じられし終極の旋律を、そんなにその身に味わいたいのか!? 人の愚かさはとどまることを知らぬようじゃな!」
さすがに小一時間立ち尽くした所為か、周囲の視線は薄らぎつつあった。怪しむ人間もいるにはいるが、大抵は「おかしな人が待ち合わせでもしているらしい」程度の認識でスルーされていた。人の往来が多ければその分、様々な人種が通過する。これもその一つだ、と住人が認識するまでに充分な時間が経過していた。
――
王都への道すがら、リチアには根掘り葉掘り訊かれた。余すところなくバレたとも言う。
その巧みな話術にぽろっとこぼした言葉尻を捕まえて、「どういうこと?」と訊かれる。それに答えると、また新たな質問がぶつけられ、気づけば洗いざらい語り尽くしていたというオチだ。またその質問には無駄がなく、綺麗に必要な情報だけを抜かれ、それを補完する形でリチアの知識で上塗りされてゆく。
まぁ、早い話がここまでの話が共有されたということだ。
もちろんその間にもエンカウントは発生している。しかし、それはいつもと比べるとかなりまばらだ。
「いわゆるエンカウントにも法則性・規則性みたいなのがあるんだよツバサくん。それはたぶんどの世界でも一緒。リソースが限られている以上、無限沸きなんてのはそうそう起こりえないってことっ♪」
そんな会話の中でも鮮やかに敵を屠るリチア。以前苦戦した〈ロック・タートル〉が一瞬で溶けてゆく。後衛が居るだけでこんなに変わるものなのか……。
ナズナも負けじと〈ストーン・バード〉という堅い鱗のトリを冷凍魔法で凍り漬けにする。地に落ちたトリをアリシアの槍が粉々に砕いて散らした。
俺はというとすることがないので、アリシアの太ももを凝視する。プレートグリーブから覗く白い肌が眩しい。また、扇情的に揺れるスカートが視線を釘付けにする。見えそうで見えない。そうだ、これこそがロマンだ。見えないからこそ想像が胸を焦がし、情熱が心を燃やす。スカートの中は宇宙なのだ。深淵は誰にも見えず、誰にも侵せない。そう、謂わばそれは、絶対領域。
「ツバサくぅん? 悪いけど、そういうのは口を閉じてから頭の中で考えようね」
え……? ひょっとして今の声に出てたのん?
アリシアが頬を赤らめて俺から視線を逸らす。逆に菊花は俺のほうをガン見してくるものだから俺はそこから必死に視線を逸らす。
「そ、そろそろ王都だな。先を急ぐぞ! ほらっ、い、急ぐってばよ!」
おー! と俺に脳天気についてきてくれるのはナズナだけだ。ナズナたんマジ天使。なんならここにナズナ教を立ち上げるまである。
……そんな急ぎ足で王都の門へ近づいた俺たちを見下ろす一つの影があった。
影は俺たちの姿を確認し、息を弾ませて高笑いを始めた。
「ファーハハハハハ!!! よくぞ来た! 我が片翼よ!! さぁ、我と共に世界の深淵へ参ろうではないか!!! ファーハハハハハハ……!!」
……絶句する菊花。アリシア。そして、リチア。
ナズナだけは興奮を隠しきれない様子で上を見上げている。
そう、上だ。そこに人が居る。
城門の上。尖塔の屋根に人がへばりついている。……なんかアレだな。格好良さそうだから登ってみたけど思ったよりバランス悪くて格好つかないけど、降りるのも大変だからそのまま名乗っちゃったみたいな恰好だ。
そのうえ、ローブを纏っているとはいえ、その恰好はミニスカートだ。つまり、見える。深淵は今、目の前に繰り広げられている。さっき俺は見えないのが良いとか言ったな。済まんが、あれは嘘だ。見えても良い。いや、見えるのが良い。むしろ素晴らしい光景だ。俺は思わず手を合わせて拝んだ。仰ぎ拝んだ。
だが、魔女然とした少女は、そんなあられもない花園のことなど知るよしもなく、なおも尊大な態度を崩そうとはしなかった。
「どうした? 我が片翼よ。我が威容を前に臆したか? らしくもないぞ? 其方の実力はその程度なのか?」
少女が何を以てその程度と断じているのかは全く以て分からないが、そうまで言われたら引き下がれるか。俺の実力、見せてやろうじゃねえか。
「フゥーハハハハ! 臆しただと? お前こそ如何に狭量かという話だ! 貴様の前に立つ俺が、何の備えもないと思ったか? むしろ逆だ。全ての準備が整ったからこそ、貴様の前に現れたのだ! 教えてやろう、この瞬間こそがチェックメイトというヤツだ」
そんなふうにマッドサイエンティストっぽく嗤いながら俺は風魔法を周囲に発動させる。狙いはかっこつけ。それだけだ。周囲に風の奔流のようなものが生み出されそうな感じが出てさえいれば良い。それだけで、臨戦態勢の俺という姿を形作ることができる。服の揺れ方、髪の揺れ方。全てを計算尽くでやってのけた俺の奥義、貴様はどう返す……?
「ほ、ほう……。実に面白い。さすがは我が片翼よ。そうでなければ面白くならぬ……。…………さて、では褒美に、我が本気を見せてやろう。……じゃから、そのために……そのぅ……、えっと…………うぅ」
魔女は赤らんだ顔でそう言い、何故かそのまま屈み込んだ。地面を見つめて呆然とする。
「お、おろ……」
突然声がか細くなった。……え、なんだって?
「………………降ろしてたも」
夕凪は高所恐怖症ですが、なんか格好良さそうなので高いところに登りたがります。そして、降りられなくなります。ネコか。




