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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第二翔 [Wistaria EtherⅡ -魔王封印篇-]
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第十五羽【極楽鳥花②】

 待ち合わせの不運な事故として、擦れ違いというものがある。

 今、相手が何処にいるか分からない。そんな時に、動くべきなのか動かざるべきなのか。その一瞬の読み間違いが出逢いを大きく遠ざけることがある。

 遅れた男はあと二分で辿り着くはずだったのに、待つ女が探しに行ってしまって合流できず。探しに行ってしまった女を探しに、今度は男が探しに行ってしまい、女が戻って来る頃にはやはり誰も居ない。そんな擦れ違いが数回続いて溜息を吐く二人。傍に居るのに出逢うこともできず肩を落として帰宅する。

 ……そんなドラマでありがちなミスを防ぐにはお互いが携帯を持つか、相手を信じて待ち続ける根気が必要なのだろう。

 だが、それは一対一の場合のみの話だ。

 多対多であれば、解決策は他にも取れる。

 片方を待ち合わせ場所に置いたまま探しに行けば良いだけだ。それだけで確実に合流できる。

 つまりは、そんな話だった。


 手持ち無沙汰に王都の門前で腕を組む背の高い少女が一人。魔女然とした服装は彼女の目立つ容姿を更に目立たせていた。


「妾を待たせるとは、リチアのヤツめ! 一度思い知らせてやらねばなるまいな!」


 夕凪を名乗る少女はぷんすかと効果音が聞こえるくらいに腹立たしそうに腕を組んでいた。爪先で何度も石畳を叩いて、グチグチと不満を漏らしていた。

 それは「ちょっとツバサくんを呼んでくるからここで待ってて頂戴?」と言われたことに起因する。

 呼んでくると言われれば、何処か緊張してしまう夕凪だ。もちろんすぐに逢いたいし、なんなら今から走り出しそうなくらいにその顔が見たかった。だが、同時に少しだけ恐怖も浮かぶ。自分はまだ彼の心の中にスペースを残しているのか。忘れられたりはしていないか。もっとおめかししたほうが良いんじゃないか。そんな懸念が次々と浮かんでしまう。

 ゆえにリチアに掛ける「待った」の声が遅れてしまい、結果待たされることになったのだから、自業自得なのは確かなのだが、それで済ませられるほど夕凪に余裕はなかった。人の一生を遙かに超える年月を生きてきたリチアとは違い、等身大の少女としての十六年しか生きていないのだ。

 夕凪は前回の世界でツバサ一行に加わったばかりだ。それゆえに一番人生経験が浅く、言うなれば一番普通の人間だった。


「ふっふっふ……、我が魔道の深み、しかと味わわせてやろう……ッ!」


 不敵に笑うことでどうにかごまかそうとしたが、やはりどうにも落ち着きはしない夕凪だった。


――


 そんな夕凪の視線の遙か先で飛ぶように走る女が居た。

 ショートパンツにジャケットを羽織った、如何にも冒険者らしい恰好で、見た目は十代にしか見えない女性だ。

 金色の髪は短く肩口で切り揃えられていて、彼女の持つ健康的な魅力を更に引き立てていた。

 特筆すべきは容姿の美しさもさることながら、それよりもその速度にこそあるだろう。

 早馬と併走できそうなくらいの速度で少女が走っているのは、風魔法を併用しているのもあるが、それ以外にも様々な能力を駆使してのことだ。

 そして、その卓越した視力はすぐに捉えることになる。目的の人物を。

 最初に見えたのはアンデッドの大群。だが、それと対峙するのは長年連れ添った人物だった。思わず片翼などという単語が脳裏に浮かぶ。緩みそうになる頬をリチアは強ばらせた。

 恐らく、というよりはほぼ確実に、分かっていることがあった。それはツバサが翼白を酷使し不死鳥で蘇ったとするならば、その記憶が残っている可能性はゼロに近い状態であろうと。

 だからこそ、先行してここへ来たのだ。戦闘に巻き込まれているのは予想外だが、地形や時間的な観点から考えて合流できるのは間違いないと思っていた。

 そして、先に情報を知れば戦略も立てやすい。如何に相棒の負担を減らせるか、計画を練りやすい。相棒を置いてきたのはその為だった。

 なんなら、動揺するのを見越して敢えてツバサの名前を出したのだ。

 なのでまずは、この状況をどうにかしよう。

 リチアはそこまで思考を巡らせると、風の魔力を伴って空へと跳躍した。

 その耳に、僅かな風音が聞こえた。管楽器のような空気を振るわせるような音。

 しかし、そのときリチアは風切り音かなにかの錯覚だろうと、あまり気に留めることはしなかった。


――


 俺たちがアンデッド共と戦い始めて十分以上経過している。今までは短期決戦で戦闘を終わらせることが多かったから、集中力が途切れ掛けてきている。かろうじて、状況を維持できているのは、普段のトレーニングの成果だろう。長距離ランニングの訓練メニュー作っといて本当に良かった。

 こいつらの戦闘力はあまり大したことはない。基本さえしっかりしてたら当たり負けることは有り得ない。

 だが、問題となるのはその数だ。

 数の暴力。それは遙か昔から強力であると散々謳われてきた人類の英知だ。政治家も女学生もいじめっ子だって徒党を組む。

 数が多い。それはそれだけで脅威たり得るのだ。

 どうする? この状況が続けばいずれ決定打を食らう。そこから流れが狂わされることだってあるだろう。

 その先に何がある? 考えるまでもない。死だ。やり直しのきかないゲームオーバーが待ち受けている。

 このままだとまずい。何かしらの手が必要になってくる。

 とはいえ、どうすれば良い? この囲まれた状況をどう覆せば良い?

 ……一点突破か?

 それがいちばん現実的だろうが、リスクはもちろんある。

 隙がデカイし、それで突破しきれなかった場合、必ず手痛いしっぺ返しが待ち受けている。


「うぅ、バサ兄……」


 パーティの中でいちばん体力がないのはナズナだ。見たところ、若干顔色が悪い。……耐えるのは限界だな。仕方ない。

 リスクはあるが、突破しか道はなさそうだ。それ以外に具体的な解決策なんて浮かばなかったわけだし。

 俺は頭を切り換えて指示を出すことにする。


「アリシア、突破するぞ。俺が風で援護を掛ける。菊花は支援バフを頼む。ナズナは念のため帯電チャージを忘れるな」

「うむ、了解した」「はいッ!」「がってん、です!」


 それぞれに目配せし、タイミングを推し量る。

 起点は菊花だ。省略気味の詠唱から手早くバフを掛ける。

 身体が軽くなったのを感じたら、俺は一気に風を放つ。剣を構えながらだから全力は出せないが、多少の隙くらいは作れたはずだ。

 そこを……。

 アリシアの突撃槍が戦陣をこじ開ける。

 持久戦後だから、魔力付与まではできちゃいないが、気迫の乗った強烈な突きだ。

 骸骨兵共は散り散りに吹き飛ばされ、囲いがほどける。

 そこへ剣を振り回しながら、俺が乱入し菊花が走り抜ける。

 俺たちは苦境を脱しつつあった。

 がしかし。


 フォー……。


 それはフルートのような笛の音だった。

 目の前には吟遊詩人みたいな恰好をしたやつが一人。骸骨兵とは装いが違うが、群れている以上は同類だろう。……つまりは敵だ。

 だが、位置が悪い。

 アリシアの攻撃は骸骨共を狙って放たれた。その先で待ち構えていた敵にまで届くほどの勢いはない。

 そして……。

 敵のほうが上手だった。隙を完全に突かれた。笛の音にいざなわれるように現れた〈スケルトン・フェンサー〉の針のように鋭いレイピアの切っ先が、失速するアリシアの喉元へと伸びてくる。

 いくらなんでもギリギリすぎる。こんな瞬間的に爆風は作れない。もちろん剣も届かないから、俺にはアリシアを守ることができない。

 菊花は素早く反応した。が、アリシアと敵の位置があまりに至近距離だった。菊花の神速を以てしてもアリシアには届かない。敵には言わずもがな。

 ナズナの雷撃も速いが、生憎とアンデッドには電気の効きがそもそも悪い。慌てて放った雷弾はロクなダメージにもなっていない。

 誰もが絶望し、諦めかけた刹那。そいつは現れた。


「貴方ともあろうかたが、珍しいこともあるものね」


 さも何でもないかのような口振りで、目前の骸骨を蹴り飛ばした美少女が一人。

 キラキラと輝くような金色の髪を肩口になびかせて、少女はその黄金色の瞳を俺へ向けた。


「久しぶりね、ツバサくん、菊花ちゃん。ストレリチア様のお出ましよ」

ようやっと本名出せました。ストレリチア、通称リチアさんです。

花言葉は万能。ということで、古くから従者としてその役目を担ってきた美少女、というか美女。今後の活躍に乞うご期待。って未来の自分に向けてプレッシャーを掛けてみる。

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