第十五羽【極楽鳥花①】
王都レイムガルドは3つの国家の国境上にある。
セシル教導公国、ヴィクトリア帝国、アレクサンドリア皇国。この三つの国家が様々な事情により手を組んだことによって集合国家レイムガルドが誕生した。
そんな歴史を知ったのはつい最近のことなのだが、そういう知識を得てから地図を見ると南側――セシル側は宗教的な設備が多く、教会や催事場なども多く見られる。ヴィクトリアは比較的新しい国家で新しい文化を取り入れることに抵抗が少ない。その結果商売人が多く出入りし、商業が発展している。アレクサンドリアはというと、伝統工芸や工業を古くから伝えゆく風潮が根強く、蓄えた技術力が物を言う土地で、工房などが多く存在している。
地図を見ながら俺たちはそんな話を繰り広げていた。そういった知識はアリシアが一番知っているので、いろいろと知識の摺り合わせを行っていた。
本から得る知識では、客観性に欠けるのでこの手の作業は外すことができない。
王都までの道程はそれほど長くはない。往路が数日掛かるなんてザラにある異世界では数時間の移動は近距離の範囲に入るだろう。
「むむ! ツバサ様、敵ですっ!」
菊花の声に気づいて俺が地図をしまう間に、アリシア・ナズナはとっくに戦闘態勢に入っていた。
出現した魔物は〈スケルトン・ナイト〉に〈グリーン・スライム〉だ。
どちらも通常エンカウントレベルの雑魚敵だ。〈スケルトン・ナイト〉は武器を持っているが動きは緩慢で防具以外の部位は脆い。〈グリーン・スライム〉は打撃にはめっぽう強いが、斬撃や魔法に弱い。せっかくだから熟練度稼ぎの餌になって貰おうか。
「いつも通り稼ぐぞ!」
「はい!」「うむ!」「りょーかい、です!」
各々に頷いてくれる。もう慣れたものだな。
まず、菊花が支援魔法を掛ける。
「彼の者に風の刃を授けん……! 〈ウィンド・エッジ〉!」
パーティの武具にそれぞれ風の追加攻撃が付与された。見た感じはかなり地味だが、斬撃系の攻撃力が上昇するバフだ。
続いて、アリシアが右腕を突き出して掌をスライムに向ける。
「炎天を望むは大過なる戒めと知れ……、日輪の名の下に全てを焼き尽くせっ! 〈バーニング・アルカナム〉!!」
アリシアが使ったのは炎魔法だ。いまだ制御が苦手な所為か自分の腕も焼いているが、威力は高い。詠唱も混戦にならなければそこそこ速いんだが、そこも課題の一つか……。
一撃で焼かれプスプスと蒸発するスライムの隣へ、一気に近づく影が一つ。
ナズナがナイフでスケルトンの細腕をスパッと両断する。
初手で剣を持つ腕を処理できたのは良いが、残った盾のほうで殴られてナズナはノックバックした。
ナズナの悲鳴が短く上がり思わず手助けしたくなるが、ナズナの成長のために歯を食いしばって耐える。
体勢を整えたナズナはナイフを構え直し、身を低く伏せる。その姿はオオカミの耳も相まってどうにも野生の獣のように映る。
やがて焦れたスケルトンが先に動き出したが、ナズナは冷静に受け流して返す刃を胴体に叩き込む。
倒した魔物からドロップ品などを整理している仲間たちを尻目に、俺はそんな戦果を分析する。
菊花の支援を伸ばし、アリシアの魔力を伸ばし、ナズナの接近戦を鍛える。方向性は悪くないはずだ。成長の兆しも見えてきている。
ただ、支援に関しては分からないことも多い。そもそも、支援も魔法であるなら術者と対象の魔力が干渉しないのは何故なのだろうか。
攻撃魔法同士ははっきりと干渉する。それはこの世界でも常識であるくらいだ。
ゆえに魔法は複数人で同時に打ち合ったりはしない。掻き消されて無駄撃ちになってしまうからだ。
しかし、支援魔法は何故か干渉しないらしい。同じ魔法なら使用者と対象の魔法が干渉して打ち消し合ってしまうはずなのに。
本を紐解くと、攻撃魔法のみ干渉すると書かれていたが、なんだか違和感が募る。
疑問を感じて賢者に訊いてみると、どうやらそれは魔法の内容が違うかららしい。
つまり、攻撃魔法と支援魔法では、発現の仕組みそのものが違うらしく、そのお陰で干渉しないということらしい。賢者曰く、エネルギーそのものが別物なんだそうだ。良く分からん。
もう少し理解が進めば、俺にも支援魔法が使えるかもしれないんだがな。俺が支援代わりに使っている空気を薄くする魔法も攻撃魔法に入るらしく、他の魔法の影響を受ける。どうにも歯がゆいところだ。
「ツバサ様、また魔物の気配ですっ!」
またか、多いな……。
カラカラと不気味な音を立てて骸骨の兵士たちが現れる。また〈スケルトン・ナイト〉か……。面倒だな。たまには俺も参加するか。
俺は厳つい鍛冶師に打って貰った愛用の剣を構えて兜割りで一体を切り崩す。続いて横に現れた新手を蹴りで距離を稼ぐ。反対側から迫っていた一体を払い胴で仕留めて、最後に距離を稼いでおいた一体の頭蓋骨に剣を突き入れる。
剣を振り抜いて仲間たちに向き直ると、同時にゾブリ、と嫌な音がした。
「ツバサ様っ!?」
その声に反応する時間すらない。足に絡んだホネの感触で俺は背筋に怖気が走った。
地面からゾワゾワと湧き出てくるのは無数の骸骨たちだ。〈スケルトン・ウォーリアー〉。さっきまでの骸骨よりも装備が重装備だ。心なしか図体もデカイような気がする。
「――ぉぉおおおおっ!!」
アリシアの槍が閃き、俺の足を掴んでいた骸骨兵士はすぐに崩れ去る。が、それよりも湧き出る数が尋常じゃない。どうなってやがる――ッ!?
俺は尻餅をついてしまった体勢からどうにか立ち上がり、すぐに臨戦態勢を取る。
状況は唐突に混戦となっていた。
何が起きた? どうしてこんな状態になる――?
疑問に答えてくれる親切な人間はいない。
訳も分からず、俺はただ無心になって剣を振るった。
――
その遙か北方――。
無数の骸骨兵が軍勢となって闊歩していた。
整然と組まれた陣形を保ったまま、東へ東へと歩を進めてゆく。
その構成は鎧を纏った〈スケルトン・アーマー〉や、〈ドラゴン・ゾンビ〉に騎乗した〈スケルトン・パラディン〉など、一流の冒険者でも苦戦するような魔物たちも含まれている。
中でも、その中央で〈ワイバーン・ゾンビ〉に跨がった男だけが異色を放っていた。
一人だけちゃんと肉体を持った生者である、という点もそうだが、血染めのような赤黒い甲冑とその男の放つ気配が周囲の魔物すら遠ざけてゆく。
まるで、鋭敏に気配で察したかのようだった。……この男の危険性を。
ゾブリ、ゾブリ……。
歩く端から一軍が増えてゆく。地中からカラカラと骨を鳴らして次々と不死系の魔物が軍勢に加わってゆく。
軍勢は今や、千に上ろうかというほどに大所帯となっている。それが初めはたった一人の男から始まったとは、誰にも想像できなかっただろう。
赤黒い甲冑が飛龍のうえでぼそりと呟く。
「さて、勇者とやらは我輩の飢えを抑えきれるのかどうか……。実に愉しみであるな」
甲冑の先に見えてきた封印の神殿を見下ろしながら、男は笑みを浮かべた。




