第十四羽【絶対王者⑥】
上昇気流と共に階上へ上がると、そこは偶然にも目的の場所だった。
まず目についたのは、やはり予想通りに襲撃を掛けていた三人組の一人、あの猫娘のミケだ。
運良く気流に巻き込んだらしく、多少のダメージは入っているっぽい。まぁ、気休めかな。
そして、その反対側では鎧姿の騎士たちや年若い女性たちが蹲っている。その中央にはやつれた感じの男が座り込んでいる。……一応間に合ったと見て良いのだろうか。
「また、お前らかにゃ。ちょうど良い、そっちの魔族も解放してやるにゃ」
「バ、バサ兄はナズが守る、です!」
気持ちはありがたいんだが、それで向こうはさらに機嫌が悪くなってる件について。
「魔族をそこまで従属させるにゃんて、相変わらずのクソっぷりだにゃ。けど、お前の悪行も今日で見納めにゃ。覚悟すると良いにゃ」
本当にこいつは、どこまでも人を信用しないな。説得は不可能。まぁ予想はしていたけれども。
そして、ミケは瓦礫を押しのけると襲いかかる間も惜しいかのごとく、そのまま雷撃を放った。
案の定、その雷撃の威力は凄まじい。ナズナが全力で魔力を溜めたとしても太刀打ちできるかどうか。
だがもちろん、そんな力比べなど必要ない。戦いにおいて重要なのは如何に公平な状態で勝ち抜くか、ではない。
如何に自分に有利な状況を作り上げるか、である。
地力の差を覆す必要などない。要は勝てばいいだけの話なのだ。
だから、俺はその雷の渦を誘導する。
こちらにダメージが及ばないようにあしらい、敵に隙を作る。
ナズナがそこへ右腕から放った電撃で攻撃を加える。
威力はあまりない攻撃だ。ゆえに、ミケは煩わしそうにそれを払いのける。ダメージはほとんどないだろう。
そんな嫌がらせ染みた攻撃に、ミケは段々痺れを切らしてきた。
そこへ。嫌がらせ第二弾だ。
風を駆使して作り上げた空気の薄いスポットへ、ナズナが電撃を放つ。
瞬間、真空放電に近い現象が起きて火花が爆ぜる。
ダメージは少なくとも、攻撃のための溜めが妨害される形だ。
「小癪な真似を、しやがるにゃ……ッ!!」
だいぶキレ始めたミケが、距離を取った状態を嫌って、接近戦で確実に仕留めようとしてくる。
が、もちろんそうなるように仕向けていた俺はトラップを発動させる。
「トラップカード発動!! ハーピィの羽根箒!! お前の罠を破壊するぜ!!」
まぁもちろん意味なんて通じないだろうけどな。形式美というものはやはり大事だ。
俺はミケと俺の間に魔力溜まりを作っておいたのだ。そして逆に上方には魔力の薄い空間を。
さっきと同じで上昇気流を作る魔法だ。平行して作っておいたのさ。
この世界に来て、風魔法だけは人並み以上に操れるようになった俺だ。それを鍛えない手はないだろう。
あのときと同じだと思うなよ、三下ァ……ッ!!
上昇気流がミケの小さな身体を浮かび上がらせる。
当然ヤツが放とうとしていた雷撃は空を掠るだけだ。雷撃は空気中も走るが、空気が薄いのは上空だ。より電気が流れやすい上方の壁へと吸い込まれてゆく。
そして、そこから更に気流を操り、ナズナとミケの同線上の空気の層を薄くする。
先ほどからの攻防でナズナには右手からの電撃を多用させた。本当は両腕で使えるにもかかわらず、だ。
理由は簡単。今の今までずっと溜めさせていたからだ。ミケの雷撃に相当するくらいの魔力の凝縮を行わせるために。
ナズナが左腕の人差し指をミケに向ける。そこで初めてミケの顔が驚愕に彩られる。
ナズナの放つ雷撃が、ミケを呑み込まんと解き放たれる。
だが、ミケも甘くはなかった。俺が作った雷撃の通り道に向けてミケ自身も雷撃を放った。
電気と電気がぶつかり合うことなど、自然界にはないのかもしれないが、魔法の元は自身のエネルギーだ。それは元々反発し合う性質を持っている。
雷撃と雷撃が鬩ぎ合い、暴食の限りを尽くそうとしている。
二人とも更なるエネルギーを送り込み相手の雷撃を吹き飛ばそうとしているが、近しい威力の魔法同士は互いを食い合い、動こうとしない。
まずいな。
このままじゃ、やられるか?
ナズナを信じたいが、俺にできることはないだろうか。雷撃に干渉すれば俺は邪魔にしかならないだろうし……。となれば妨害の選択肢は限られてくる。
いや、妨害だけが選択肢でもないか。俺はナズナのその小さな肩を両手で支えた。
「心配はいらない。俺が支えててやるから、お前は魔法に集中しろ」
「……ッ! はい、ですッッ!!!」
そんな俺の言葉が効いたのかどうかは知らないが、膨らんだナズナの雷撃がミケの魔法を食らい尽くし、強烈な爆風と共にミケの身体を吹っ飛ばした。
ピコンと何かのステータスが上昇したような音が聞こえたが、熟練度が上がったときのいつものメッセージは表示されなかったな。
ともあれ、これで一段落かな。さて、菊花たちはうまくやっているだろうか。
――
間髪入れずに飛び込んでくる風の大砲と水の大砲。
それらは地面に大穴を開け、大樹を薙ぎ倒し、鉄の柵までもへし折ってゆく。
菊花たちの戦いのほうはというと、敵の放つ魔法の放射に防戦一方となっていた。
「〈風刃閃〉ッ!」
回避しながらの菊花の遠距離攻撃は、威力は少ないが射程が広いため牽制にしかなっていない。
狙われたシェリーは容易く回避するが、そこまでは読み通りだった。
誘導された場所は、壊れかけた屋根の上。
ミシリ……と傾ぎ、そこへアリシアが槍を抱えて待ち構えていた。
アリシアの攻撃の最大の利点はその威力にこそある。
ならばそれの活かし方はいかに当てるかに終始する。
たとえば、不得意であれ操作が困難であろうとも、槍に炎を纏わせることができるのなら。
集中させれば炎を火柱程度にはできるのなら。
それを攻撃の瞬間に暴発させれば良い。それだけで充分な必殺技に成り得る。
アリシアは持てる魔力を総動員させてその槍に魔力を込める。メルビィから買い付けた炎魔術が強化される〈火精霊のピアス〉が僅かな光芒を放つ。
操作が苦手な分、槍が赤熱し腕にも熱が伝わるが、丈夫な革のグローブくらいは用意してある。
――一撃くらいなら、耐えられるはずだ!
「喰らうが良いッ! 〈バーントルネイド〉ッッ!!」
シェリーは咄嗟に放った水魔法で回避しようとするが、そんな短い詠唱時間で防ぎきれるものではなかったらしく、豪快に吹っ飛んだ。
「くっ、シェリーッ!! 風よ、その柔らかなる衣で彼の者を包み込め……ッ! 〈スプレッド・ブロウ〉!!」
ビリーの放った風の援護魔法によって、吹っ飛びダメージは軽減されたらしく、シェリーは外套の下に隠してた翼を広げて着地した。
仕切り直しとなった四人がそれぞれ睨み合う中、落雷のような音が響き、戦闘が一時中断される。
焼け焦げた恰好のミケが覚えとくにゃ、などと言いながらシェリーとビリーを巻き込んで逃げ去って行く中、菊花とアリシアはツバサたちのいる館の中へと急ぐのだった。




