第十四羽【絶対王者②】
王城へ伝令が現れたのは、王が事務仕事を一区切り終えて昼休憩を挟もうとした頃のことだった。
謁見の間にて、頭を垂れた伝令の言い分を聞き届けたセイベルンは、王の前ではあったがやはり平静を保つことはできなかった。
「領主の嫡男が魔族に襲撃された、だと……ッ!?」
「はい。ですが、……安否は不明です。なにぶん、すぐに助けを求めるよう言われたもので……」
「……何故王都へ? 襲われたのは城塞のすぐ近くだと言っていなかったかな?」
王の質問に、更に畏まってしまう伝令だったが、しどろもどろになりながらもどうにか答えてくれた。
「そ、その……、襲撃はどうやら待ち伏せをされていたようでした。……なので、遠くとも王城を目指すほうが確実かと思いまして……」
「……では、そのぶん時間が足りないね……。セイベルン卿、救助隊をすぐに編成したとして、間に合うと思うかい?」
「いえ……、畏れ多くも陛下、嫡男であられるウォルター様が付近の館に逃げ延びていたとしても、……馬での往復の時間を考慮すると、難しいかと」
王は静かに頷いた。
「ふむ。こちらからの救助は難しいか……」
「恐らく。城塞からの救助が見込めれば、可能性はあるのですが……」
「も、申し訳ありません。私が王都を頼らずに城塞へ助けを求めいれば……!」
今にも泣き崩れそうな伝令兵を、王は手で制した。
「過ぎたことを言っても始まらないよ。それに、……確かキミは王都で任に着いていただろう? どこかで見た顔だ。だから我々を頼ってくれた。そうだろう?」
「へ、陛下ッ!? 私のような者までその眼に留めていたのですか!?」
「名前まではさすがに把握してないけどね。こう見えて記憶力には自信があるのだよ。……ところで、セイベルン卿。一つ訊きたいことがある」
「ハッ! 何でしょうか!」
騎士は力強い敬礼で呼びかけに答えた。
「王都からの救援では厳しい。キミはそう言ったね」
「ハッ! 可能な限り最速の馬を用意して救援に向かいます!」
「いや、その必要はない。救援隊は別のところに心当たりがあるからね。だから、キミにはその救助隊への増援部隊を指揮してもらいたい」
「……は、御意に」
セイベルンは若干肩透かしを食らったような心地がしたが、そのまま部屋を辞したのだった。
――
ラグナ城塞。そこはトータス領が魔族に占領されて以来、対魔族戦線における重要な拠点となっていた。
そもそも、ここに城塞が建てられたのはここが国境であった時代、100年以上前の話になる。
当時は、国同士がまだ対立した状態で、ピリピリしていた時期もあった。そのための守りの要として作られたらしい。
巨大な城壁に守られた頑丈な城。今まで落とされたことは一度もないらしいが、あの魔王が現れればその伝説はいつ覆されてもおかしくないだろう。
そんな石造りの街、ラグナ城塞の様子はというと少々物々しい雰囲気となっていた。
住人はどこか口数も少なめで、そもそも出歩いてる人が少ない。街中を見れば重々しい鎧に身を包んだ騎士ばかりで、華やかさの欠片もない。
「以前買い出しに来たときは、もう少し普通だったように思ったのですが……」と、菊花が呟く。
ああ、そうか……。それは俺がマグにボコボコにされていたときの話ですね、わかりますん。
「なぁ、そう言えばナズナ。婆さんには会いに行かなくていいのか?」
「だいじょーぶ、です。まおーぐんをなんとかするのが先、です!」
「……健気なのはいいことだが、もう少し甘えたって罰は当たらんぞ?」
「そうですよナズナさん! 辛いときはいつだって言ってくれて構わないんですからねっ!」
しかし、ナズナは一向に頷かない。むしろ意固地になっているような……?
「さぁ、とっとと先に行く、です! 早くたたかい終わらせる、です!」
照れ隠しとも思えるが、成長という見方もできるか……。まぁ、無理に会わせる必要もないんだけどさ。
それに……。
「まぁ、ナズナ。急ぎたい気持ちも分かるが、俺たちのここでの目的は情報収集だ。まずは宿屋で腰を落ち着けよう」
勢いを挫かれたナズナはというと、唇を尖らせて押し黙ってしまった。……つ、つまんでみたいなぁ。あの小振りな唇を……。
まぁ、これ以上怒らせるわけにもいかないか……。……もったいないけどな。
などと、考えていると、ボフン! と、巾着袋が音を立てた。
「ふっふっふ-。つまみたいだろう? このアヒル口を! さぁ、ちょっとだけならいいんだよ? どうだい? どうなんだい?」
俺の中で何かが切れた。もうどうでもいいや。
「ふっふっふ……。ツバサくん、キミにもこの魅惑のバディーの魅力が分かってきたようだねぇ。こんなサービスは今だけ……、ちょちょっ! やめてよこんなところで! そんな! そこをそんなふうに広げちゃらめぇ! あふん! 声が聞かれちゃうよぉ!」
結論。本物のトリじゃないからかもしれないけど、こいつのクチバシは90°以上開くらしい。実に興味深い実験結果だった。
――
そんなこんなで賢者からの話があるとかで、俺たちは宿の部屋の中に集まっていた。
「次は180°以上曲がるかどうかの実験だな……」
「いや、それホントに死んじゃうから! よく考えて! 物理的にヤバイでしょ! 見た目的に大分エグい絵面になるって少し想像すれば分かるよね!」
「……塩焼き、です?」
「イヤァァァアアア!!」
ナズナがきょとんと小首を傾げて尋ねると、途端に賢者が白い目になった。はは、ざまあ。
「賢者殿のクチバシの件は置いておくとして、話を進めてもいいか?」
神妙な顔つきになったアリシアに俺は頷いて答える。
「ああ、些細な話だからな。進めてくれ」
「うむ。では、話してくれないか、賢者殿」
どこかで「些細って……酷いよぉ……」とかなんとか聞こえた気もするが、気の所為だろう。
「はぁ、仕方ないね……。国王からの要請だよ。これから君たちには貴族を一人救って欲しいんだ」
「な……ッ! こ、国王陛下、だと……ッ!?」
細かいところは良く分からんが、どうやらここの領主の嫡男が城の外の別荘的なところに遊びに出掛けていて、そこに魔族の襲撃があったらしく救助を求めているらしい。王城からでは間に合わないそうだから、俺たちにお声が掛かったという状況らしい。
「この情勢で遊びに出掛ける貴族のほうがどうかしてるだろう。見殺しで良いんじゃね?」
「いや、そうもいかないだろう。相手は貴族だ。要請を断るわけにはいかない。それに、人助けは騎士の務めだ。私はそれを果たさねばならない」
「……あの、ツバサ様、ここの領主様に救助をお願いすることもできるんじゃないでしょうか?」
それは良い案だと思ったのだが、賢者が首を横に振った。うぜえ。
「ここの領主は激情家だからね。言えば大軍で救助に向かうだろう。そうなれば向こうはどう出るかな。貴族が人質に取られていた場合、襲撃者がどういう行動に出るか、分かるかい……?」
そこで全員が押し黙る。
余計に刺激すれば、ネズミだってネコを噛む。勢い余って人質を殺してしまう可能性もあるわけか……。
そうだよな、時々忘れそうになるが、ここはゲームのようでゲームではない。リアルに人が死ぬ世界なんだ。
打つ手次第では、人が死ぬんだな……。
「……助けるしか、ないか……」
「この人数の少なさは利点にもなる。目立たずに近づいて襲撃者だけを無力化できればそれだけで勝てるのだ」
「……微力ながら、お手伝いします」
「ナズもがんばる、です!」
様子を確認した賢者はバサっと羽ばたくと「それじゃあ、国王にそれを伝えておくね」と言い、煙を上げて姿を消す。
残されたビー玉がころころと転がり、無邪気な光を放っていた。
そういえば思うところあって小説のタイトルを変更しました。翼白のツバサと改題しました。こっちのが分かりやすいかなーと思って。




