第二羽④
〈熟練度〉システムの効用はまだよく分からない。
しかし、俺と菊花の熟練度には大きな違いがあった。
〈まるうさぎ〉系列の熟練度が大きくずれていたのだ。
考えられる要因は二つ。
俺の知らないところで、菊花がまるうさぎを殺戮していたか。
あるいは、じゃれ合って遊ぶことでも熟練度が向上するのか。
俺は菊花を凝視したが、まぁ殺戮云々は考えられないだろう。
俺が寝てるとき以外はずっと俺の傍にいたし、アリバイはある。
というか、それ以前にそんな物騒なことをしでかすキャラには見えないしな。
まぁ相手がオオカミだった場合はあり得そうだけども……。
とにかく、その差異によって、菊花は知識を得ていた。
おそらくは熟練度によって解放されたスキル、〈魔物知識〉によって。
菊花から聞いた話はこうだ。
元々林に住んでいたウサギたちは主食量の枯渇により移動を余儀なくされた。
が、林の外には草原が広がっており、草原はオオカミの住処だ。
オオカミに襲われ、ウサギたちは数を減らしつつある、……というのが現状らしい。
疑問に思うのは、ウサギたちの食べ物がなくなったという点。
そこに解決策があるのだろう。
次なる方法としてはオオカミの殲滅というのもあるが、自然界にそこまで関わるのはよろしくないだろう。
あと、正直怖いってのもあるし。……オオカミさんも菊花さんもな。
そんなわけで、林へと入ってきたわけだが、獣道しかないので、どうにも狭い。視界も悪い。
おまけに背の高い草や枝が、顔に引っ掛かるし、通りづらいことこの上ない。
それでも、菊花はやる気だし、逆らうのも怖いので、従うことにする。
……俺ってば将来尻に敷かれるタイプなんだろうか。
菊花みたいな美少女になら敷かれるのも悪くないし、いっそ喜んで敷かれるどころか踏まれにいきたいし、何なら蹴られにもいきたいところだけど。
……閑話休題。しょうもない話はやめにしとこう。
そうしてしばらく進んでいると(途中フォレストゴブリンやらリーフオニオンなる初見の魔物も倒したりしながら)、正面に腐った大木の洞が現れた。
大木といっても、その幹はもうほとんど残ってない。根元だけが残されているようだ。
その根元には穴が開いており、そこからは洞窟のように内部へ広がっているらしかった。
中身は暗いかと思いきや、妙に幻想的な光に包まれている。
壁面にこびり付いた苔が光っているらしい。ヒカリゴケとかいうヤツか? こんなに明るく光るもんなんだろうか。
そしてその内部は、更に幻想的な空間が広がっていた。
一面にまるうさぎ。まるうさぎ。まるうさぎ。
まるでまるうさぎの絨毯やー! なんて言葉は呑み込んだ。菊花さんのリアクションが怖いので。……と思ったら。
「まるで絨毯みたいですねー」
菊花は明るい声を上げる。いいのか、それで。基準がよく分からん。いや、触れないほうが吉か。
まぁ、それはさておき。
広さは大体学校の教室くらいだろうか。そこにまるうさぎがわんさか居て、正直足の踏み場がない。
俺が呆気に取られていると、菊花はウサギを踏まないように器用な足取りで洞穴内に侵入していた。
顔はこれ以上ないというくらい爛々と輝くような笑顔で。
……はぁ。なんか疲れたな。
菊花がウサギにまみれて遊んでいる間、俺もすることがないのでウサギと遊んでいた。
撫でるとわふわふーっと跳ねて、擦り寄ってくる。人懐っこいな、コイツ。
それに当たり前だが、結構あったかい。
人間より体温は高めなんだろうな。
身体は柔らかいが、クッションみたいというよりは、……うーん、なんだろう。風船みたいな感じがする。
思った以上に張りがある。中に何が詰まっているんだろうか……?
脂肪……? いや、筋肉? 骨……の感触はないんだよな……。軟骨みたいなのはあるのかもしれないけど……。
耳や顔の近くよりも、腹や背中を撫でられるのが好きらしい。ゴロゴロと腹を見せて転がっている。
……この無邪気な感じ。やばいな、相当癒される。
菊花のことは何も言えないな。俺もあのオオカミなら殺戮できる気がする。なんなら瞬〇殺とか浴びせてやりたいもん。おのれクソオオカミめ。腹でも裂かれて死んだらいいんだ。
……さて、そうこうして俺がリラクゼーションに徹していると、菊花が戻ってきた。もっとゆっくりしてても良かったのに……。
「ツバサ様、大変なことが分かりました」
それなら俺も分かったよ。
やはりウサギは至高の生命体だ。断固保護するべきだ。ウサギを狩るものには神罰を下し、ウサギまみれの聖域を建立するべきだ。それこそが俺に与えられた使命なのだ。それこそが俺の生まれた意味なんだ。
「この子たちの食べ物を奪った原因は、先程の村にあるようです」
……え? なんだって?
まるうさぎってさ、どう考えても某○剣伝説のラ○にそっくりなんだよな。
「確かL○Mだと育成もできますしね。前の世界でやったのを覚えてますよ!」
そっか。一部の知識でも共有できるってのはありがたいことだな。
「ゲームのキャラと違うのは、襲ってこないっていうところくらいでしょうか」
そうだな……。他は大体似通ってるし、違いを探すほうが難しそうだ。
「色の違いには、見た目以外の違いがあるんでしょうか。わざわざ個体名も分けられているみたいですし、個性があるのかもしれませんね」
個性ねぇ。ここの巣にいたのは白、茶、黄、桃、緑……。それなりにカラフルだよな。
「う~ん……、いま聞いてみたところ、混血が進んでて違いらしい違いはないみたいです。遥か昔、遠い祖先の話であれば、違いもあったそうなんですが……」
魔物にもいろいろあるんだな。
遥か昔の話、ねぇ……。
行く機会はなさそうなもんだが……。
「古代のまるうさぎですか……。ツバサ様、いつか絶対、一緒に行きましょうね!!」
……その笑顔は反則だろ。
いや、なんでもない。
そうだな。素晴らしい世界だ。いつか必ずそこへ行こう。
そして、築くんだ。まるうさぎの、まるうさぎによる、まるうさぎのための帝国を。
そうだ、俺は神になる。まるうさぎ王に俺はなるッ!
「はいっ! 私もお供します!」