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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第一翔 [Wistaria Ether -魔王顕界篇-]
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第十羽【逢魔ヶ時④】

 魔王の戦い方を一言で纏めるならば、馬鹿げた戦い方だった。


「ヌゥゥウウウンッッ!!」


 大振りの拳は地を砕き。


「ハァアアアアッッ!!」


 振り払った腕は全身鎧の騎士たちを塵のように吹き飛ばし。


「ゼェェエエエエエエイイイーーーッ!!」


 騎馬の脚を掴むとそのまま力任せに放り投げる。

 戦闘の常識は、一切合切が覆される。人知の及ばぬ境地。禍々しさは魔王と呼ぶに相応しいほどだった。


「どうやって相手にしたらいいんだ……」

「あんな化物に勝てるわけない……」

「もう無理なんだ、人間の時代は終わるんだ……」


 耳を澄ます必要なんかない。どこからでもそんな諦めの声が聞こえてくる。

 投げ出すことは簡単だ。捨てることは実に容易い。

 そうして妥協した幸せを掴むことを間違いだとは言わない。けれど……。

 アルスはそれでも勝利を譲るわけにはいかなかった。


「皆、無理して戦う必要はない」


 そんなアルスの言葉に、騎士たちは戸惑った。

 諫める立場ではないのか。意固地になって戦い続けろと、そう言う役割ではないのか。

 アルスは首を振る。


「諦めることは正当な権利だ。それは僕にだって奪えない権利だ」


 いつの間にか怨嗟の声は、止んでいた。騎士たちは誰も彼もがその声に耳を傾けていた。


「帰るべき場所もあるだろう。護るべき者もいるだろう。そのために生きてくれ。それこそが本当の騎士道なんじゃないか……?」


 騎士たちはそれぞれに思い浮かべる。故郷に残した両親を。弟妹たちを。愛する恋人のことを想う。


「いつだって思い出せるだろう? 皆の一番大切なものを……。僕はそれのために戦う。戦い続ける。何故ならそれが勇者だからだ。この身体を流れる血の運命さだめだからだ」


 周囲にどよめきが走る。勇者は自分たちのためにその身を盾にしようとしている。強大な敵に立ち向かおうとしている。

 だというのに、自分たち騎士はどうなのだ?

 我が身可愛さに嘆き、喚いているだなんて、あまりに情けなくはないだろうか。


「そうだよ、勇者殿はそれでも戦おうとしているのに……」

「俺たちが逃げ腰でどうするよ!」

「そうだ! 俺たちだって盾にくらいなれるさ!」

「やってやる! やってやろうぜ!!」


 奮い立たされた騎士たちは猛然と魔族たちに抗う。高まった士気は、戦力差をも覆さんばかりの勢いで周囲へ拡散してゆく。

 そして、その中心で咆哮を上げるのは勇者だ。黒い外套を翻す魔王へと、その剣の切っ先を向ける。


「面白い……、その程度はやってくれねばな。我も全力を出すに値するというものだ……」


 アルスの剣は軽々と返される。そのまま、魔王が振りかぶる。時空すら歪みかねないほどの豪腕が唸りを上げる。


「ォォォオオオオオオオオオオーーーーーーーッッッ!!!!」


 返す刃でアルスはそのまま斬り上げる。一際大きな剣戟が、あたりに暴風を撒き散らす。

 それは後に伝説となって語られる、魔王と勇者の前哨戦であった。


――


 アリシアはアイテムボックスから取り出した大槍の穂先を、少女の眉間へと向けていた。

 金色の髪に黒のドレスを纏った少女は、可憐な外見とはあまりに似つかわしくない鋭利な視線で睨み返してくる。

 しかし、視線で言えばアリシアも負けず劣らず苛烈な鋭さを秘めていた。

 最初に少女を警戒しなかったのは、自らの危機察知能力が低かったからだ。ツバサの背後に迫った少女を肉眼で追えなかったのは、敵の速さに目が付いていけなかったからだ。やられた瞬間即座に行動に移れなかったのは、戦いにおける覚悟が甘かったからだ。

 それらは全て自分の責任だ。アリシアは自らを責める。

 憎しみは刃を尖らせる。大槍の刃は相手を刺し貫くためにある。

 憎いのは自分だ。蔑むのは自分だけで良い。

 憤るのは義憤だ。遊ぶように人を殺す彼女を止める。悔い改めさせる。それこそが騎士として歩むべき道程だ。

 戦う理由は、それだけでいい。相手を憎む必要はない。正義のために戦う。それこそがあるべき騎士の姿だ。


 ――けれど、私は弱い……!


 所詮は馬鹿力だけが自慢の小娘でしかない。今回でそれが痛いほど分かった。

 一人では立ち上がれなかったかもしれない。ナズナが先に立ち上がれなければ、アリシアは立ち上がるという意識さえ持てずにいた。今の菊花のように、茫然自失として蹲っていたことだろう。

 あんな小さな少女にすら劣る、甘い覚悟しか持っていないだなんて、それは勇者に置いて行かれたのも納得という話だ。騎士振ろうとしているだけの未熟な小娘でしかなかった。

 ならば、せめて今は自分にできることをする。未熟なのは分かった。弱いことも分かった。それでも時間は止まってはくれないのだから、やるべきことをやるしかないのだ。

 この少女の蛮行を終わらせる。それがアリシアの行動原理となっていた。


「……ォォォオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」


 獣のように雄叫びを上げながら、アリシアは振りかぶった大槍を振り下ろす。

 接触した瞬間に、地面は砕け、瓦礫が舞い上がり、衝撃が少女へと襲い掛かる。

 が、それに飛ばされるようなこともない。少女は超常の力でその場へ留まり続けていた。

 吹き飛ばす目的で放った技だ。それが無効化されれば少女とは肉薄することになる。


「力だけなら大したものね……。……ニンゲンにしては、の話だけど」


 少女が槍を払った。ただそれだけの所作で、アリシアは後方へ大きく仰け反ることになる。

 少女が腕を伸ばす。手はアリシアには届いていない。にもかかわらず、アリシアが大きな腕に掴まれたかのように空中に縛り付けられていた。

 少女は、クスリと笑う。上品な笑い方なのに、背筋が凍るような笑みだ。

 だが、その笑みが何かに気づいたように固まる。


「……貴方、魔族ね。ニンゲンに与するなんて気でもふれたのかしら」

「……これは、バサ兄と開発したアリ姉との必殺協力奥義、ですッ!!」

「どうせ殺せないのに『必殺』だなんて、莫迦で健気な子ね……。けど、ニンゲンに毒されているというのなら、仕方ないわ」


 少女が刃物のような目で、ナズナを睨む。

 瓦礫が宙に留まっている。その間には稲光が迸り、一つの包囲網が形作られている。

 あとは引き金を一つ引けば、磁力に引き寄せられた岩盤が集結し、即席の棺桶が完成する。

 だが、少女は焦ることもなく、


「……ワタシはニンゲンがキライなの。お兄様を奪ったんだもの。だから、それに荷担するなら魔族であっても敵よ。……みんな大っ嫌いなんだから!」


 その金色の髪をそっと払うと、そのまま腕を突き出した。

 同時にナズナが魔力を解き放ち、それを合図に術式が起動する。

 たとえ、ツバサの命を容易く摘み取れたとしても、思い出だけは簡単に摘み取らせはしない。……そんな悲壮な決意がその魔法には込められていた。


「〈グラン・コフィン〉!!」


 巻き上げた瓦礫の中の金属質が、ナズナの放つ電撃に操られ圧縮されて電磁式の棺桶となる。

 そんな物騒な魔法を少女はたった一つの魔法で無効化してみせた。

 瓦礫たちがナズナの支配を逃れて地に落ちる。

 困惑するナズナに対して、少女は残酷に告げる。


「……魔法と魔法は弾き合う性質をもっているわ。なら、より強大な魔法で敵の術式を支配したらどうなるかしら。……答えは今、目の前にあるわ」


 大好きなツバサが、自分のために、仲間のために必死に編み出した攻撃なのに、それは少女がいとも簡単に潰してしまった。

 命も、思い出も、こんな簡単になくなってしまう。

 大事に、大切に護ってきたものだったのに……。


「……さて、これで無駄な抵抗は終わりね。それじゃあそろそろ終わりにしましょう。貴方たちみたいな端役の物語は、これで終わりよ。……次に生まれ変わるときは、ワタシみたいな主役になれるといいわね」


 そうして少女はその白く小さな腕を、天空へと向けた。

 その大きな空は少女の手には余るほどの大きさだが、不思議と相応しいようにも感じられる。

 少女は空に、世界に愛されている。まるで物語の主人公であるかのように。

 あるいは、この世界の何かしらのベクトルが彼女へと集中してしまっているかのように。


「……じゃあ、おやすみなさい。ニンゲン……」


 絶望するナズナとアリシアの眼前には、空を掴もうとする不遜な少女と、藤色ウィスタリアに揺らめく空だけが佇んでいた。

いよいよ章タイトルのウィスタリアという単語が出てきましたね。……長かった。まぁ言うまでもなく『藤色の空』という意味です。藤色はあれです、薄紫っぽい色です。

元々はなろうで他に書いてるスカーレットイリスというタイトルの対として考えたお話を基にしているので大仰なタイトルなんですが、あまりにも頓挫しまくったため、異世界漂流系のお話にぶち込んだというのが真相です。

他にもゲーム業界で就職しようとしていたときに考えた熟練度システムもアレンジして投入したりと折衷案的なタイトルなわけですが、良い感じに化学反応起きてくれたと思っています。

一段落したら、その辺もまた改めて解説する予定ですが、とりま一段落させますのでよろです。

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