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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第一翔 [Wistaria Ether -魔王顕界篇-]
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第二羽③

 俺は息を殺していた。

 緊張に速まる呼吸を、速まる鼓動を、押さえ込む。

 強張る手足を無理矢理にほぐして、ジリジリとにじり寄る。

 呼吸を整える。荒ぶるな。落ち着け。

 攻撃は一瞬。躊躇うな。迷わずに振り抜け!


 俺は大型の齧歯類、二足歩行のゴブリンに対して、剣を振るった。

 さすがに一撃では死なない。

 だが、大きくよろめいていた。

 俺はそこへ畳み掛ける。立て直す時間など与えない。

 続けて振り下ろされる斬撃にゴブリンはついに力尽き、その命を終わらせた。


【グラスゴブリンを撃破! 15の熟練度を獲得!】


 俺はステータス画面を開いた。

 膨大な熟練度一覧の中にグラスゴブリンの表記をやっと見つけた。

 15ポイント。レベルは1。

 これが俗に言うレベルか……? なんか違うような……?

 それ以外にも剣スキルがある。剣スキルは更に細分化されていて、斬撃熟練度、刺突熟練度、打撃熟練度と連なっている。

 僅かに向上が見られるのは、斬撃熟練度だ。突きなんてしてないしな。

 だが、なんとなく分かってきたぞ。これがこの世界のシステムなんだ。


 〈熟練度〉システム。


 繰り返した動作には経験値が割り振られ、効果が増強される。

 使えば使うほど強化されるのだから、その効果は限りなく大きい。

 だが、逆に慣れないことにはとことん不利な世界でもある。

 相手の独擅場には太刀打ちできないというシビアな世界とも言えるのだろう。


 ……などと考えていると、後ろからパチパチと拍手が聞こえる。

 そいつはもちろん菊花だ。


「さすがです、ツバサ様。この調子でいつもの力を取り戻してくださいね!」

「……なぁ、ひとつ訊きたいんだけど、いいか?」

「何でしょう?」

「前のツバサ様はどれくらい強かったんだ……?」

「それはもう、龍の名を体現するような凄まじい力を持っていて、私など及ぶべくもないかたですよっ!」


 「でした」とは表現しない辺り、菊花は未だに俺をツバサとして認識していてくれてるようだが、何度聞いてもそれが自分だとは思えないんだよな……。

 大体、そんな俺TUEEEができる戦力を、俺は想定できないし。

 妄想ならともかくとして、それを詳細に認識することなどできそうもない。

 俺の心は龍ではなく、いまだニホンで暮らしていたオタクのままなのだ。


「〈熟練度〉ねぇ……」

「熟練度というシステム自体はあまり珍しくはありませんが、何か気になりますか?」


 気になるといえば、この〈グラスゴブリン〉という項目だ。

 普通倒した魔物の熟練度なんてあるか?

 剣や行動に付与されるなら分かるが、倒した魔物っていうのはさすがに今までプレイしたゲームでも見たことがない。


「なるほど……。確かに私も初めて聞きました。……そこに気がつくなんて、さすがツバサ様ですねっ!」

「あ、ああ……。そうだな……」


 菊花の高すぎる忠誠心は置いておくとして、やはりかなり珍しい仕様らしいな……。

 これがこの世界の特色なんだろうか。

 まぁ、もう少し調べてみないと分からないな。


「そういえばツバサ様、〈ドロップ〉はありましたか?」


 ドロップ……? サクマ式……?

 ああ、〈モンスター・ドロップ〉のことか。

 何故か、ゲームの中の魔物って道具を落とすことが多いよな。

 とあるRPGの中ボスが〈たまご〉を落としたときには笑ったけど。あのときはよく、「非常食……?」とか揶揄されていたのを思い出す。

 それはともかく、何かの素材や回復アイテムなんかが手に入れば、道中楽になるよな。

 ……けど、見当たらないな。少なくとも目の前にはないし、メニュー画面を適当に開けたり閉じたりしたけどそれらしいものはなさそうだ。


「……なしですか……。さっきのウルフにはありましたので、期待したんですけど……」


 あったのかよ。

 もう少し早く言ってくれよ。知りたかったよ、その情報は。


「ドロップ品は倒した魔物のすぐ近くに落ちているようですよ? 確率はそこまで高くないのかもしれませんが……」


 まぁ100%落とすっていうのも、ちょっとゆとり仕様だしな。そんなもんだろう。

 さて……。


 そんなこんなで街道沿いを歩いて地図を少し埋めつつ、魔物を多少倒しつつ、先へと進んだ。

 そんな折、ぴょんこぴょんこと林の中へ潜ってゆく〈まるうさぎ(茶)〉の姿が。

 そして、その少し後ろには、鼻息立てたフィールドウルフがいた。

 途端に菊花の気配が剣呑なそれになる。怖いよ、菊花たん……。

 ウルフは林の中までは入っていかず、そのまま折り返してしまった。

 俺らを一瞥するが、人間は喰わないのか、そいつはそのまま去って行く。

 ……まぁ、さっきの〈ラビット・イーター〉とは違って、サイズも普通の犬くらいのものだったし、名前も〈フィールドウルフ〉だけだったから、きっと別物なんだろうけど。

 

「すみません……ツバサ様。私、あの子たちを助けたいです」

「……は?」


 俺は無様に問い返すことしかできなかった。

「どっこいしょ!」


どうした菊花。分厚い本だが、一体何を……


「今回はゴブリンを倒した回ですので、せっかくですから妖鬼ゴブリン系の習得スキル一覧をお持ちしました。どうぞ見てみてください!」


ええっと、なになに……。


――


妖鬼ゴブリン系〉ランク


〈妖鬼抵抗〉

妖鬼系カテゴリの魔物の攻撃に対して耐久力を得る


10

〈器用補助〉

武器使用時の能力補助。熟練度に応じて補正値上昇


15

〈妖鬼弱体〉

妖鬼系カテゴリを攻撃すると一定時間弱体効果が発生。


20

〈重量補助〉

装備の重量を軽減させる。重量に応じた速度低下、スタミナ消費増加の効果を軽減させる


25

〈妖鬼特攻〉

妖鬼系カテゴリの魔物に対して特攻効果。


30

〈高速装填〉

弾薬や矢などの装填速度を早める。装填の必要がない装備の場合は効果がない


35

〈妖鬼索敵〉

妖鬼系カテゴリの魔物の位置を索敵できる


40

〈作成補助〉

工作、細工、料理、鍛冶、錬金、調合などの作成系スキルの成功率向上


45

〈妖鬼稼ぎ〉

妖鬼系カテゴリの魔物のドロップ率が上がる


50

装備転換スイッチハンド

装備切替時の時間短縮。ただし、切り替え先の装備はアイテムボックス内ではなく、身につけておく必要がある


55

〈妖鬼集め〉

妖鬼系カテゴリの魔物を周囲に集めることができる


60

〈模倣〉

見たスキル、受けたスキルの取得熟練度上昇


65

〈妖鬼予知〉

妖鬼系カテゴリの魔物の行動が予想できるようになる


70

〈駆使〉

武器使用時の熟練度上昇


75

〈軽毒無効化〉

妖鬼系の弱体、軽毒を無効化する。軽毒とは軽度の麻痺、熱、目眩、昏倒などの症状を起こす毒のこと。症状は重症化せず、時間経過でも治る


80

〈二刀流〉

紛らわしいが、両利きとして武器を扱うスキル。左右どちらでも利き腕と同じように武器を扱える。もちろん片手武器なら重量など関係なく二本装備できる


85

〈妖鬼殺し〉

妖鬼系カテゴリの魔物を一撃で倒す。熟練度が上がると効果範囲が広がる


90

万能技能マルチスキル

熟練度の低い武器や、熟練度の低い作成スキルでも、他のスキルの熟練度を利用してスキルが使える。

例えると〈片手剣100・大剣0〉でも〈片手剣100・大剣100〉として、スキルを使える。

ただし、熟練度ランクに応じて覚えられる他系統スキルは使えない。〈妖鬼抵抗〉、〈器用補助〉など


95

〈妖鬼無視〉

妖鬼系カテゴリの魔物の攻撃をほぼ無効化する。熟練度が上がると無効化範囲が広がる


100

〈必殺〉

クリティカル率の向上。相手によっては即死


――


えぐっ! 後半えぐっ!

何なの、最終的には死線が見えるようになるの? どこのシキくん?


「いやぁ、さすがにそこまでチートスキルではないと思いますが……」


っていうか、クリティカル上昇だったら、なんなら菊花も使えるんじゃない?


「それは前の世界での経験が活きてるだけだと思いますので、厳密に言うとこのスキルではないですよ」


とはいえ、ここまで上げるのにどれくらい掛かるんだろうか。


「普通に過ごしていたら一生届かない値だそうですよ。そのためだけに生きて何十年も研鑽を積んで、才能があれば到れる……。そう聞きました」


そりゃまた夢のまた夢だな。


「まぁ正直、あまり目指す必要もないですしね! 大事なのは世界を救うことです。そのために必要のない寄り道はしなくてもだいじょうぶですよ!」


……時間さえかければできるていで話されてるのが微妙に気まずい……。


「だいじょうぶですって! なぜならツバサ様ですから!」


……この笑顔、怖いなぁ……。無垢な信頼ってときに凶器なんだよなぁ……。

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