表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第一翔 [Wistaria Ether -魔王顕界篇-]
41/163

第七羽【魔徒信仰】②

 敗北の味は知っている。

 知らないわけがない。他ならぬ勇者に何度も舐めさせられた辛酸だ。

 この方を守ろう。自分の持てる限りを尽くして。

 ……それは、アリシアが過去に立てた誓いだった。


 意識の明滅は一瞬だった。アリシアは消え失せそうになる意識を全力で引っ掴んだ。

 全身を奮い立たせ、頭を強引に覚醒させる。

 考えろ。まだ、勝負は終わってはいない。諦めない限り、勝敗はまだ決してはいない。

 相手の攻撃は唐突だった。

 だが、防御態勢は間に合った。結果、すんでのところで対処ができた。

 もし、行動があとワンテンポでも遅れていたら……。そう考えると背筋が凍り付くような感覚が走る。

 敵は、まだ近くにいるだろう。攻撃は、これだけでは済まないはずだ。

 目的は不明瞭。所在も不明。人数も姿形も、一切が不明。

 分かるのは、明確な悪意を持っているということ。それだけだ。

 しかし、それだけで充分ではないか、とも思う。

 敵は、敵かもしれないという曖昧な存在ではない。紛うことなき敵対関係にある。

 ならば、迷いなど生まれない。守るべきものを守るため、戦い抜くだけだ。


 ――私は、守られるだけの存在ではない。私が、守り通してみせる……ッ!!


 アリシアは感覚を頼りに、槍を手繰り寄せる。その握り心地は、騎士の心を高ぶらせた。


――


 アリシアの防御態勢のお陰で事なきを得た俺たちは、敵がやってくるまでにどうにか体勢を立て直すことができた。

 それぞれが得物を構え、戦意は充分だ。

 そうして待ち構えていた俺たちの前へ敵が姿を現した。


 敵は……、二人組みたいだな。……って、油断は良くないな。まだ他にも隠れてるかもしれないんだし。

 一人は女の子だな。ローブ姿で、黒髪の目つきが悪い少女だった。

 もう一人は、……少年だな。どことなく柔和な印象を抱くが、存外に体型はがっしりしている。意外とパワーファイターかもしれない。

 ……というか、本格的に深刻な事実に気づいてしまったんだが、どうしよう。

 ……俺ってば、ちゃんとした対人戦の経験って、ほとんどないんじゃね?

 マグやナズナとのスパーリングぐらいしかないぞ。

 相手は確かに強者ではあったけど、未知数の相手と戦う練習はほとんどしていないような気が……。

 まずい。……どことなくまずい予感がしてきた。


 俺は、とりあえず戦闘態勢だけは取っておくが、全然先読みができない。

 まぁ、魔物相手にも先読みなんてロクにできはしないけど、心積もりがうまくできないというか。

 なんだろう、そわそわする。緊張している。ピアノの演奏会の直前はこんな気分なんだろうか。習い事してる女の子って、案外すげーな。


 ザッ! と、敵の少年少女が止まった。……アリシアの間合いを悟ったのだろうか。確かに、大体あの辺りまでは一足飛びで攻撃できそうな間合いだな。……それを悟るとは、敵も雑魚ではなさそうだ。ってまぁ、初撃の威力から分かりきったことではあるんだが。


「……どうやら、一筋縄ではいかないみたいね。ビリー、作戦チェンジよ。タイトルは……、そうねぇ。……『誰が為の橋渡し』で」

「分かった……」


 少女と少年の遣り取りは良く分からん。暗号だろうな。橋渡し……?

 なんて、首を傾げてるような悠長な時間はなかった。

 バッ! と少年は手を振り上げるとそのまま詠唱を始める。

 詠唱魔法。マグもナズナも使わないから、俺にとっては初見に近い(厳密にはアリシアや孤児の何人かの使う詠唱魔法は見たことあるが)。咄嗟の対応が分からない。くそ、経験値の低さが露呈しまくってる気がしまくってる感じだ。


「惑い揺蕩う風の精霊……、吹き荒ぶ魍魎の権化……、抗いし螺旋の番い……、十二の檻に抱かれ久遠の夢に堕ちろ。狂乱の旋律、テンペストエンド!!」


 対応したのは、ナズナ、アリシア、菊花。つまりは俺以外だ。アリシアが暴風の激流をその槍で受け止め、菊花がそれを魔法の併用か何かで支えている。ナズナは、俺を庇うように前に立ち、魔力の障壁で身を守る。

 が、威力がハンパない。俺たちの動きは一瞬でも止まらざるを得ない。が、その一瞬こそが最大の隙だった。

 敵は、単独の術士じゃない。当然崩しのあとは、もう一方が攻めに転じる。俺たちはそれに対して、誰も対処できなかった。

 風を受けて飛ぶように飛来してきたのは、もう一人の少女。ローブの下には漆黒の翼が。追い風を受けて凄まじい速度で飛行していた。

 その腕が、俺の正面で佇んでいたナズナを引っ掴み、もう片方の手が、俺へと伸びていた。

 そこから突如受けることになる、強力なG。あまりのことに俺は平衡感覚を失い、抵抗もできなかった。

 しかし、ナズナは反応する。雷撃を、自分を掴んでいる右手越しに放つ。


(やったか……?)


 直撃すれば、硬直は免れない。あわよくばしばらく麻痺することだってあるだろう。ナズナの雷魔法はそれくらいの威力がある。

 が、敵の飛行は止まらない。むしろ反応すらないような……?

 ナズナが自分を掴むその腕を見て、驚愕の表情を浮かべている。……そういう顔もできるんだな。って、ほっこりしてる場合じゃあ、全くないけども。

 腕には、金属製の爪が嵌められていた。それの所為か……?


「……金属ならなんでも電気を通すとでも思った? 勉強不足なんじゃないの? ……お子様」


 悔しそうに何度も雷撃を放つが、翼の少女には全く届いていない。絶縁仕様らしいな。敵さんも相当に優秀らしい。が、無駄な抵抗を続けるナズナを愉快げに見つめるその顔は、同レベルの子供っぽい気もする。

 ともあれ、俺はGに圧殺されながら少女に抱えられつつ、風魔法で飛ばされ、ナズナも反対の手に抱えられたまま、雷撃は効果もない。つまりは二人揃ってお持ち帰りされたことになる。

 菊花は? アリシアは?

 自由の利かない身体で必死に視線を動かし、その姿を見つけるが、一瞬で遠ざかっていく。

 悲痛に何かを叫ぶ菊花の表情が痛ましい。……まるで、永遠の別離のような。

 そんな馬鹿げた話があるのか。こんな唐突に、終わって良いのか。

 そうは思っても、抵抗は悪足掻きにしかならなかった。俺とナズナは圧倒的な速度で拉致られた。どーせ拉致られるならお嬢様学校に庶民サンプルとして拉致られたかったものだ。

 俺は、遠くなる意識の中そんな諦観に満ちた思いを巡らせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ