表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第一翔 [Wistaria Ether -魔王顕界篇-]
29/163

第六羽【魔都侵攻】③

 旧トータス領に近づくにつれ、土地は痩せ、枯れ果ててゆく。

 しかし、そんな中にも潤沢な水に潤った場所も存在している。

 湧き出た泉を中心に、そこにだけ森が出来上がっていた。

 荒野地帯に連なる立地において、珍しく苔生した一軒の家屋があった。

 打ち棄てられた教会を改築して作られた、急拵えの家。

 そこには十数人からなる子供たちの一団と、一人の老婆が住んでいた。

 老婆の名はマグ。険しい顔立ちを皺が覆い、その装いは魔女そのもの。

 それが孤児院であると知っていても、そんな怪しげな老婆が切り盛りしていると知れば、見る人は奇異な視線にならざるを得ない。

 そして、その子供たちもまた、とある秘密を抱えていたのだった。

 その秘密のことは、大部分の人間が知らない。だが、隠しているという空気だけは伝わってしまう。

 それ故に、周囲の住民との溝は埋まることはなく、人通りもない街道の外れで、その孤児院は佇むばかりであった。

 

 ナズナ=シークエンスも、そこに居を構える孤児の一人だった。

 齢9つを数えたばかりの少女は、てくてくと梢の下を通り抜けてゆく。

 湿った土の匂い。苔の生した匂い。朝露に濡れた木々が、森の香りを届けてくれる。

 視界は一様に暗い。天蓋の如き樹木が日の光を妨げている。

 その暗がりが、少女には心地よかった。

 心音は平静に、ただ時を刻み続ける。

 ぬかるんだ地面を踏みしめて足を鳴らす。

 いつも通り。歩き慣れた道程だ。

 そこへ……。

 カエルの魔物が姿を現した。

 ゲロロロロ……。と、独特な声音で警戒音を鳴らしている。

 少女、ナズナは歩みを止めた。その無垢な眼差しを、そっとカエル――、〈マッド・フロッグ〉へ向ける。

 マッド・フロッグは獲物を見定めると、捕食体勢に入った。身を竦ませ、溜めを作った後、にょッ! ……と舌が伸びる。

 その長さは、およそ3メートル。少女の足を絡め取るようにその舌は艶めかしく蠢いた。

 そして。

 たっ、……と、ナズナは跳躍していた。カエルの舌はすんでのところで躱している。

 その着地地点へ跳ねて移動するマッド・フロッグだったが、いつまでもナズナは降りてこない。

 ふと見上げたその先には、巨木の幹にぶら下がっている少女の姿が。


「……遅い、です」


 少女の向けた人差し指から放たれた閃光が、マッド・フロッグの身体を奔り抜けた。

 ぶすぶす……と、音を立てながら倒れたその死骸を、少女は山菜を採りに来たような無邪気さで眺めている。


「……やった。……今日は丸焼き、です」


 むんず、とおもむろに掴んだカエルの足を引き摺りながら、少女は幸せそうに淡い笑みを浮かべていた。

 それから少し歩くと、我が家である元教会の門扉の前で、一人の老婆が仁王立ちで待ち構えていた。


「……よく帰ったね、ナズナ。お前、また森に入ったのかい?」


 ナズナは嘘を吐こうかと、一瞬逡巡した。が、右手には引き摺ったままのカエルがいる。これはなんと説明しよう。

 色々考えた末、正直に打ち明けることにした。少女はあまり複雑なことは考えられない性格だった。


「……狩り、してた、です」


 ナズナが告げると、母親代わりであるマグは、あからさまに溜息を吐いた。


「はぁ……。お前、あそこは危険だから一人では行くなって、そう言ったよね?」

「……あの……。……ゴメン、なさい、です」


 叱られるのが少し怖くなったので、小さい声で謝ると、老婆は諦めたように苦笑を浮かべると、少女の頭を撫でた。

 

「あそこは湿気が多くて泥濘も少なくない。一人で行けば誰もフォローできないんだ。……いいかい、お前は人一倍優秀だけど、でもそれだけだ。ただそれだけの子供でしかないんだよ。それが分からないうちは好き勝手させないからね」

「ハイ……。ゴメンなさい、ばあや……」


 マグはナズナの額をぐりぐりと撫でつけると、そのまま踵を返してしまう。ナズナは乱れた前髪を整えると、その背について我が家へと帰るのだった。


 ナズナが家に入ると、そこには違和感があった。

 なんと、来客があったのだ。

 旅の冒険者。黒髪のお兄さんと、黒髪のお姉さんと、もう一人、赤髪のお姉さんだった。

 兄弟の皆は、旅のお話に夢中で冒険者たちはその中心で人気者になっていた。

 ……お兄さんが変な顔でうなだれていたけれど、何があったんだろう?

 ナズナはキョトンと首を傾げながら、そんな彼らをじっと見つめていた。


「魔法が知りたい、人手が欲しい、って訳かい。そのどちらもうちから提供できるけど、こっちにだって生活があるからね。タダとは言わせないよ」

「構いません。道中のクエストで稼いだお金も、ある程度はご用意できます」

「ある程度、ねぇ……。具体的に言って、ソイツはどのくらいだい?」


 黒髪のお姉さんがテーブルに袋を置いた。ゴトリ、と結構重そうな音がする。


「……ふん、5000ルースってとこかい? 片方だけならともかく、それで両方ってのはいささか高望みしすぎなんじゃないのかね?」

「……では、」


 お姉さんの言葉を、お兄さんが遮った。


「カネ以外に提供できるものがあるならそれも渡す。……どうにか無理を通してもらいたいんだ」


 ばあやは少し唸ると、やがて観念したみたいに両手を挙げた。


「……分かった分かった。そこまで言うならそれで手を打とうじゃないか。こちらが欲しいのも人手でねぇ。ちょいとクエストを頼もうじゃないか」


 そう言ったばあやは何故かナズナのほうを向いている。何の用なのだろう。ナズナは目を丸くするばかりだった。

マグは過去作のキャラと同名だったりしますが、同一人物かどうかは秘密です。秘密ったら秘密なのっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ