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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第一翔 [Wistaria Ether -魔王顕界篇-]
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第六羽【魔都侵攻】②

 ラグナ要塞への道中の草原地帯では、大体見慣れた感じの魔物が溢れていたのだが、これから国境へと近づく関係からか、少し見たことのない魔物も散見できるようになっていた。

 固体名〈ロック・タートル〉。ベタな岩石系のカメのようだった。

 しかし、それを見据えたアリシアは警戒した様子で、言う。


「ツバサ殿、気をつけてくれ。あの魔物はかなり堅い……」


 騎士としての経験からかすでに知っているらしいアリシアの話によると、アイツは旧トータス領――現魔王城に広く分布している魔物なのだという。

 その特徴は、鈍重だが高い攻撃力と、頑丈に過ぎる防御力にあるのだという。


「定石としてなら、前衛が足止めして、後衛がトドメを刺すべきなのだが……」

「今のパーティには後衛がいませんからね……」

「だったら戦闘は避けるべきか……」


 アリシアは頷いて同意を示す。が……


「このように広い場所なら、それでいいだろう。……だが、もし狭い場所で、複数に囲まれてしまったら……」

「……あんまり考えたくないな」


 実際の命を賭けた戦いだ。安全マージンを取るのに越したことはない。

 しかし、それでも不慮の事態は起こりうる。そして、それだけで、人間は簡単に死んでしまうのだ。

 俺はゴクリと喉を鳴らす。


「土壇場で出遭して対処法が分からないのは最悪だしな……。ここならまだ逃げられるだけの余裕がある、か……」


 だったら、ちょっとちょっかいを出してみるのも一興かもしれない。今後熟練度も貯まって対処しやすくなるかもしれないし……。


「……やりましょう……ッ!」


 思い思いに頷く三人。試すだけなら自由だ。相手は大魔王でもなければネメシスでもないんだ。充分逃げ切れるさ。

 ささやかな慢心があったことは否定しないが、ともかく俺たちは、ロック・タートルに挑むことにしたのだった。


「覚悟しろッ……。ハァァッ!!」


 赤薔薇の一本槍こと、アリシアが繰り出す大槍の刺突がロック・タートルに直撃する。……が、岩石のように堅い甲羅には目立った外傷はない。どころか、1メートルも押されていない。重量もとんでもないな……。

 近づいてみれば分かることだが、ロック・タートルの大きさはいわゆるウミガメくらいはある。亀仙人が乗れるくらいのサイズだと思ってくれていい。

 しかし、外見はどちらかというとリクガメに近い。甲羅は高く聳え立ち、小柄な人間くらいの高さがある。その重量は……100キロ以上はあるんだろう。あるいは単純な重量以外の力が働いているのかもしれないが……。

 だがそれは織り込み済でもある。予想内の範疇だ。だからそれに合わせて動き出すヤツもいる。

 菊花がアリシアの攻撃に合わせて、突進を開始する。鋭い短剣を構えての斬撃。菊花の持つ直死の魔眼から逃れられるとでも思ったのか……?


 なんて、思っていたら、ガギン……!

 弾かれてやがるッ……。コイツ……、思った以上にヤバそうだぞ……!

 驚き、アリシアの動きが止まった、その瞬間――、


 ゴゴゴォオオッ……!!


 コマみたく回転した甲羅がアリシアへ向かってきていた。

 アリシアはすんでのところでそれを躱したようだが、騎士の経験値あっての回避だろう、動揺の色は隠しきれていなかった。


「グ、やはり手強いな……」

「これは……、思っていた以上ですね……」


 二人のフットワークで倒せない相手は初めてだ。

 相性というのもあるだろうが、単純な攻撃力だけでゴリ押しはできそうにない。……いささか無茶な戦い方だったかな……。

 ……何度か叩けばあるいはそのガードを崩せるかもしれないが、その前にこちらの体力が尽きる可能性だって低くはない。

 ここに来て、今更ながらパーティバランスの悪さが露呈してきたな。……だが、この段階で気づけて、まだ良かったかもしれない。

 もっと先まで進めてしまっていたら……。もう、取り返しの付かないところまで駒を進めてしまっていたら……。事態はもっと悪い方向に転がっていた可能性だってあるだろう。


 一瞬の油断は死に繋がる。……ゲームオーバーではない、本当の終焉。


「……逃げよう」


 決めてからは、早かった。

 切り替えの上手なメンバーで良かった。器用な連中で良かった。

 けれど……、俺はこのままじゃいけない。

 生き残るうえで、生き残らせるうえで……、このままにはしておけない。


 新たな攻撃手段の体得は、もはや攻略のうえでの必須項目になっていた。


 そして、少し距離を取り、落ち着いたところで、俺はおもむろに袋からガラス玉を取り出した。


「助けて、ドラ○もん!」

「僕はそんな個性的な名前じゃないんだけどなぁ……」


 当たり前だが、ネタの通じていないルキウスからはそんな声が帰ってきた。

 ビー玉形態からニワトリ形態へ変体すると、ルキウスはめんどくさそうに呻いていた。

 魔法が学びたいんだよぉ~、お願いだよぉ~、ジャイアンが虐めるよ~!

 ……そんな俺の無茶振りに、賢者は鳥類の顔で呆れ顔を作る。


「……う~ん、めんどいなぁ。どうしよっかな~」

「そこをなんとか、お願いしますよ。賢者様は今日も素晴らしい! ハラショー!」

「また、とってつけたような褒め方だなぁ……。……う~ん、……え~っと……」


 賢者様は困っているようだった。あるいは困った振りしてれば俺が諦めると思ってるの? ……甘いな。俺はハーレムの夢と、他力本願の精神だけは、一生捨てないと誓っているんだ!


「……そのまま貞操も捨てないよね」


 ……だからなんで心が読まれるんだよ。俺の顔面はどれだけ雄弁にものを語っているんだよ! あと、貞操は捨てるよ! すぐ捨てる! もうすぐだからさ、きっと!


「まぁ、そんなことは心底どうでもいいんだけどさ……。ふぁ~~あ……。……寝よ」

「寝るな! まだ諦めるような時間じゃない! 諦めたらそこで試合終了ですよ!」

「うん、だから終了したい」

「そんな思春期の少年少女じゃないんだからさ! 簡単にやめるとか死ぬとか言うなよ! 応援してるヤツだっていんだよ! 俺だってそうだよ! マイナス10℃のところシジミが取れるって頑張ってんだよ!」

「……何言ってんの?」


 そう言われるのは至極真っ当だが、修三さんでも安西先生でも通用しないなんて、ちょっと考えられなかった。でも、そうか……、これが異世界か……。空恐ろしい話だな、まったく……。


「……あ、そうそう。その辺に魔法の達人が住んでるよ。行ってみたら?」


 ……意地でも自分じゃあ教えない気か。まぁいい。達人とあらば、訪ねてみるのが世の情け。ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ! ……な~んてニャ♪

 最近の小学生は知らないらしいから怖い。JS恐るべし……。いや、女子に限った話じゃないけどさ……。

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