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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第一翔 [Wistaria Ether -魔王顕界篇-]
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第五羽【隠遁賢者】⑤

「ここが賢者の住む家か……」


 俺たちは勇者と戦った後、とりあえずの応急処置を済ませて、そのまま賢者宅を訪れていた。

 場所は、普通に探せばそれこそ日が暮れてしまいそうなくらい分かりづらい場所だったが、勇者一行のキャシーという女の子が教えてくれたらしい。

 らしいというのは、俺が目を覚ましたときにはもう何処にもいなかったからだ。いたのは俺の仲間二人……、と役に立たないウサギが一匹(一羽?)だけ。

 キャシーとかいう少女は、……正直読めないな……。口数も少なかったし、表情も希薄だった。……クール系なのかな。あるいはマイペース系? ……まぁ、仲間にならない人間の性格分析をしても埒があかないことだし、駒を進めることとしよう。


 俺は緊張に背筋を伸ばしながら、扉をノック……しようとして頭を打ち付けてしまった。

 ……だってさ、まさか突然開くとは思わないだろ、普通。


「ああ、ゴメン。わざとだよ」

「なんだ、わざとか。それなら仕方ないな……、ってなんでじゃい!」


 思わずノリツッコミが冴え渡る。今日から俺はノリツッコミのツバサと呼んでくれないか。


「あははは……、面白いね君。……お客さんかい?」

「……まさかアンタが賢者サマだとか言うんじゃあるまいな」

「違う……、って言えばお役御免になれそうなんだけど、それは僕の矜持が許さないから、しょうがないことだし白状するよ。僕が賢者の知を継ぐ者、ルキウスだ。ルッキーとでも呼んでよ」

「誰が呼ぶか」


 第一印象から最悪だ。やっぱり変人だったよ。自分から呼び名を指定するヤツに碌なヤツはいない。……やれやれ、まともに会話もできそうにないよ。早速帰りたくなってきたよ……。


「ツバサ様、こんなところでめげないでください。せっかくここまで来たんですから」

「分かってるが、しかし……。超絶メンドイぞ、コイツ……」


 本来ならある程度ご機嫌を窺う心積もりはあったんだが、そんな「お・も・て・な・し」の精神は脆くも崩れ去った。儚いもんだな……。


「だが、勇者たちに後れを取るわけにはいかん。なんとしても手がかりを得なければ……」

「勇者……? ああ、さっき向こうで戦ってたのは君たちだね?」

「だったら、何なんだよ……?」

「ふふ、いやぁ面白いものを見せてもらったなぁと思って」


 やっぱりコイツ最悪だ……。どうにか会話を打ち切ろう。そしてさっさと帰ろう。それがいい。


「お礼と言っちゃあなんだけど、お茶でも飲むかい……? 良い茶葉があるんだ。リーティス茶って茶葉なんだけど……」


 ……何とも断りづらい単語が出てきやがった。わざとなのか偶然なのかは察しづらいが……、わざとって訳はないだろう。そんなもの読みようがないはずだ。

 あの爺さんには世話になったからな。装備も所持金の範囲で一番良い物をもらったし、イーノックじゃないが、お陰で道中は「大丈夫だ、問題ない」といったところだった。


「……一杯だけな」


 まんまと食わされた気がするのが癪なんだが……。まぁ仕方ないか……。


 家の中は、なんというか質素だ。賢者の自宅らしくない気がする。本とかそういうアイテムが見当たらないからだろう。……というか、目の前の売れない芸術家みたいな冴えない男が賢者だなどとは思えない。

 証明、できるのかな。たとえば、賢者でしか答えられないような難しい質問をして、それに上手く答えられたらコイツは本物だ。

 物は試しか……。


「……なぁ。せっかくだから熟練度システムについて少し訊いてみたいんだが、いいか?」


 俺がそう問うと、ルキウスは一瞬こっちを振り返った。が、表情を窺う前に顔を戻してしまう。……何なんだ?


「いや……、ふふふ。つい、ね。面白い質問をするなぁ。ツバサ君、僕は君が気に入ったよ。……熟練度と呼ばれるシステム、機構、概念……。それについて、君はどういう解に至ったんだい?」


 ルキウスは椅子を引いてそこに腰掛けた。手には4つのカップが。俺たちはそれぞれに礼を言いながらカップを受け取った。


「熟練度の入り方が一定じゃない理由だ。慣れると一時的に向上しやすくなるが、途中からその上昇幅は小さくなる。他のやり方を試すと、また一時的に上がり、しばらくすると頭打ちになる。……まるで、適正値でもあるかのような……」

「ふふ、ふっははははは……!」


 ルキウスは唐突に笑い始めた。……ホント、何なんだコイツ。


「いや、面白くってね……。そう、まさしく適正値があるんだよ。これこそが重要でね……」


 ルキウスは胸元から眼鏡を取り出した。そうだよな、賢者と言えば眼鏡だよな。……で、何故このタイミングで?

 そして眼鏡を掛けた途端、間延びしたような人当たりの良い声から、冷たい無機質な声へとルキウスの声音が変わっていた。


「熟練度とは、その力量や経験を数値化したステータスであり、いわば能力値だ。だが、それと同時にもう一つ数値化されないステータスが存在している。それこそが適正値と呼ばれるものだ。いいかい、ただ熟練度が高いだけでも、それだけで能力の上下が決定されるわけではない。単純な力比べでもそうだ。コツや感覚を上手く把握した人間は、パラメータだけ高い人間よりも高い能力を発揮できる。そして、ほんの少しの経験だけで高い熟練度を会得できる。これは即ち、適正値と呼ばれるものが存在していて、元来のステータスは熟練度よりもそちらにこそ強く影響されるというわけだ。そして、熟練度は後から付いてくるだけなんだ」


 それはまさしく熟練度システムの裏側。あるいはその本質だ。

 表面に載っている熟練度以外にも影響を与える数値が存在している。熟練度はそれをなぞるだけのシステムでしかない……?


「そして、熟練度の表示には、本人の自覚が条件として存在している。意図しないで繰り返している動作はステータス画面には表示すらされないんだ。たとえば呼吸。吸い方、吐き方にもいろいろあるだろう。呼吸法とかそんな技術だって世の中にはいっぱいある。けれど、それを意識する人は少ない。だからその表示がある人はほとんどいない。けれど、自覚さえすればだれにでも会得できる技能なんだ。そして、簡単に適正値までの向上が図れる」

「その適正値こそが、コツや才能とかそういったものを指している……ってことか……」

「……そうなるね」


 菊花とアリシアはぽかんとしている。……この辺は中二慣れとゲーム慣れが必要なトークだからな。ついてこれなくても恥ではないだろう。

 これで、謎が一つ解けたな。菊花と俺で熟練度の伸びが違う理由。それは菊花の内部的な適正値がすでに俺よりも高かったからだ。

 だから、差が出るのは当然だった。


「厳密に言うなら、それはコツとか才能とか、それだけのものでもないんだよ。想いだって作用している。いわば、意思の力だね。強い気持ちで挑んだほうがなんだって結果は良くなるものだろう? それは適正値に影響が出るからだよ。……とにかくそういった様々な要因が影響して適正値を形作っているんだ。……勉強になったかな?」

「……そうだな」


 ……というか、この眼鏡状態こそがこいつの本気なのだろうか。目つきも鋭いし、雰囲気も全然違う。なんとなく恐れ多いような、萎縮してしまう心地がする。

 賢者モード……、っていうと全然意味が変わっちゃうけどさ。

 ……あるいは眼鏡になんか変な仕掛けでも仕込んでるんだろうか。はっはー、トリックだーッ!(野太い声で) ……みたいな。

 しかし、賢者は眼鏡を少しズラすと、再びあの間延びした喋り方に戻った。忙しいやっちゃな。


「ふぅ……。やっぱりコレ、疲れるなぁ。用件があるなら早めにしてね。僕、あんまり頭を働かせたくないんだよ。コレを付けるとすぐにお腹が減って大変なんだ」


 ……どうやらそれなりにチートアイテムらしい。ただの眼鏡だと思うんだけどな。あるいは自己暗示に近い何かなのかもしれないが……。

 まぁ、せっかくやる気になってくれてるんだ。訊くなら今がチャンスだろう。


「魔王について聞きたい。何か知ってないか……?」

「ぐぅ……」


 寝やがった……ッ!

 どれだけ早めなら間にあったってんだよ! クソッタレ!

 俺たちは顔を見合わせると、それぞれに呆れ果てた顔になった。

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