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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第一翔 [Wistaria Ether -魔王顕界篇-]
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第五羽③

 今まで散々ファンタジーだなと思ってはいたけれど、今回改めてそれを思い知らされた気分だ。

 ああ、まったく。ファンファンしてやがるぜ、ホントに。

 俺は木陰に隠れながらそんなふうに思うのだった。

 すぐ傍には菊花とアリシアもいる。こいつらならそれほど遅れはとらないだろうが、油断こそ最大の敵と知っているからだろう。その顔には慢心や驕りは一切窺えない。鋭い眼差しだけを宿している。

 そして、もう一度視線を木陰の向こうへやる。すると……。


 ケタケタ……、と不気味な音を立てて剣と鎧で武装した骸骨が徘徊している。


 〈ボーンナイト〉。初めて見る外見の魔物だ。

 見た目はかなり不気味で気色悪いが、動きは緩慢で大したことなさそうに見えなくもない。

 問題なのは、数だな……。

 三体から四体くらいの一団が、ここから見えるだけでも四組ほどいる。……合わせて大体十五体前後。

 各個撃破なら、菊花とアリシアで十分対処できるだろうが、同時に囲まれたらさすがにちょっと不安が残る。

 大丈夫かもしれないが、大丈夫じゃないかもしれない。そんな状況で突っ込むようなバカは、この面子の中にはいない。

 だから、俺たちは息を殺して周囲を窺っていたというわけだ。


「……どうする?」

「ここはやり過ごすしかないんじゃないでしょうか……」

「私もそれに賛成だな。守りながらの戦いとなれば、私には少し荷が重い……」


 なにそれ。一人なら勝てるって訳ですかい。とんでもねーな。

 俺ってば完全にお荷物じゃん。


「……ヤツらはそれほど知能の高い魔物ではないのだが、若干の知能は有しているらしい。それ故に隊を組み、纏まっての戦いを行う。少々厄介な手合いなのだ。犠牲を覚悟しなければ少数で戦いを挑むべきではない。……なんとか木陰から抜けるしかあるまい」

「……それしかなさそうですね。くれぐれも気をつけてくださいね、ツバサ様」

「ああ、気をつけてくれよ。私にも庇える範囲というものがあるんだからな」

「……なんでそんなに念を押すんだ?」

「それは自分の胸に訊いてください」


 なんか扱いが酷くなってきたな。まぁ今更なんだけど。

 とにもかくにも、俺だって命を棒に振るような趣味はない。言うことは聞かせてもらいますよ。へいへい。


 そろりそろり……、と先行く菊花とアリシアに付き従い、木陰の獣道を進む。

 視線に映るのはアリシアの鎧姿からでも、ありありと見受けられる大きな臀部。つまりはお尻だ。

 ンだァ、その逃げ腰は。愉快にケツ振りやがって誘ってンのかァ!?

 ……なんて思っていると。飛び出した枝に足が引っ掛かってグラリ……。

 よろめいた俺は、そのままアリシアのお尻に縋り付いてしまう。


「きゃッ!?」


 意外と可愛らしい悲鳴だ。それにしても、鎧越しでも魅力的なお尻じゃないか。性欲を持て余す……ってそんな事態ではなく。

 目に映るのは顔を真っ赤に染めたアリシアと、殺意の波動に目覚めた菊花さん。

 ……わ、わざとじゃないよ。てへぺろ。


 しかし、矛先は俺へは向かなかった。何故なら、何度も言うように今はそれどころではないからだ。

 アリシアの悲鳴を聞きつけたらしい一団が俺たちを探りに来ていた。


「……ツバサ様、あとで覚えていてくださいね」

「……何度も何度も、許さないからな……うぅ……」


 俺は苦笑いで頷くしかできなかった。


 ……幸い、追ってきたのは一団だけだったので、どうにか仕留めることに成功した。

 動きはやはり大したことはなかったんだが、武装している点が少々厄介だった。鎧を攻撃しても決定打にはならないからな。

 骨を狙えばすぐに斬れてしまったし、部分欠損した敵は手数も減り、正直一体一体を見れば大した敵ではなかった。


 しかし、複数でチームを組んでいるというのがこの敵の一番厄介なところだった。菊花とアリシアが優秀だったお陰で事なきを得たが、もしこちらのチームプレイがなければ向こうのフットワークを妨害できずに囲まれていた可能性だってゼロじゃなかった。


 人間は多角的な攻撃にはあまり対応できないものだ。だからこそ挟撃というのは賢い戦術なのだが、それは敵に使われても恐ろしい戦術である。

 そんな当たり前の事実を俺は思い知った心地だった。


「……しかし、少し妙だな。ヤツら、最初から警戒しすぎではないか……?」

「何か、あったんでしょうか……」

「……誰かが警戒網に侵入したとかじゃないのか? ……たとえば例の勇者様とかさ」

「……そう考えるのが妥当だろうな。……となればもしかしたら近くにいるのか? ……アルス様……」


 まぁ、まさしくその通りだったわけだがな。

 そのまま少し進んだところで、鉄と鉄のぶつかり合うような、いわゆる剣戟の音が聞こえたんだ。

 俺たちは周囲を警戒しながらも、そこを目指して走り続けた。そして……。

 感動の再会と、宿命の邂逅を果たしたのだった。

「さて。それではボーンナイトについて話そうか」


え? アリシアのお尻の話はしちゃダメなのん?


「いいわけないでしょう?!」

「いいわけないだろう?!」


……そうか。ダメなのか……。

禁則事項というやつか……。


いや、でもそうだよな……。

幸せってやつは、噛みしめるものだよな。

無闇に語って、価値を貶めるのは本末転倒。


いつでも思い返せるようにつぶさに記憶して、脳内で何度も再生するんだ。

すると、どうだ?

それはあたかもつい先程の記憶であるかのように、その柔らかな感触が思い起こされ、俺の心は至福に満ち――


「ツバサ殿、二度はないぞ」


や、やめてください……。その槍は一般人に突きつけるための槍ではないはずだ……。


「悪人や変質者をこの槍で貫き、人々の安寧を守ることこそが、騎士の本懐だからな」


お嬢ちゃん、本気だな? エライエライ。

悪かったよ、ただのセクハラでしかないしな……。


「分かればいいのだ」

「分かればいいんです」


とはいえ、誘惑が多すぎるのも確かなんだよなぁ……。

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