第四羽⑤
わいわいがやがやとした歓楽街を抜けてゆく。
狭い通りを荷物を抱えた小男やおばさんがすいすいと擦り抜けてゆく。その所作はまるで当たり判定がないかのように悠然としている。ゲームだと言われた方が納得がいく動作だな。
俺はというと、道行く人の足に引っかかって転びそうになったり、飛び出してきた男の子に体当たりされたり、頭上からずり落ちてきた暖簾みたいな布に引っ掛かったりしているうちに、菊花やアリシアからどんどん置いて行かれている。
ま、待って~。置いていかないで~。
なんだかんだで俺は未だにコミュ障だ。見知らぬ人に囲まれた状態はあまりに辛い。怖い。耐えがたい。
だが、早足になればなるほど、注意が疎かになり足下がおぼつかなくなる。
蹴躓き、バランスを崩した俺はそのまま受け身も取れないまま地面へと倒れようとしていた。
足下は石畳。当たり所が悪ければ最悪、死ぬかもしれないな……。そんな、どこか諦観に満ちた感想を思い浮かべた刹那、俺の身体はぐいと、持ち上げられていた。
見上げれば、そこには……。
「危ないな……。まったく、見ていられないぞ、ツバサ殿。仕方あるまい。いいか、この手を放すんじゃないぞ?」
赤毛の女騎士様が、まるでお姫様を支える王子のような所作で俺を抱えていた。
……きゅん☆
見つけた……、私の王子様っ……!
(完全に立場が逆っすね……)
「……むむ」
俺が乙女心に目覚めていると、頭上から呆れたような声と、脇から悔しがるような少女の声が聞こえる。
いやぁ、まぁ逆なのは分かるんだけどさ……。だがしかし、アリシアの騎士っぷりが予想外にナイスガイなんだ。(ちなみにダジャレだ。大いに笑うがいい)
思わずヲトメってしまってもそれは詮ないことだと思うんだ。
それにしてもアリシア、スペック高いな。女子力も高ければ戦闘力も高いし、そのうえ王子力も高いだと……? 完全無欠とはこのことか。
……ああ、頭はあんまり良くないんだったか? まぁそこは確かに、アレだけど。それはそれとして。
俺は緊張しつつも、女騎士のその、華奢なようで意外としっかりしたその手を握り返したのだった。
アリシアに引かれて、歩き始めて思ったのは、その力強さが思っていた以上だったということだ。
これは意思力の成せる業なのだろうか。それとも熟練度システムの恩恵でこうも力強いのだろうか。
ぐんぐんと進むその小さいようで頼りがいのある背中は、迷うことなく前へ前へと突き進んでゆく。
いや、ホントに、きゅん☆ ……ってなるわ、これ。この騎士様超かっけー。ぱねえ。
……なんて思っていると。……ひしっ。
俺の、空いた左手を細い腕が引き寄せていた。
「ツバサ様をエスコートするのは、私の役目ですっ!」
菊花が負けじと意地を張っていた。
そんな様子に、アリシアの大和魂に火が付いたらしい。
「……いや、客人をもてなすのは、貴族の務めだ。ここは私に任せて欲しい」
「いいえ、ツバサ様の先導は私の役目です。貴族様にはもっと大事な役目があるでしょう? そちらを優先して構いませんよ?」
「いや、しかし……、途中で投げ出すのは騎士の名折れだ。ここまで来た以上、役目は私に任せてくれないか?」
「結構です! ツバサ様をお守りするのは私です! 私じゃなきゃ、ダメなんです!」
「な……ッ! 私だって負けられないぞ! 平民を守るのは貴族の領分だ! これだけは譲るわけにはいかない!」
……だんだん修羅場ってきたな。俺の従者と女騎士様が修羅場すぎる。……ってアニメ化しそうなタイトルだな。
そんな二人の鋭い視線が交錯するが、その交差点にいるのは俺だ。……俺は露骨に危機感を覚える。
……ここは、どうにかして俺が二人の矛先を収めさせなければ……。
まずは先んじて動くべきか……?
「……えっと、じゃあ、二人が先導してくれるとありがたいかなー……、なんて……」
「そんな道幅はないだろう」
「狭い道を占有したりしたら、街の人たちに迷惑が掛かっちゃいますよ」
どうして、そういうところにはしっかり良心が働くんだろうね。ふっしぎー!
「キッカ殿が抑えてくれれば全ては丸く収まるんだがな……」
「それはこちらの台詞ですよ。騎士様が遠慮してくれれば万事解決なんですから」
……この子らは……。
はぁ……、こういうとき、俺はどうするべきなんだろうね。たぶん、生易しい選択肢じゃ正解には至れない気がするんだよな……。
となれば……、どうしたもんか……。
平和的にこの場を収めるには……。どちらかを選ぶのが一番簡単だが、それはどちらかを傷つけることになるだろう。それは正解ではない気がする……。
どちらともを選ぶ……。あるいはいっそ、両方とも選ばない……? そういう選択肢もあるのか……?
……考えろ。ギャルゲーで鍛えた知識を総動員させろ。全てを救い、二人を守る。そのために俺にできることは……。犠牲にできるものは……。
俺は……どうすべきなんだ……?
「ツバサ殿……。其方に決めて貰うべきだろう? なぁ……」
「そうですね。ツバサ様に選んでもらいましょうか。さぁ……」
「どっちなんだ!?」「どっちですか!?」
究極の二択、キタコレ!
どっちを選んでもロクな明日が来ない気がするよ! そこはかとなくそんな気がするんだよ、とーま!
……どっちを選んでも、か。いいぜ、だったら、俺の答えは、そのどちらでもない。そしてそのどちらでもある究極の解答を答えさせて貰おうじゃないか!
俺の煩悩を甘く見られちゃあ困るぜ! いいか、目ン玉かっぽじって、よ~っく見ておけよ、アホンダラ!
俺は、俺はなぁ……!
「菊花、アリシア……。今すぐ人気の無いところに行きたい。そこで3×でセ×××したい。今すぐセ×××したい。嫌がる二人の衣服を××して、俺の欲望のままに膨れあがる×××を思いのままに解放したい。お前らの×れた×××に男のシンボルそのものを××して、可憐な花を咲き誇る様を見せて欲しい。三人の愛の結晶が着床するまで迸る××を飽きるほど×××したい。肉欲のままに夜を明かしたい。白い肌を白い××で汚したい。邪魔な衣服を剥ぎ取って、そこに愛の証を刻みつけたい。その可憐な唇からこぼれる淫靡な吐息を杯に淫らな夜を過ごしたい。君らをギターに見立てて、夜の演奏会をしたい。狂宴を彩るのは薔薇と菊の新芽がいい。新芽が咲き誇り、枯れ逝く様を肴に、最高の夜に想いを馳せたい。そのためならば、俺はなんだってしよう。何にだってなろう。何度でも言うさ。俺はお前らとセ×××がしたい。いいだろう? そんなに求めてくれてるんだ。同じ求めるなら、俺は身体を貰って欲しい。いっそ俺の××をもらってくれ。その手で優しく介抱してくれ。そして、俺の劣情を解放してくれ。そして、俺と家族になろう。血と肉を貪りあった、淫靡なる家族になるんだ……」
言うべきことは言った。全部言った。たぶん言わなくてもいいようなことまで余ることなく伝えきった。我が生涯に一片の悔い無し。
あ、嘘。まだ果たしてないから、まだ死ねない。肉欲の夜を迎えるまで、俺はまだ死ねない。
……えるしっているか。よくりゅうもリンゴしかたべない。
俺は世界を攻略する。それだけじゃない。
ヒロインだって攻略してやる! 俺は翼白の攻略者だ!!
……そんなことを思いながら、二つの鉄拳が俺の顔面に突き刺さり、俺の意識はそこで途絶えた。
我ながら、天晴れ也。
すまん。この回に関してはマジで何も言えないんだ。
本当にすまない。
「そうですね。私もよく覚えてません。何かありましたっけ?」
「いや、何もなかったと思うぞ? 少なくとも私の記憶にはないな」
ともあれ、王都でやるべきことは他にも色々とあったはずなんだが、あまりの記憶の薄れっぷりにそのまま飛び出してしまったような気がする。
本当なら、王都でラビット・イーターの素材を使って武器を作ってもらうとか、色々やる予定があったはずだったんだが。
「まぁ、こればかりは仕方ないですね!」
「そうだな、仕方あるまい」
勇者を追いかけるという目的もあったしな。
ゆっくりしている余裕もなかったしな。
うん、しょうがなかった。
「そうですね」
「うむ、そうだな」
とくに掘り下げる内容もないし、今日はこれにて解散、ということでいいな?
はい! じゃ、かいさーん!




