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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第二翔 [Wistaria EtherⅡ -魔王封印篇-]
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幕間~シャルロッテ姫の憂鬱~

 ワタシはシャルロッテ。

 高貴なる魔族の王女よ。


 頭を垂れなさい。

 ニンゲンも魔族も、等しくワタシに忠誠を誓うのよ。

 わかったなら傅いて、服従するの。


 反逆なんて許さない。

 歯向かうなんて愚の骨頂。


 ワタシは魔族の頂点に君臨する魔王の娘。

 この力に全ての愚民が平伏すの。


 そうして世界は回っていた。

 ……はずだった……。


 けれど、お兄様がいなくなったときから、ワタシの全ては狂い出した。


 お兄様。

 魔族の王子にして、世界の救世主。

 最強の魔王に叛逆する、世界の覚醒者。


 ワタシにとっては誰よりも優しくて、強くて、頼りがいのある人。

 ワタシの、大切な人。


 お兄様は、誰よりも世界の未来を案じていた。

 誰よりも優しくて、賢いお兄様は〈覇者〉であるお父様に世界を委ねる危険性を示唆していた。

 正直な話、ワタシにはよくわからなかった。

 でも、お兄様が言うからには正しいに決まっているわ。

 誰がなんて言おうとも、ワタシはお兄様についていく。

 そう、誓ったの。


 今となっては遥か昔の話。

 魔王とお兄様は戦ったわ。

 それこそ世界を揺るがすような激しい戦いだった。

 天を割り、地を砕くような戦いは三日三晩続いたけれど、その終わりはあまりにも唐突だった。


 魔族封印。

 それは魔族という概念を封印するという大規模な術式だった。

 人間族の〈三者〉と〈三使〉、合計十二人による壮大な封印術式は魔族の因子を標的に、時間と空間を隔てた亜空間へ封じ込めたという。


 もちろんその標的にはワタシも含まれていた。

 魔王城を中心に一定以上の魔力を持つ魔族たちが、魔法に囚われてしまう。


 けれども、それはまだマシな状況だったらしい。

 本来なら世界中全ての魔族を封じ込めるような超大規模な術式だったらしいのだから。

 それを防いだのは、とある魔族の女王。

 ううん、つまりはお母様のことだった。


 お母様――イシス王女は大規模魔術を即座に看破し、魔術に介入した。

 標的情報を改変し、位置情報を設定。

 対象は、全ての魔族ではなく、高い魔力を持つ魔族へと改変したのだ。


 その結果、お母様は魔術回路に焼き尽くされて灰すら残さずに焼死したらしい。

 お母様も優しい人だったけれど、何かと忙しくしていることが多かったから、あまり話した覚えもない。

 だから、あまり悲しいとは感じなかった。

 お母様の側にはいつも巨大なサンドホエールがいたけど、あの子もきっともう生きてはいないでしょう。

 長い時間が経ってしまっているし……。


 そんなお母様の活躍も知ったのは後になってからのことだった。

 それもそうよね。

 ワタシは封印術式で意識もないまま、亜空間に閉じ込められていたのだから。


 開放の瞬間は一瞬のことだった。

 少なくともワタシにとってはね。

 外ではどれくらいの時間が経っているのか、検討もつかなかった。

 まさか、何百年も経過しているだなんて、本当に悪い冗談だと思ったわ。


 魔族は徐々に復活し始めているようだった。

 経年劣化で術式に綻びが生まれたらしい。

 あるいは、術式に使われていた〈血の誓約〉も関係しているかもしれない。


 〈血の誓約〉だのなんだのの話は軍師から聞いたものよ。

 ワタシも詳しくは知らない。

 ただ、〈三者〉と〈三使〉の一族が血を絶やしてはならない、というのがその約定に含まれているらしいのよね。

 つまり、一部の〈三使〉の家計が根絶されたら、魔族の封印が弱まる、ということらしいわ。


 まぁ、一言でまとめれば経年劣化ってことでしょ?

 間違ってなければどうでもいいわ。

 話を進めるわよ?


 目覚めてからはわりとすぐに〈軍師〉に会ったわ。

 相変わらずいけ好かない陰気な男だったけれど、良い情報を寄越してくれたわ。

 それは魔族の封印を解除すれば、お兄様も開放されるということ。

 復活した魔族たちは徐々に、魔王軍としての活動を再開しているということ。


 魔王軍の働きには、正直何も興味なんてないけれど、お兄様の復活だけは話が別よ。

 だから、ワタシは気まぐれにほんの少しだけ協力してあげることにしたの。

 ……〈軍師〉の命令に従うのは癪だけれどね。


 僥倖だったのは魔王城とは遠方で封印されることになった〈影武者〉ケイオスがこの段階で復活していたことだった。

 以前の戦いのときに人間側への奇襲役として潜ませていたことが功を奏したらしい。

 隠蔽魔術で魔力を抑えていたことも幸運だったようね。

 おかげで〈軍師〉が仕組んでいたトリックも上手くいったようだった。


 それにしても〈軍師〉の策略も大したものよね。

 お兄様と〈覇者〉の戦いが始まる前から封印の気配を察知していて、そのための準備を万全に行っていた。

 術式の改変を行ったのはお母様の独断だったはずだし、全てが計算尽くとは思わないけれど、実行した数々の謀略は、結果的に魔族にとって素晴らしい戦果を残している。

 それくらいは評価してあげてもいいかもしれない。


 あとは、知っての通りね。

 ニンゲンたちは魔族を封印するために、魔族の開放術式を進めてしまい、ついには〈覇者〉とお兄様が復活した。

 ワタシの望んだ通りの結末になったわ。


 ……そのはずなのに。

 最後だけが計算外。

 ホントに……。

 はぁ……、どうしてこうなったのかしら。


 あのニンゲンたち。

 ワタシを負かした憎らしいニンゲンたちに復讐したくて、ワタシは戦いを挑むはずだった。


 けれど、お兄様はニンゲンたちをかばった。

 そして、ワタシはニンゲンたちの転移術式に巻き込まれてしまった。


 厳密に言うと転移術式、とは少し違うらしい。

 そこは時空の流れが存在しない、亜空間だった。


 それは、記憶にはないけれど封印された後の幽閉世界と同じようなものらしい。

 けれど、世界とは断絶されたその空間は、仮初の場所でしかない。

 元の世界には帰れない。

 そして、二度と生きては帰れない。


 ……そんなの信じられると思う?

 ワタシが、死んだってこと?

 お兄様がいたのに、ワタシが殺されたってこと?


 許せない!

 絶対に許せないわ!


 けれど、肉体は既に消失していて、精神体のみになってしまった以上、ワタシに残された選択肢はこの男、ツバサの従者になるしかない。

 屈辱よ。

 こんな冴えない男に付き従うなんてまっぴらごめんよ!

 お兄様に再会したら、この男をメタメタに叩きのめしてもらうんだから!


 だから、こんな情けないことは今日限りよ。

 ……なに?

 魔族の娘、……あんた、ナズナっていうの?

 よろしくじゃないわよ、あんたあんなのの何処が良いわけ?


 あぁ、もう、わかったわよ!

 わかってるわよ!

 ここでどんなに喚いたところで、お兄様には逢えないし、助けてももらえない!

 だったら、いいわよ! 

 従者だかなんだか知らないけれど、付き合ってあげるわよ!


 そのかわり、覚えてなさい!

 お兄様に逢ったら、従者なんておしまいよ!

 すぐにおさらばしてやるんだから!


 そのときは覚悟しなさいよね、ツバサ!!

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