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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第二翔 [Wistaria EtherⅡ -魔王封印篇-]
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第二十羽(急) 【人魔相克】 ①

 〈武者〉の気配が感じられなくなってしばらくが経過した。

 時間的にも距離的にも、戻ってこないことを確信してから俺たちはようやく一息つけたのだった。


 まぁ、戻ってくる可能性という点で言うなら完全にゼロというわけではないんだが、〈武者〉側も魔王に合流せずにここで時間を潰すことは本意ではないはずなので、実質ゼロと言い換えても問題あるまい。


 とりあえず近くの岩場(というよりは〈武者〉が掘り起こした岩盤)に腰掛けてのミーティングタイムだ。俗に言うちょっとタンマというやつである。


「なぁ、あの〈武者〉とか言うやつは何なんだ? なろう主人公か何かか? 完全にチートクラスの強さだっただろ」

「何を言ってるかはともかく、何を言いたいかはわかるわ」


 リチアの困り顔を見るに、わりとガチでやべえ強さらしい。まぁ、そりゃそうでしょうね。


「あれ、絶対転生しとるわ、うちラノベで見たことあるし……」

「うち……? ナズ姉しゃべりかたヘン、です?」


 夕凪とゲートから出てきたナズナの中二病組も動揺を隠せないらしい。

 確かに〈不死鳥〉を前提に戦うっていうのは初めてだったかもしれない。

 暁星さんも馳せ参じたくらいだしな。

 ……そういや戦闘終了と同時にいなくなったな。本当に戦闘専門だったのかも。


「申し訳ありませんツバサ様! 従者として傍にいられなかったこと、反省してます! 今後はこの身を盾にしてでもお傍に使えますので!」

「それであればわたくしも! この身を捧げる所存でございます!!」


 菊花と待機していたルリによる、お付き組(もうこういう呼び方で良いか?)も行き過ぎた忠誠心を見せる。

 が、盾になられても困る。

 精神的に穏やかではいられないし。

 それに内なる冷静な人格が邪魔だと一蹴している。


 ともかく、一度みんなを(俺自身もだが)落ち着かせる必要があるな。

 そのうえで、目標をもう一度見定めるべきだ。

 敵は誰で、誰を倒すべきか。その間の障害物に、どう対処すべきか。


 腰を落ち着けた一同に、リチアは改めて告げる。


「〈武者〉の格は龍に逼迫してる。アリシアちゃんに呪いをかけたあの巨大な砂鯨の更に格上。はっきり言って洒落にならないわ」

「……冗談だと思いたいが、リチア殿の話は本当だ。目にした以上は信じるしかないな。あれは正真正銘の化け物だった」


 アリシアもわずかに肩を震わせる。

 隣の席のルリがその肩をそっと撫でていた。おお、てぇてぇ。

 と、ほっこりしている場合でもないか。


「龍と同格。それは戦って俺たちが一番自覚してる。今の所どんな一撃でも倒しきれる自信がない。だったら魔王の撃破に専念すべきなんじゃないか?」

「だが、それは勇者がするのではないのか? ツバサ殿の役割については聞いたが、そもそも勇者が倒せば済む話だと思うのだが……」


 リチアが無情にも首を振った。


「残念だけどそれはムリね。勇者には倒せない。だからこそツバサくんが呼ばれたの。そこまでは紛れもない事実よ」

「バ、馬鹿な! あの勇者が敗れるだとッ?! そんなことが……ッ」


 勇者の幼馴染としては、その言葉はあまりにも残酷で信じがたい言葉なのだろう。

 俺もなんとなくは察していたが、改めて言われると少し堪えるな。

 〈翼龍〉としての重荷が俺の心にズシリとのしかかってきていた。


「仮にその障害があの〈武者〉一人だったら回避すれば良いだけの話だ。倒す必要すらない」

「けど、そんなことありえるでしょうか? あの〈武者〉が仕える王です。魔王は当然それより強いんじゃないでしょうか?」


 リチアはそれに肯定も否定もしない。

 ただ淡々と話を続ける。


「簡単な話よ。〈武者〉が妨害に入らない隙をついて魔王を仕留める。それだけで世界は救われてこの世界での役割は終了よ」

「そんなうまく行くのかよ……」


 呆れ声の俺をリチアはさらりと流した。


「邪魔なら一緒に仕留めるしかないわね。ツバサくんの全能力を発揮できれば不可能ではないわ。……もっとも、それなりに困難ではあるけれど」

「そんな分厚い『それなり』は初めて聞いたけどな」


 俺の軽口すら「あら、ツバサくんのハジメテ、奪っちゃったわね」なんて、少しハレンチな流し方をされては、俺も口をムニムニとニヤつかせて黙るしかなかった。

 なんせ俺の童貞力は53万なのでね。


 ミーティングはそれ以降まともに機能しなかったので一旦お開きになった。

 大聖堂まではもう近いところまで来ている。

 戦況次第ではそろそろ剣戟が聞こえてもおかしくないだろう。


 俺たちは再びゲートを開いて仲間をホームへ送り返すと、そのまま馬に跨って街道を駆け抜けた。


 一方その頃――。


 俺の脳内では、複数の人格が並列起動していた。

 それぞれの人格たちは、思い思いに意見を投げ合っている。

 それはまぁ、脳内会議と呼ぶには似つかわしくないような、煩雑なものだった。


『なぁ、他の人格たちよォ。俺様の声が聞こえるかよ』


 第一声は暁星のものだった。


『ん~? 聞こえてるけど~?』


 間延びした声は雷帝だな。


『頭の中が騒がしいな。お前らそんなに饒舌だったか?』


 一応俺も呼びかけてみるが、場違い感が半端ない。

 だいじょうぶか? キレられたりしないよな。

 暁星のべらんめえ口調がちょっとばかし怖い気もする。


『自分相手にキレるかよバーロー。……にしても、あいつはまだ起きねえのか』


 あいつ……?

 誰のことだ?


『鳳はまだ安定してないみたいだねぇ』


 雷帝のほうが質問に答えた。

 鳳、菊花が敬愛してやまない前の世界のツバサ様のことだな。

 一時期目を覚ましていたはずだが、それ以降は音沙汰ないらしい。

 〈翼白〉などは鳳が目覚めてから顕在化したスキルなので、〈翼白〉起動中は存在を感じることもあるんだが、それもごく稀にだし基本は眠り続けたままだ。

 いつまでこうなのだろうか。


『さてな……。この世界での熟練度がもう少し上がりゃあ目覚めやすくなるかもだが、それも確かじゃあない。あるいは龍力が足りねえのかもな。もしそっちだったら下手すりゃずっとこの調子かもしれねえ』

『まぁ、そこに関してはまだ分かんないよねぇ』


 ということらしい。

 龍力が何なのかはまだよく分からないが、すぐに解決できないなら心配するだけ無駄というわけだ。気にしてもしょうがない。


『んで、他の人格どもはまだ目覚めねえのか? 並列起動できる人格が多いほうが色々と有利なんだがな』

『どうなんだろうねぇ。もうちょっと他の熟練度を上げたら目覚めるんじゃないの?』


 なるほど、どうやら俺のせいらしいな。

 熟練度上げをするべきだったか。

 死線を潜る際に目覚めやすい気がするけど、因果関係はあるんだろうか。


『あるんだろうねぇ。この世界の熟練度は精神にまで影響を及ぼしているから、追い詰められた環境のほうが熟練度が上がりやすいっていうのは確かな気がするよ~』


『……となれば、次の修羅場でもう一人くらい目覚めるか?』


 ……そんなほいほい覚醒してたまるか。

 というより、人格の覚醒が何の有利に働くっていうんだ?


『分からねえのか? お前だって気づいてんだろ? この世界の魔法は、心と密接な関係がある』

『オイラの孤立心が雷属性の熟練度を上げたみたいにさ、感情と魔法には深いつながりがあるみたいだよねぇ』


 そういえば、俺が風の魔法を編み出したときも、逃げたい、自由になりたいっていう感情がキーになっていたんだっけな。

 でも、それと人格がどういう影響を及ぼすっていうんだ?


『お前だって一度試していただろう? 複数の魔法は同時には使えない。それは複数の意思を同時には描けないからだって』


 確かにそうだ。

 この世界において、魔法の発動には強い意志が必要になる。

 感情と属性が、この世界ではリンクしている。


 雷属性なら孤立心が、風属性なら逃避心が、そしてたぶん炎属性なら闘争心が鍵になっている。

 同時に複数の感情を強く想起させるのは難しい。

 心は一つしかない。


 だから、同時に使える属性はひとつだけ。

 それは俺が過去に見出した答えだった。


 ――だが。


『俺様たちの心は、どうだ? ひとつしかないか?』

『同時に複数のことを考えられるよねぇ』


 ――マジかよ。

 俺だけが、俺たちだけが、使える。

 複数の魔法を、同時に使える――!!


『同時に人格を顕在化させたことはねえが、似たようなことは何度かあった』

『っていうかぁ、顕在化までさせなくても魔法を使うだけならどうにかなるかもー』


 できる。

 いけるかもしれない。

 極大殲滅魔法メド○ーアで敵を消滅させられるかもしれないわけだ。


『それは無理だ』

『ムリだねー』


 いや、諦めんなよ! もっと熱くなれよ!


 まぁ、メド○ーアはおいておいて、魔族三人組のモノマネくらいならできるかもしれない。

 それだけでも十分な戦力になる。

 それに組み合わせ次第ではかなり凶悪なコンボもできるかもしれない。


 惜しむらくは、それを練習する時間が作れないことだが、ぶっつけ本番でどうにかするしかあるまい。

 敵はあまりにも強大なんだ。

 それくらいのチートスキルはご容赦願いたいものだ。


 かくして俺たちは奥の手を思いつくのと同時に、大聖堂のすぐ足元まで辿り着いたのだった。

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