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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第二翔 [Wistaria EtherⅡ -魔王封印篇-]
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第二十羽(破)⑭

 〈武者〉の持つ能力でまず初めに一番厄介だったのが、その打たれ強さだった。

 というよりも、〈翼白〉を使わない限りあらゆる攻撃が無効化されてしまうのだ。

 サーヴァントで例えるなら、ヘラクレスだろうか。

 一定以上の威力がないと攻撃が無効化されてしまう、敵として現れたらゲームバランスが崩れてレビューが大荒れするような感じか。


 そのせいで実質一対一になってしまった。

 せっかくの多勢を、まったく有効に使えていない。


 とはいえ、敵の攻撃力も凄まじい。

 いくら〈不死鳥〉で蘇生できるとはいえ、無限にデスアタックができるわけでもない。

 リスクを考えれば、仕方ないことではあるんだが……。


「まだまだ付き合ってもらうぞ、なにせ一千年ほど眠っていたのでござるからな……」


 戦いは終わらないらしい。

 勘弁してほしいところだな。


 〈武者〉は大剣を下段に構えた。

 そしてそこから動いた、と思った瞬間には暴風が吹き荒れていた。


 それはいわば剣圧の暴風。

 剣を振った際に生じる風圧だけで吹っ飛ばされそうになるような猛烈な風に晒される。

 今度は飛ばずに済んでいるが、これは〈翼白〉で相殺してるからだな。

 でなきゃさっきみたいに、嵐の前の虫みたいな儚さで戦線離脱していたところだ。


 だけど当然、耐えたところで戦況は好転しない。

 なんなら相手は、さらなる追撃を放とうとしている。

 このまま防戦一方で良いのか? 普通にヤバくないか?


 そもそも敵はおそらくこちらより強い。

 攻城戦なら守るほうが優位かもしれないが、対人戦では果たしてどうだろうか。

 全力で殺しに行かなきゃ、生き残るなんて絶望的では……?


 つーか、そもそも俺自身だって〈不死鳥〉スキルで蘇生できるんだから、その利を捨てるのはアホだ。

 なんなら敵の魔力を全て奪って〈白楼〉で勝てるのでは?


 俺は〈翼白〉を全身に纏い、敵の攻撃に含まれる魔力を奪い、威力を殺す。

 奪ったエネルギーをそのまま〈白塵〉に変換して、極大の剣を精製する。

 返す刃で放たれた大上段の一撃必殺!

 瞬け! 明星の光!


「〈白楼ミトラスティア〉!!!!!!」


 今の俺に出せる全力の攻撃だが、さすがに倒せるはずだ。

 魔族の王女さま? も圧倒したし、〈イシスズ・スローン《ザ・カタストロフィ》〉すらも絶命させた技だ。

 仮に死んでなくとも、かなりのダメージが入っているはず。


 だから、俺は一瞬気づけなかった。

 悲鳴のようなその声に。


「ツバサ様!! 逃げて!!!」


 ブシャアアアアアーー!!! と、水の吹き出すような音が聞こえた。


 まさかそれが俺の心臓から血の吹き出す音だなんて想像すらしていなかった。

 俺の血飛沫を浴びながら、〈武者〉は凄絶に、笑みを浮かべる。


「久方ぶりでござるな。拙者の鎧を砕き、流血せしめた者は……」


 なんか言っているが、よく聞き取れなかったな。流血? 誰が?

 視界がクラクラする。ヤバいな。早く蘇生しないと……。

 そうだよな、俺よ……。


(ああ、そうだぜェ……。もうひとりの俺様よ)


 仮死状態のせいか、走馬灯のせいか、時間の流れが急に遅くなった。

 そして、今度ははっきりと声が聞こえる。


 雷帝以来となるが、またもや別人格さんですかね。

 今度は随分と荒々しそうな益荒男が現れた。


(益荒男って表現も嫌いじゃあねェが。俺様の名前は違うぜ、相棒)


 別人格に相棒呼ばわりされるのは違和感しかないんだが、まぁそれは置いとくとしようか。

 とにかく、じゃあなんて呼んだら良いんだ、俺様さんよ。


(良いか、よく覚えておけ。もうひとりの俺様よ。俺様の名前はなァ……)


 〈不死鳥〉発動。


 破れた心臓が瞬時に修復されてゆく。

 そして……。


 〈白炎〉発動。

 周囲が白い炎に包まれてゆく。

 地面が、林が、白に包まれ、炎が立ち上る。


「覚えておけ鎧野郎。俺様はツバサ。暁星あかぼしのツバサよォ……」


 俺の身体の主導権が暁星に渡された。

 随分とべらんめえ口調だし、俺様キャラだし、なんとなく肌に合わないが、それなのに何処か共感がある。

 なんか不思議な感覚だが、これは別人格だが同一人物ゆえの現象なのだろう。


 よくよく考えると俺にはあといくつ人格があるんだ?

 一人称が『私』の丁寧系もいたような気もするが、そのうち出てくるのか?

 まぁ、それは今は考えなくても良いか。


 暁星の俺が〈武者〉と対峙する。


 〈武者〉のほうは先程の〈白楼〉で手傷を追ったようだった。

 黒い甲冑が半ば砕かれ、右肩から脇腹あたりまでの地肌が露出している。

 吹き出す血はそれなりのダメージを物語っていたが、とはいえ、あまり弱体化した印象はない。


 あれだけの大技でそんな程度のダメージしか入らねえのかよ。

 嘘だろ……。


 対する暁星は愛剣を肩に乗せて、悠然と構えていた。


「ふむ、その変わりよう……。多重人格者でござるか」


 〈武者〉はより警戒を強めたように言う。

 人格ごとに得意とする戦い方が違うことまで、見抜いたのかもしれない。


 ちゃんと確認したことはないが、おそらく熟練度も人格ごとで違いがあるはずだ。

 いや、でも相互に影響が出ている点もあるし、実質変わらないのか?

 そのへんは落ち着いたら要検証だな。


 とはいえ、主人格や単独行動重視の〈雷帝〉など、それぞれに役割が与えられている。

 〈暁星〉は、好戦的な性格のようだが、その役割は何なのか。


「……言うまでもないだろ? 俺様は戦闘専門だ」


 言うが早いか、暁星は左手を掲げる。

 練り上げられた魔力が爆炎となり、ぶつけられた〈武者〉は炎に飲み込まれる。


 まぁ、これはダメージにはならないだろう。

 今までの印象から、それくらいは想像がつく。


 やはりというか何というか、炎をものともせずに立っている。

 佇む姿は、どこか伝説のソルジャーを思わせる。

 思い出の中でじっとしていてくれ。


「その程度でござるか? いささか拍子抜けだが……」


 しかし、しばらくして気づいた。

 『炎が燃え尽きない』ことに。


 意識の共有があるから俺には分かるが、この炎、〈白炎〉はバフとデバフを兼ねた魔法だ。

 〈白炎〉の周囲からエネルギーを取り込み、蒸気が龍力(翼龍として使われるエネルギー)として自分に還元される。


 暁星は燃え尽きない。

 敵を殺すまで戦い続ける。

 そんな生粋のバトルジャンキーのための能力だった。


 敵はそれに気づいたのだろうか。

 これほどの実力者であれば、多少は読み取れてもおかしくはないか。

 だからこそ、その顔には若干の翳りが見えた。


 戦いを続けるべきか、止めるべきか。

 天秤はどちらへ傾くのか。


「ふむ、成程。その技の果てを見たいところではござるが、拙者も将の一人ゆえ。此度は引かせてもらおう」


 〈武者〉はそう言うと、さしたる警戒心も見せずにこちらに背を向けた。

 迂回して大聖堂へ向かうのだろう。


 俺たちはそっと胸を撫で下ろしたのだった。

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