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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第二翔 [Wistaria EtherⅡ -魔王封印篇-]
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第二十羽(破)⑬

 近くにやばい敵がいるらしいということで、足を止めることになった俺たちだったが、パーティ編成を終えても敵側の動きが全く無かった。

 膠着した状態の中、思い起こされるのは先程のリチアの言葉。


『従者以外は〈不死鳥〉で生き返れない』


 〈翼龍〉と呼ばれる、世界と世界の調停者が俺の役割だ。

 何度も死にかけ、生き返ると同時に記憶を失うことで戦い続けてきた渡り龍。


 そして、それを補佐する従者たち。

 彼女らも元は人間だ。

 契約を交わし、人の理を外れた龍の眷属。


 龍の一分となることで、彼女らもスキル〈不死鳥リセッター〉の影響下に置かれることになる。

 そうなれば、俺のエネルギーを使い尽くさない限りは蘇生ができる。


 だからこそのパーティ構成。


 ナズナやルリには悪いが、今回ばかりは二人とも亜空間内のマイホームで待機だ。

 流れ弾で死んでしまっては、あまりにもやるせない。

 ついて来たがる二人を置いて来るのは、あまりに忍びなかったが、今回ばかりは涙を呑んでもらう。

 今度なにかお詫びを用意しないとな。


 そんなわけでパーティは俺、菊花、夕凪、リチア、アリシアの五人。

 前衛は俺を含めて三人。後衛は二人。

 バランスはまぁ良いほうだろう。


 敵がどんな戦い方をするのか、分からないところは辛いけどな。


 とはいえ、後は待つしかない。

 吐き気がするような重たい空気の中、ただひたすらに待つだけの重労働。

 せめて待っている間に可能な限りの準備をしておこう。

 人間誰だって、死にたくはないんだ。


 10分か、あるいは1時間か、体感時間が長すぎて正確な時間は分かりかねるが、とにかく敵は来た。

 徒歩だ。

 淀みない徒歩で、敵はこちらに向かっている。


 見た目は重厚な甲冑の男だった。

 漆黒の甲冑。千人の血を浴びてもまだ足りぬと言わんばかりの真っ黒い甲冑だ。

 図体は、でかい。……すごく、大きいです。

 2メートル以上は優にある巨漢。


 甲冑の男は俺たちから30メートル程度距離を開けたところで立ち止まった。

 ……ギリギリ会話ができそうな距離だな。

 そして、向こうから声を掛けてきた。


「拙者が〈武者〉でござる」


 そりゃそうだろうなと思ったが、ここで言う〈武者〉は当然〈三者〉の一人である〈武者〉のことだろう。

 魔族側の〈三者〉……。〈死者〉の次は〈武者〉か。

 果たしてじゃあ魔王は〈何者〉なんだろうかと思いあぐねていると、向こうが言葉を投げかけてくる。


「……主らは人でござるか? どうにも気配が読み切れぬのでな……」


 ……ござる口調は想定外だったが、どうやらこちらが人でも魔族でもないから手をこまねいていたようだった。

 ……どうしたもんかな。


「……人ではない、かな」


 なんとなく言い淀みつつ答えるが、それを聞いた敵は然り! とでも言うように手を叩いてカカ、と笑う。

 わずかに緊張の糸を緩めた俺だったのだが……。

 リチアが表情を引き締めていた。


「だが、魔族でもないのでござろう?」


 瞬間。

 急に剣呑な気配をまとい、〈武者〉は剣に手を伸ばす。

 背中から引き抜いた大太刀は、男の偉丈夫と同等の2メートル近いサイズだ。


「ならば少しばかり、肩慣らしに付き合ってもらうぞ」


 眼光が光ると同時に抑えられていたらしい膨大な魔力が迸る。

 まるで冗談だった。

 今まで感じていた重厚な威圧感すら、制御された魔力の余波。

 その全力は、今まで出遭ったどんな敵よりも強大な化け物。


 今更ながらに思ったよ。

 リチアの判断は間違いなかったんだってな。


 まるで暴風域にでもいるかのように吹き荒れる魔力の奔流の中、〈武者〉はその重厚な姿に見合わない神速を以て肉薄していた。


 単純なタックル。

 それだけで俺は真横に吹っ飛び、林の木立を2、3本へし折って大木の根元に叩きつけられた。


 最低限の防御姿勢を取れていたからか、意識を失うまでにはいかなかったが、その一歩手前までは来ていた。

 しばらく呼吸すらままならない状態のまま、目を逸らすまいと視線を上げた。


 そこに。

 大太刀を振り上げた〈武者〉を見てしまった俺は全力で回避を選択する。


 〈白式〉を起動して筋肉を強制的に動かし、無詠唱で生み出した風を使って強引に横へ飛ぶ。

 手に若干かすったような感触を感じながらも、なんとか距離を取り愛刀の〈白縫しらぬい〉を抜き放つ。


 《カリオネ・スイーパー》の鎌腕を加工して親方に作ってもらった剣に、白から連想できる格好いい名前を夕凪、ナズナと一緒に考案してもらった自信作だが、問題は俺にそれを使いこなせるかどうか……。


 猛攻を続ける〈武者〉の剣を、しかし直接受け止めることはできない。

 あんな『力こそパワー』を体現するような膂力を受け止めきれるわけもないからな。

 SEKIR○で鍛えた弾きスキルを遺憾なく発揮して、俺は回避に専念する。

 無論体幹ゲージが削れるわけでもないが、俺は狼ではないので仲間がいる。


「疾風千塵衝!!!」

「ブレイヴランス!!!」

「スパイラル・ピアーズ!!!」

「パルス・レイザー!!!」


 4人の大技を背中に受ければ、いくら巨漢でもひとたまりも……。

 否、微動だにしていない――!!!

 いや、少しはたじろげよ!! いくらなんでもおかしいだろ!!


 俺は眼前に迫る大太刀を、愛刀で受け止めた。

 しかし、力が違いすぎる――。

 ギリギリと刃が鳴り、迫りくる死の刃に、俺は一つの諦めの境地に至った。


 ふわり。


 白い羽根が舞った。

 敵の力が弱まり、俺は〈武者〉の剣戟を弾ききった。


 〈翼白〉発動――。


 スキル〈翼白〉は周囲の魔力を吸い上げ、自らのエネルギーに変換する。

 これは翼龍が持つ初期スキルのひとつ。

 人間や魔族など、普通の生命体とは存在の格が違うのだ。


 リスク無しで勝利はできない。

 〈翼白〉の吸収量を大きく上回る大技を使えば、俺は記憶を失うだろう。

 俺はそのリスクを取った。

 ノーリスクで勝とうなどという甘い考えを諦めた。


 〈翼白〉を白縫に纏わせて〈白刃〉を形成する。

 これにより魔力を纏わせた攻撃を無効化できる。


 これなら〈武者〉に対抗できる。


「どうだよ、そろそろ肩は慣れたか?」


 〈武者〉は甲冑の内側でニィ……と相好を崩した。

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