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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第二翔 [Wistaria EtherⅡ -魔王封印篇-]
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第十八羽⑤

 世の中には因果というものが存在している。

 つまり、よくよく考えれば予測できる事柄ではあったのだ。

 それでも俺たちは気づくことができなかったし、対策もしていなかった。

 全ては後手に回ったのだ。


 まぁ、そんなことはこの世界に来て慣れっこだったし、対策が事前にできて上手く対処できたことなんてほとんどないわけだから、やはりどう足掻いても結果は変わらなかったのだろうが、それでも反省点はある。

 俺たちがこれから向かう場所は秘境――〈碧宝貝蔵〉(エメラダ・カリオネ)。

 そこは未だ多くの謎が残された秘境となっている。

 発見から数百年が経過しているが、未だ表層のみしか探索が進んでおらず、地下空間の存在は認められているものの、その道を探り当てた者はいない。

 それは崩れやすい礫岩系の岩石が多く含まれている土壌のため、掘削作業が進められないのだ。

 生き埋めになるリスクも高いし、深層域が埋没してしまっても困る。そういった事情から探索は一向に進んでいない。


 そして何より、大規模な遠征部隊を送り込むことは、とある危険性を大幅に高めてしまうため、誰もできなかったのである。

 終末街道という名前は、終末を思わせる風景と、過去の大戦から失われた栄華から名付けられたと言われているが――。

 実は由来がもう一つ存在する。


 それは、とある魔物に出遭でくわしたとき、文字通り人生の終末を迎えることになるからだ。


 まるで、古代の秘境を守るかのように、その魔物は一度だけ大きく息を吸う。

 そして、それに呼応するかのように地面がビリビリと震える。ささやかな振動が大地を震わせた。

 その瞬間、魔物はあるものを捕捉したようだった。

 周囲の振動から、周辺の気配を探る。コウモリの超音波、〈定位測定〉(エコー・ロケーション)と似たような性質だろうか。

 碧い魔結晶と、その傍にいた小動物目掛けて、魔物は『急浮上』を開始した。


 その瞬間。全てを呑み込む魔物、古代の捕食者とも呼ばれる存在――〈イシスズ・スローン《ザ・カタストロフィ》〉がその姿を現した。


――


 突如ぱっくりと地面が割れた。

 まるで仕組まれた落とし穴みたいに、まるごと地面が消失して、身体が自由落下を始める。

 巻き込まれたもふもふ――〈ホワイトテイル〉を助けようとしたルリも一緒に足場を失った。

 そんなルリを助けたのは意外にも菊花だった。

 暗器のようにナイフを放り、その柄に仕込まれた糸がルリの片腕に絡みつき、命からがら救い上げていた。


 とはいえ、それは空中で止まっているだけで、安全を保証できるような状態とはとても言えない。

 なにより、俺たちに訪れた異変はそれだけでは治まらなかったのだ。


 ブォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


 そんな大音声が落とし穴と化した空洞に響き渡る。

 思わず身の毛がよだつような不快感を覚える。

 そして、下方に放たれていたナイフが落とし穴の壁から弾かれるのを合図にしたかのように、大穴から巨大な何かが飛び出してきた。


 ナイフが抜けるのと同時に糸を引き上げていた菊花がルリを引っ張り上げていたのだが、どうにかそれは間に合ったようだった。

 そして落とし穴から飛び出して、巨大なそいつは大空へ舞い上がる。

 空を睨むと眩い日の光を一身に浴びて、そいつは巨体を翻していた。

 その姿はまるで――。


「ポボルバル……、ラブー……、モンス……いや、とにかくデカイッッッ!!!」


 狩りゲーとか海賊マンガとか海外アニメとかで似たような生き物を見たことあるような気がするが、とにかく一言でまとめるなら、そいつは巨大なクジラだった。

 その巨体が重力に負けて、徐々に降りてくる。落ちてくる。というか墜ちてくる――。

 それは、巨体どころの話ではなく、言うなればそれは、まるで島そのものが墜ちてくるような……。ともかくそれは絶望的な光景だった。


 大口を開けながら墜ちてきたそいつは、再度地面に大穴を開けて地面へと潜っていった。

 まるで地面などないかのようにあっさりと潜っていったが、地面が大きく揺れるので重量や魔法を駆使しての荒技のようだった。

 このままどっかに言ってくれないかなとチラッと考えたりもしたが、細かく震え続ける地面がそんな甘い期待を儚くも破り去ってしまっていた。


「えっと、リチアさん。あれの〈解析〉にはどれぐらい掛かる?」

「……分かってて訊いてるでしょ。……5時間は欲しいわね」


 どうやら無理らしい。ま、分かってはいたけど。〈解析〉完了すれば敵は死ぬという完全チートスキルも万能ではないというわけだ。


「逃げる、家に帰るのじゃ!」

「ゲーマーの夕凪ちゃんなら察しがつくでしょ? 〈ゲート〉の開放は戦闘中には無理よ」


 リチアは落ち着いた所作でやんわりと絶望を提示してくれた。

 今まで何度か最終回の可能性を示唆してきたが、今度こそ本当に終わりかもしれない。バッドエンドでデッドエンドな終わり方かもしれない。打ち切りだとしてもあまりにも酷い。


「だったらとにかく全力で逃げるしかないだろ!」


 俺たちは一丸になって走り始めたが、果たしてその行動にどれほどの意味があるだろうか。

 敵の大クジラが何を目的にしているかは知らない。世界平和のためではないだろう。食料か、暇つぶしか、あるいは何となくか。もしかしたら秘境を守るためとかなのかもしれないし、単純に縄張りに入ったからかもしれない。

 ともあれ、その矛先は間違いなく俺たちに向けられている。

 そして、よくよく考えれば、最初の攻撃。あれは明らかに〈ホワイトテイル〉を狙っていた。あれだけの小動物を捕捉できる以上、逃げることに意味はあるのだろうか。

 どうせすぐに捕捉される。そして、すぐにまた地面から飛び出してくる。

 クジラに食われて死ぬか。落とし穴に墜ちて圧死するか。


 ――って待てよ。

 墜ちたほうがまだしも、生存率が高いんじゃね?


「ツ、ツバサ殿! 其方、何か嫌なことを思いついたような顔をしていないか?!」

「とんでもない、名案だぜ? ホントホント」

「い、嫌な予感しかしません?!」


 そんなことを口々に言うが、逃げ切れない・勝てないとあっては取りうる選択肢なんてロクなもんがないだろう。

 だったら一番マシなのを選ぶしかない。

 そんな折、丁度都合良く地面が一際大きく震えた。

 さすがにここは、回避しなければ食われる。

 風魔法を発動し全員を正面へと吹き飛ばす。と、同時に背後で爆発が起こったみたいな衝撃が巻き起こり、バランスを失った俺はグルグルと前方へ強制でんぐり返しを決めさせられる。

 なんて、遊んでる場合じゃねえぞ。


「急げ! 穴に飛び込むんだ!!」


 高く飛んでいるとはいえ、墜ちてくるまでの時間は決して長くはない。その間に地下へ逃げ込まなければ俺たちの命はない。

 地下がどうなってるかは知らないが、とにかく逃げるしかない。

 黒く暗い絶望の底へ、俺たちは一斉に飛び込んだ。


 そうして俺たちは、〈破滅〉の名を冠する魔物から逃げ果せた。

 ――少なくとも、一時的には……だが。

まだこの作品の執筆初めの頃、RPGらしさを出すために設定をでっち上げた魔物でしたが、まさか本当に書くことになるとは思いませんでした。

名前は〈イシスズ・スローン《ザ・カタストロフィ》〉。サンド・ホエールという魔物の中でも長く生き続けた個体が進化した姿である、と伝えられています。

また、『ザ』がつく個体名は世界に数体しかいない最強クラスの魔物に与えられる称号です。

ちなみにイシスは(荒野だけど)砂漠の神様から取りました。スローンは玉座みたいな意味だったと思います。たぶん神様のペットが野生化するとこんな感じになるんじゃないかと思われます。

カタストロフィは結末という意味で破滅ではないっぽいですが、深読みするとまぁ間違いではなさそうなので破滅ということにしてます。

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