第三羽【薔薇騎士】①
【キッカが〈魔物調教〉のスキルを習得しました!】
……というメッセージが表示されたのは、魔物を倒しながら王都への道を進んでいる途中のことだった。
戦っていて気づいたことはいくつかあるが、それはさておくとして、〈魔物調教〉……。気になる言葉だ。
特に調教って言葉が気に掛かる。……一体どんなことを調教させられるのだろう。
……しかし、魔物か。魔物だけなのか……。もっといろんな相手に調教ができたらなぁ……。まるで夢のようなスキルなんだが……。
たとえば、幼女とか。少女とか。童女とか。……阿良○木ハーレムか。素晴らしいな。俺も死にかけの吸血鬼に出遭わないものかな……。
「……はっ! これでハーレムが……。ウサギさんに囲まれて……、幸せですぅ……」
などと菊花が夢の世界に旅立っていた。
そうか。そういうハーレムもあるか。それはそれで夢のようだ。
以前訪れたウサギの巣に行けば似たような気分を味わえるだろうが、あそこは秘境だしな。あまり人の手が入るべき場所ではない。ジジイの教えではないが、自然は自然のままであるべきだろう。そうあることでそのクオリティが保たれるのだ。
秘境が秘境であるためには、ある程度の距離感が必要なのだ。そんなわけで、俺も菊花も涙を呑んであそこに近づくのはやめた。凄く気になるんだけどな。気に掛かるんだけどな。
「どうする? そのスキルでウサギ類が仲間にできるかどうか試してみるか?」
「そうですね……。凄く気になりますけど、そろそろ次の町も近いですし、試すのは今度にしましょうか。それより、日が暮れる前に宿を探さないと……」
菊花の言い分ももっともだったので、それに従うことにする。
……いや、後ろ髪引かれる思いもないわけではないんだが……。
暗くなればやはり危険だ。そのうえ、女の子を引き連れての夜間の行動は怖いものがある。
荒くれ者とかに出会したら俺だけでは対処しきれないかもしれないし……。やはり安全策に則るのが正しいだろう。……まぁ菊花さんの腕なら大抵の荒くれ者程度は瞬殺できそうなものだけどさ。
……ともかく、そんなわけで、俺たちは取り急ぎ、次の町へと向かうことにした。
それにしても、この世界で冒険を始めて、改めて驚いたのがアイテムボックスの存在だ。
これはメニュー画面から開くことができて、手に入れたアイテムを格納することができるというシステムらしい。
物理法則とかガン無視っぽいけど、まぁ便利だし良しってことにしとこう。
実際の使用感は、かなり便利だけど万能ではないかな……って感じだ。
例えるなら某ゾンビホラーゲームだろうか。
アイテムボックスという空間があって、そこにアイテムを格納していく。
アイテムには大きさ、形状があるから自由には入れられない。テトリスみたいにうまく詰め込んでいくのだ。
ボックスの大きさはスキルとかで変わるんだろうか。あるいはそれにも熟練度の要素があるんだろうか。
熟練度の項目はかなり膨大で、いちいち確かめる時間がなかったから詳細は分からないけど、そういうのもありそうだな。
魔物はほとんど菊花さんが倒してくれるけど、弱そうなヤツには俺も参戦している。
なんか動物虐待してるみたいで気が進まないけど、向こうから襲ってくるし、やむを得ないから戦うしかない。
まぁ、刃物もあるし、素人の剣でも手こずるということはない。菊花が選んでくれた剣がそれだけ優秀なんだろうか。
そんなこんなで、次の村に着くまで狩りをしていたら、良い感じにドロップアイテムが集まってきていた。
……で、これはどうするべきなんだろうな。
嵩張る物じゃないからアイテムボックスには結構入れられるんだけど、どう処理するべきなんだろうか。
売れればいいけど、こんな簡単に手に入ったものが高値になるとは考えにくいし、とはいえ、ほかにどうするべきか。
調合とかの素材にならないのかな。そしたら、ツバサのアトリエみたいなタイトルに変えるべきかな。あ、でも地名が良く分からないからサブタイトルが決まらないな……。う~む。
「あ、錬金術師のゲームなら、私も覚えてますよ。以前の世界では良く遊んでました」
なんて、菊花はここにきて始めて俺の話題に乗ってくれた。ようやく、ゲームの話ができるよ! ゲームばかりやってなさい。
俺としては錬金学園ものの2作目がトラウマだったなぁ。うろ覚えだけど、サブヒロインの一人が凄い馬鹿で、雪山で「叫ぶなよ」って言った直後に「やっほー!」とか叫んで雪崩起こしてパーティ全員遭難しかけて、そのうえ謝りもしなかったというお話が思い出される。
……謝れる大人って素敵だ。そんな大人になろう。うん。
「そうだなぁ……。ああいう、ちまちまアイテム集めて調合して装備や設備が充実していくのも楽しいよなぁ。なんだかんだで作業ゲーも結構いいもんだよなぁ」
「ストーリーそっちのけでずっと調合してましたよ!」
「……あるある」
なんなら、キャラたちはストーリー的に盛り上がってるのに、プレイヤー側は置いて行かれてるまである。あれ、どういう設定だったっけ……? みたいな。
こんな人いたっけとか、誰々っていうキャラに会いに行けとか言われても誰だか思い出せなかったり……。
人間、効率を求めるとそれ以外が蔑ろになるからな……。
知ってる体で固有名詞だけ書くのやめて欲しいよな。あれ、ホント困る。その辺は製作者さんに心底お願いしたいところだ。
「調合、できると良いですね!」
「ホントにな……。けど、某ヒロインみたいに爆発したり、焼肉ソーダみたいな珍妙なの作られても困るけど」
あと、食べ物のつもりが武器になったり、毒になったりとかな。
「……そこまでハチャメチャなものはないかもですけど……」
「うん、期待はしてない」
というか口に入れる根性ないよ、そんなの。
「あ、見えましたよ! ほら、あそこです!」
菊花が手を上げた先には、確かに建物が見える。リーティス村と比べると、随分と町っぽい。
自然と足取りは軽くなるのだった。
「へぇ……」
町並はやはりというべきか、なんというべきか、とにかく中世風だった。
とはいえ、中世と聞いて想像するような、あの豪華絢爛な感じではもちろんない。
ファンタジー作品にありがちな、古っぽい町並。
けど、リーティス村と比べれば大分発達している印象だ。市壁の中に家がキチンと隣り合っている。だが、間取りは比較的ゆったりしていて、ゆとりはありそうだな。
当たり前だけど、建物はほとんどが一階建てから二階建てまでで、高い建物は町の中央にそびえる風車くらいだ。
なんだか64版のカカ○コ村を思い出すな。ニワトリは見当たらないけど。
「さて、それじゃあ宿を探しましょうか」
菊花がカラコロと下駄を鳴らしながら街道を先導する。
俺はそれをキョロキョロと辺りを窺いながら、ついて行く。
木造建築だからそれほど目新しいというわけでもないが、使い古されそれを整備して使い続けているであろう調度品の数々は、少し新鮮だ。
薄汚れてはいるが、不思議と不潔とは感じない。手入れが行き届いているからだろうか。木の柵や土壁、樽や木箱なんかを眺めながら、俺は少し浮ついた気持ちでてくてくと歩いていた。
「あ、看板がありますね! どれどれ……」
まだ字は読めないが、菊花の隣でその文字を確認しようと俺が足を踏み出した瞬間、俺のすぐ脇にあった乱暴に開かれた。
「おのれ、勇者め! 謀ったなッ!!」
俺は扉に押し倒されたらしい。急な衝撃に状況が判断できない。
何が起きた。俺はどうなった……?
倒れたまま、尚も体重を掛け続けるそれが、蝶番から外れた扉そのものだと気づいたときには、俺の意識はすでに遠くなっていた。
「と、いうわけでいよいよ次回からあの人の登場ですね!」
すでにあとがき中に名前がでてきていたような気もするが、一応伏せておくとしようか。
今回は町についたところまでの話か……。
俺としては錬金について話を深めたいところなんだが。
「連勤……? 社畜だったころの話です?」
誰が社畜やねん。
大体、前の世界の記憶がないんだっての。
「……あ」
良いから良いから。
そこまで気にしてないから。
本編のノリをこっちにも持ってこられると気後れするな。
「こういうやりとりも久々な気がしますね」
そうだな。
とはいえ、せっかくのあとがきスペースなんだし、もうちょっと気楽にやっていこう。
メタい発言も許される貴重な空間なんだからさ。
「ツバサ様はしょっちゅうメタ発言をしているような気もしますが……」
それはほら、主人公補正だから。
異世界漂流の特典みたいなものだから。
そういえば前回の世界の話はどのへんまで訊いても良いんだ?
「どのへんまでと言われましても……」
俺が今まで聞いたのは、俺が知ってる現実世界と同じような世界だってことくらいかな。
「そうですね……。前回の世界ではオタク排斥主義というのが高まった世界でして……」
ただでさえ肩身が狭いってのに、そんな選民思想まで進んじまったってのか……。
「ええ、そうですね。どんな世界でも集団というのはそれだけでひとつの暴力になりえるということなんですね……」
菊花は遠い目をしている。
「そうして爪弾きにされたオタクの方たちと手を取り合って、世界に抗ったんです。それがまさか世界を巻き込む大戦争に発展するだなんて、あのときはまだ誰も考えてはいませんでした……」
それはいつかスピンオフで書いてくれるんだろうな。
え? どうなんだ、作者さんよ?(作註:未定です)