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異世界奇譚~翼白のツバサ~  作者: 水無亘里
第二翔 [Wistaria EtherⅡ -魔王封印篇-]
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第十八羽②

 食事を摂り終えた俺たちは、めいめいに過ごしていた。

 アリシアは食器と残り物の片付け。片付けくらい手伝おうかと思うんだが、台所を預かる者としての矜恃だかなんだかがあるらしく、キッチンへの立ち入りから禁じられた。そんな馬鹿な……。

 菊花は刃物の手入れをしている。包丁を研ぐ際に、ツバサ様がどうのとかぶつぶつ呟いているので、なんとなく怖いから俺は近づくことすらできない。

 ナズナも探検という名のお遊びに夢中で、今日もマイホーム近辺の散策に繰り出していた。

 ルリはといえば、食事を終えるとそそくさと席を辞していた。向かった先はペット小屋だろうか。人目を避けて、何をしているのやら。

 残っているのは夕凪とリチアだ。


「どうした、魔術師? これで手仕舞いか? 俺にはまだ使ってない策がいくつも残っているんだがなぁ」

「むむ、待っておれ! すぐに押し返して見せようぞ!」


 威勢だけは良いんだが、今のところ俺たちの遊戯板の勝敗は圧倒的だった。

 色々なボードゲームをプレイしたんだが、夕凪はゲームがことごとく弱かった。ゲーマー気質かと思ったんだがな。どうやらコイツは、ゲームのプレイ数やプレイ時間だけは多いわりに対人戦ではめっぽう弱いタイプのゲーマーらしい。

 難易度ベリーイージー勢というやつだな。

 RPGではレベル100まで上げてからラスボスへと挑む。そういうスタイルなのだろう。

 だからこそ、対人戦では勝てない。それはひょっとしたら生まれ持った資質なのかもしれない。


 だが、この世界には熟練度がある。

 経験値を溜めれば対人戦闘能力も向上が見込めるのではなかろうか。

 そう思って、繰り返し蹂躙しているが……。

 ……これ、ただの弱い者イジメじゃね?


「ぐす……、まだじゃ、本当の妾の力は、……この程度じゃ、……ひっく……っ」


 半べそ掻き始めてるんですけどォッ!!

 日和った俺は思わず手を緩めてしまい、その隙を果敢に攻め込んで見事夕凪は勝利を収めた。


「むふふ……、妾の力を思い知ったか!」


 さっきとは打って変わって満面の笑みを浮かべる夕凪。……そういや、コイツは以前ステータスを見せてもらったときに、演技力とかいうスキルの熟練度がランク20くらいまであったような……。

 そんな俺の勘ぐりをリチアはやんわりと否定する。


「だいじょうぶよ。夕凪ちゃんのスキルは別のところに使われてるから」


 ということらしい。

 どうやら普段の言動そのものが気取ったような演技だから、ランクが高いということのようだ。

 いっけね。危うく人間不信に陥るところだったよ。


「あなたのお願いでもない限りは、そういう演技力の悪用はしないと思うわ。それは保証してあげる」


 ふむ、一応覚えておこう。……とはいえ、演技力を必要とする場面があるのだろうか。

 今後、そんな機会もあるかもしれないが……。

 しかし、今後か……。

 これからについて、考えなきゃいけないことは意外に多い。

 たとえば、敵の目的についてだ。


 魔族はかつての封印から解放されてしまっている。

 魔王が復活しているのだから、恐らく全ての封印はまともに動作していないはずだ。

 そもそも、封印のシステム自体が良く分からんのだが……。

 アリシアが言うには、魔族たちを封印し、ほとんどの魔族が闇に葬られたのが数百年前。

 その封印に関しては、封印を強固に守るためか、多くの情報が規制されているという。

 それはつまり、何かしらの弾みで封印が解かれる可能性もあったということか。

 ということは、今のこの現状は、その何かしらの弾みで魔族の封印が解かれてしまったということだろうか。

 封印に携わったとされるのが〈三者〉。今いる〈勇者〉、〈王者〉、〈賢者〉はその末裔だ。

 だが、あの時ハサドは自らをこう呼称した。

 即ち、自分こそが魔族の三者、〈死者〉であると――。

 

「そういえば、三者とか三使ってそもそも何なんだろうな……?」


 俺が何ともなしに尋ねると、リチアは肩を竦めた。


「さぁ? あれからアリシアちゃんにも色々訊いてみたけど、大したことは分からなかったじゃない?」

「そうなんだよな……」


 魔族の三者に関しては全く情報がない。これは勇者も知らなかったようだし、しょうがないか。

 俺たちには色々と話せないことがあるらしいが、三者の下にはさらに三使というのがいるらしく、勇者・王者・賢者のそれぞれに三人ずつ付いていて、三者も含めて合計で12家の特別な家系があるらしい。

 とはいえ、三者が誰なのかは公然の事実だが、三使のほうは一切明かされておらず、アリシアといえども全ては把握していないそうだ。

 アリシアとか、勇者一行がつまりはその三使なんだろ? って訊いたところ、アリシアは困ったように慌てたため、まぁ恐らくは図星なんだろう。

 その辺は、賢者はのらりくらりとはぐらかすばかりで要領を得なかったが、何かは知ってるっぽいな。


「けどまぁ、予想は立てられる。というか十中八九、封印の要なんだろうな」

「……そこは間違いないでしょうね」


 秘匿する以上、知られてはまずい何かを隠し持っているのだろう。考えられるのは、封印の解除方法とか。そこまで決定的ではなくても、封印を構成する仕組みだけでも秘匿する価値は充分にある。

 問題なのは、偶発的に解けてしまったのか。あるいは、誰かの意図で解除されたのか。

 もし後者だとしたら、裏で糸を引く黒幕がいることになる。

 しかし、目的が不明だ。人間を滅ぼす魔族を復活させて何を望むというのか。

 この手の話に良くあるのが、破滅的願望の狂人だ。ゲームのラスボスにありがちなヤツ。

 他には、魔族を盲信する異教徒とかだな。


「……俺がここにいるのって、ひょっとしてそういう意味なんだろうか……?」

「……そうね。可能性はゼロじゃないかも」


 俺の憶測をリチアは否定しなかった。

 つまりは、黒幕が何処かにいて、そいつの思惑を阻止して世界を救え、と。

 なんだか、長丁場になりそうな話だな。何処ぞの禁書目録みたいな大長編になったりしないだろうな。


「……ふむ、難しい話は分からぬが、黒幕というのがいるとも限らぬのではないか? 長い年月が経てばさすがの封印といえど、風化することもあるじゃろ。じゃから単純に、魔王を倒せば使命を果たせるのかもしれんぞ?」


 封印の経年劣化か……。もちろん考えられるけど、少々都合が良すぎるような気もするしなぁ。

 何より、悪い可能性を摘み取るにはまだ早い。

 黒幕がいない可能性もあるし、いないことを祈るところだが、いると想定して動いておいた方が良さそうだ。

 俺の考えを伝えると、二人からそれぞれの返答が返ってきた。


「そうね、最悪を想定して動きましょ。そのほうがいざという時に動けるわ」

「……我が片翼がそういうのであれば、妾に異論はない。共に征こうぞ」


 そんなこんなで決意を新たにした俺たちは、再び終末街道の攻略を再開することにした。


――


 なんだかんだで俺たちを温かく送り出してくれた隠れ里から南へ進むと荒野へと辿り着く。

 これがいわゆる〈忘却の荒野〉で、この荒野をぐるりと取り囲む街道のうち、東から南までの部分を終末街道と呼ぶそうだ。

 かつての大戦時のダメージが特に酷く、賑やかな街並みが瓦礫の山へと変わり、それはまさしく終末を予感させるものだったそうだ。

 今となっては瓦礫らしきものはほとんどなく、草一つ生えない旱魃かんばつした地面が広がるばかりだ。

 魔物との遭遇エンカウントもほとんどなく、平和な道程だけが続いている。


「時折危険な魔物が出没する……、との話でしたが……」


 訝しむ菊花だが、やはり平和そのものな光景だ。


「うむ。私たちが今居るのが沿岸部の街道なのだが、ここらは特に魔物が出現しづらいと言われているのだ」

「沿岸部、ということは……、この近くには海というものが広がっているのでございますか?」

「うみ……、聞いたことある、です。でっかい水溜まり、です?」

「魚じゃ! 我が片翼よ! 妾は魚料理を所望するぞ!」


 ええい、煩い! ここに来たのはそういう目的じゃないんだよ!

 俺がばっさりとあしらってやると、菊花がそれに続く。


「そうですね……。熟練度稼ぎをする……ということでしたね!」


 どうにも平和すぎて観光気分が抜けないのが困りものだが、果たすべき目的を失ってはいけない。

 〈碧宝貝蔵〉(エメラダ・カリオネ)。それこそが、今回俺たちの目指す秘境ダンジョンだ。

時折まとめ回を入れないと、作者自身内容を忘れてしまいます。

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