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請問

作者: 伊坂倉葉

Loading……

 ねぇねぇ、そこのあなた。

 ちょっと困っているんだ……僕の話を聞いてくれないか。

 いや、ちょっとでいいんだ。すぐ終わるから。ね?


………………


 死にたがり。


 よく聞く……ことはないのかも知れないが、僕は正にそれなのかもしれない。

 といっても、常時自殺のことを考えている訳ではない。違うんだ。

 僕は、死に方を考えているのだ。

 一番ポピュラーなのは飛び降りとか……首吊り。

 だが、まだ服毒、入水、焼身、ガス、包丁、飛び込み、なんて言う風に死に方や死ぬ為の道具は一杯ある。

 例えば、結構身近にあるフォーク。これを使って死ぬのは簡単だろう。

 なに、そいつで喉を一突き……いや、芸がないな。それなら、金属製のペンでも可能だ。

 まあ、そんなことはどうでも良いんだ。話を戻そう。


 で、僕は死にたがりというよりは──


 ひたすらにドラマの見すぎで、あ、アレ使ったら死ねるな、これもいけるなと考えてしまうのである。これのことを言っているのだ。

 けれど、自殺願望はなく、寧ろ自殺はごめんだ。やっと社内で認められて来ているのに、こんなところで死んで堪りますか。

 あ、僕はとある会社のサラリーマン。会社内でも有名さ……『自殺屋××』ってね。酒の席でちょっと話題にしただけで……本当に失礼だ。


 しかし、すると……やはり死にたがりではないのだろう。


 因みに殺人願望もない……そんなことをしても全く意味は無いからだ。寧ろ失う物の方が多い。


 いけないな、どうも重い。


 この類いの話は重いね……まあ、仕方ない。人の生死というのは、結局のところ人間の本質だと思う。


 家族の為に、社会の為に働くとか言うけど、違うでしょ。生きたいから働いているんじゃないの?社会の為にって言うのは、ある意味本当かもしれないけど……生きやすい『環境』を作るために。

 あ、怒らないで。あくまでも僕の自論だから、聞き流してくれて大いに結構。

 大体、実際、そんなに簡単に割り切れないのは分かっているよ。僕はそういう意味ではお子様だ……ただ、未だに、『生きる意味』が分からないのだけは、いくらお子様でも本当にどうかしていると思う。


 あなたはどうなのか?


 自分の『生きている意味』を言え、と言われて言えるのか?……そう、言えるの。それはとても、立派なことだと思う。


 話が逸れすぎた。要は大切な事だから重くなる。それだけが言いたい。そしてそれが、本題に関係あるかというと全くない。


 さて、本題に入ろう。


 今までのが前置きだった?その通りだ。

 さて、では本題は何かと言うと、そんな僕はある日、有ることをした。


………………


 「死んでやる!」


 血気盛んな異常者だ。50代くらいか?ストレスに耐えかねられなくなったか、まあ理由はなんだっていいが、20階建てのビルの屋上から飛び降りようとしている。


 残念ながらそのビルは僕の働くビルで、更に運悪く、僕はその屋上で昼寝をしていた。

 もう数十分ほど前から、こいつは下に向かって『死んでやる!』『邪魔するな!』と叫んでいる。

 しかもご丁寧に屋上のドアに鍵もかけずに、しかも『誰か一人でも玄関から入ってくのが見えたら死ぬ』等とほざいている。確かに玄関は1つだけど、非常口は一杯あるのに。これでは『入ってこい』『上がってこい』と言っているようなものだ。

 頭に血が上っているのか、考え付かないのだろう。いや、本当は助けて欲しいのかも知れない……本当にどうでもいいが。

 ただひたすらに、何故誰も上がってこないか不思議だ。

 男にはそのまま死んでもらっても構わないが、後で、何で止めなかった、という話になるだろう。その時は誤魔化す、という手も有るけど、面倒だ。押し止めてみる。


 それに……こんな穴だらけの計画で死なれては美しくない。死ぬならもっと美しく死んで頂きたい。


 取り敢えず、声をかけてみる。

 「えーっと……」

 「近付くな!死んじゃうぞ!」

 「……(いらっ)」


 聞く耳を持たない。

 なんか凄く苛々するが、仕方ない。


 「あーわかった。近付かないから。ところで、それ、意味ないんじゃない?」

 「あ゛?」

 「おお怖い怖い。あ、いやいや、そこから落ちても、もう下にトランポリンみたいなのも置かれてない?それで救出されるよ」

 「あ……!ほんとだ……!」

 そりゃ、数十分あれば、落ちても最大限大丈夫なように用意されるだろう。

 「それにさ、例えば、もしも飛び降りた瞬間後悔したりしたら……着地までの数秒間有るよね、その間に後悔したりしたら……けどもう遅くて……ぐしゃっ!うわっ……怖い!」

 両手を上げて、大袈裟なポーズを取って見せる。

 「うっ……で、でも!トランポリンについてなら、あっちの木にぶち当たるように跳べば……」

 「ムリムリ。あなた、そんなに身体能力高いの?それに木に向かって跳んだ所で、後悔した場合悲惨なのは変わらないよ?」

 「ぐっ……」

 「だからさ、もっといい方法教えるから、こっちに来てよ。一瞬で死ねるから」

 「え……?お前は誰なんだ?何で俺の自殺を助けようとする?」

 「僕、××って言うけど……助けるのは、別にあなたに死なれても困らないから」

 本当は下手すると自殺幇助罪に引っ掛かるから、非常に困るんだけど。

 「え?あの自殺屋の……」

 その渾名は一体どこまで広まっている。

 だが、頷いておこう。同僚の処刑はその後だ。

 「うん」

 「そりゃあいい!是非是非教えてくれ!」

 先ずは病院でその単純な頭を調べて貰ってよ。凄く心配。

 そのまま、こちらに何の疑いも持たずに来る男。

 そして僕の前に来たとき、僕はするりと後ろに回り込み、頸動脈を絞めた。

 男は直ぐに意識を失い……。


…………………


 と、そこまでは良かった。ま、本来の目的は果たされた訳だ。

 で、問題はそれからだ。

 その後色々あったのだが……今、何故か僕の渾名は『説得屋』に落ち着いた。


 ……ダサくてしょうがないのだが、どうすれば良いだろうか。


 それとも……それこそが僕の『生きる意味』になり得るのだろうか。


 どなたか、教えてはくれないだろうか。


Fin.

七作目です。

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