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きちんとしたお話が始まるのは六・七になると思いますが、そろそろゆっくりと、本題に入り始めます。

 ジェーンの人間性は話しているうちに分かってきたが、とても大人っぽい人間だ。感情的になるところをほとんど見せない。もし自分とジェーン・マックスが暮らしている世界に、まだ社会というものがあったならば、ジェーンはきっと世渡り上手になっていただろう。ビジネスを始めても、普通に成功しそうなタマである。

 そういえば、こんなこともジェーンに質問された。

「コーイチとハツミはどういう関係なの?」

 この質問には答えるのに大変苦労した。長年一緒に生きているのに、である。いやむしろ逆なのかもしれない。やはり自分たちのことを一番分かっているようで分かっていないのは、他ならぬ自分たちなのかもしれない。

「ただの幼なじみよ」

 ハツミはいたって冷静に、そう答えた。

 

 

 ……正直少しがっかりした。もちろん変な関係ではない。そうはいっても、ただの幼なじみで済まされるのも、言葉に出来ないもどかしさがあった。

 聞かれたからには、と思って僕も質問した。

「じゃあジェーンとマックスはどういう関係なの?」

 するとジェーンは割とさっと答えを出した。

「恋人に行くか行かないか? いずれにしても私は彼のことを頼りにしているわ」

 すると、横でマックスも小さな声で「ミー、トゥー」と言った。日本語は理解出来るが、話すのは苦手なようだ。

 

 

 ハツミの家にジェーンとマックスが泊まることになり、場所を見つけられてよかったと喜んだ彼らは、やがて船から荷物を運んでこなくては、と言った。

「生活に必要そうな物はある程度積んできたのよ」

 僕とハツミもそれを手伝い、港とハツミの家を何回も往復した。そういえば、このヨコハマの港に船が停泊しているという風景を見るのは初めてかもしれない。

 

 

 運び終わって、それらを眺めてみると、実にすごい量の生活用品が並んでいた。ベッドはもちろん、食器や非常食、ノートパソコンや机などいろいろある。ジェーン曰く、ハツミと僕はいつでも使いたかったら使っていいらしく、その条件に自分たちも不満はなかった。

 そして夜になった。お礼として晩ご飯はジェーンが作ってくれた。ジェーンが作る料理もハツミといい勝負くらい美味い。ただ量はさすがアメリカと言ったところだろう。始めのうちは勢いが良かった僕とハツミも、気がついたらお腹いっぱいになって、倒れ込んでいた。その中でもジェーンとマックスはがつがつ食べ続けていた。それでよく太らないものだと思ったが、実際アメリカ人は慎重もあるわけで、やはり初めて接する外国人との間には文化の壁も少なからずあるのだな、と感じた。

 

 

 寝る時間になると、ジェーンとマックスはベッドの整備をした。

 その時にハツミに声をかけられた。

「今日もうちで寝ていってくれない? ジェーンとマックスもまだまだ慣れないだろうし、何かあった時のために。布団はもちろん別にするから」

「分かった」昨日と違い、すんなりと僕は承諾した。そういえば昨日は布団が別ではなかった、ということを思い出し、恥ずかしい気持ちになった。

 いよいよ消灯になった。ジェーンに、

「あれ、あなたは家に帰らないの?」と言われたが、

「二人ともまだ日本に慣れないだろうから、何かあったときのためにいてくれと、頼まれたようです」と変な自信を持って、答えることが出来た。それに対してジェーンは「なるほど」と言った後に、

「あなたたち、ただの幼なじみじゃないわね」と小さな声で、僕にだけ聞こえるように言った。やはりジェーンは頭がいいな、と僕は思った。

 

 

 なかなか寝つけなかった。

 自分の身に何かがあるわけでもないのに、ここ最近本当に寝つきが悪い。

 すると自分とハツミの寝床から少し離れたベッドから、ちょっとした声が聞こえた。ジェーンとマックスだろう。そして今気づいたが、彼らは同じベッドで寝ているのだ。船から持ってきたときのことを考えると、二人は本当に一つのダブルベッドしか持っていないのだろう。ということはここまでの船旅でも……考えるとキリがないので、やめた。

 ところが、

「……I love you……I love you……」

 と聞こえてくる。そしてキスのような、チュッチュッと言った音も聞こえてくる。アメリカの夜はこんなにも、ねっとりしているのか?気持ち悪いようなそれらの音が子守歌代わりになったのだろうか、自分は眠りに落ちた。

 

 

 夢の中では誰かが自分に呼びかけていた。

「許さんぞ……許さん……」と言っているように、少なくとも自分には聞こえた。執念だろうか、怒りだろうか。とにかく許さないのだ。何かに対して、とても激しく怒っているように見えた。その誰かを凝視しようとすればするほど、ぼんやりとしていく。

 耐えきれなくなって、「誰だ!」と叫ぶと、僕は目が覚めてしまった。

 

 

 起きると、自分の体は汗びっしょりだった。まだ夜、夜明け前頃であろうか。ジェーンとマックスはさすがにもう寝ていた。

「……寝たと思ったら、こんな夢見るとはな」

 あきれかえってしまい、その夜はもう寝ないことにしようと思った。

 するとその時、ハツミがこっちの布団に入ってきた。そして彼女は「誰なの……誰」と寝言を呟いた。やはり彼女も同じ夢を見ているのだろうか。僕は布団からも起き上がり、朝になるまで台所でぼーっとして過ごした。

8月7日で、なろうデビューから1年になりました。これからも佐乃海テルをよろしくお願いいたします。


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