黒の世界
広大。
美しくふわりと目映い世界を目の前にしてあることに気付く。
足元の影だ。
足元だけじゃない、辺りには僕に被さるような大きな影が広がっていた。
周囲の景色が白一色であるがために影も色薄く見えたんだ。
後ろを振り向くとそこには巨大な森があった。
鮮やかな深緑色が視界いっぱいに広がる。
僕はここから出てきたんだろうか?
ということはもう一度中に戻れるのかな?
再び、今度は「中に入りたい」と思った瞬間、僕は湖の横に立っていた。
湖があるだけの空間。戻ってきた。
これは所謂、空間移動というやつだ。
A地点からB地点へ空間を移動する力。
その間に障害物があったとしても全く関係ない。
空間を繋ぎ神出鬼没にどこへでも行ける能力だ。
そんな能力を持っていると気付いたら、普通はどんな反応をするんだろう。
喜ぶのかな。
僕はなんでか、そこまで喜べなかった。
だって、森の外はどこまでも白い砂漠だったんだから。
テンションは下がるよね。
水や木が傍にあるとやはり気温も少し下がるのだろう。
森の内部と外部ではやはり外部の方が暑い。
特にやることもない僕は森の外へ出たり入ったりしたりしてなんとなく昼を過ごした。
そして夜。
夕焼けは赤かった。
だけど、夜は"暗く"ない。
この世界の夜は、"黒い"。
日が落ちて月が上り数時間、森の外の雰囲気がなんとなく変わった。
優しい世界から、危険な世界へ。
僕は上空へ"飛んだ"。
真上へ空間移動し、森上空へと移動。
そこで思わず唖然とした。
見渡す限り、黒い世界が広がっている。
白く美しく輝いていた砂漠は光を飲み込む化け物と化していた。
光を反射しない地面は、大きな穴の上を空中歩行しているような錯覚や浮遊感を覚える。
寒気がして鳥肌が立つ。
それでも好奇心から、昼と変わった外の世界に足を踏み入れてみたかった。
地面すれすれの位置へ空間移動し、僕は砂に着地する。
「ア"ッ,,,,,,!?」
刹那、足に激痛が走り、無意識のうちに森の中の湖にダイブしていた。
黒い砂は光のエネルギーを余すことなく全て飲み込んでいる。
そのせいで砂自体のエネルギーが上昇、高温となっている。
代わりにエネルギーを放出しないため気温は低い。
昼間は逆に砂が冷たく気温が高くなっている。
青年は湖から上がって横になると、かろうじて火傷しなかった足の裏を擦った。
ここにいたらマズイ。
でも夜は動けないかな,,,,,,
ふと耳を澄ますと、外では何かが森の木々を叩いている音がする。
この世界の木は折れないみたいで助かった。
それでも緊張で心臓がバクバクと高鳴り続ける。
今日は眠れなそうだなぁ。
明日は砂漠を歩いてみようかな。
そう。
この何気ない思いから
僕の物語が始まったんだ。
―――この世界は―――