白の世界
僕は誰だろう。
意識が覚醒した時に真っ先に考えたことはそれだった。
森の中で、僕は座っていた。
隣には大きな湖が森の切れ目から差し込む光を反射して輝いている。
どこか神々しさを感じさせるような美しさを放っていた。
僕は誰だろう。
立ち上がってズボンに付いた落ち葉や枯れ枝を払い落とす。
視界に入った手は驚くほど白かった。
着ている服の袖を捲ると腕も全体的に真っ白だ。
全身こんな感じで白いのだろうか?
湖を覗き込むとそこには左右が反転している僕が写った。
湖に現れた顔は、女性か男性かわからないような中性。
色まではさすがにわからなかった。
僕は誰だろう。
静かな森だった。
虫の羽音はしない。
小鳥の囀りさえ聞こえない。
それがこの場所の神々しさを生み出す一つの要因となっているのだろう。
僕はこの場所が好きだ。
「あー」
声は男としては高い方だった。
自分の声であるはずなのに初めて聞く声。
声に反応するかのように森が風でざわめく。
「どうしよう。」
僕が誰でここがどこかわからないために何をすれば良いのかが全くわからない。
周囲を観察するものの、ここには湖しかなく、外は森で完全に埋め尽くされ外の様子をここから観察することは出来なさそうだ。
仕方なく木々に近付き、申し訳ないと思いながら細い枝を折って先へ進もうとする。
しかし、枝を握っていくら力を加えても枝が折れない。
もっと先端の、もはや爪楊枝程度の太さしかない箇所で試しても同じだ。
「,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,ンンンンン!!!」
ハァ,,,,,,ハァ,,,,,,
ダメだ、ビクともしない。
絶対におかしい。
非力だから折れないとかそういうレベルの話じゃない。
まるで石膏を握ってるようだった。
茶色のどっしりとした幹に鮮やかな緑一色の葉。
見た目は完全に一般的に木と呼ばれる姿をしているのに。
――――外に行きたいな。
心の中でそう思った。
僕がこの森の外にいる想像をした。
その瞬間、僕の目の前から今まで僕に立ち塞がっていた木々が消えた。
そして目の前には全てが白で構成された、広大で広大すぎる砂漠が姿を現した。
砂が全て白色の砂漠。
太陽光を乱反射し、地面が輝いているように見えた。
その輝きは眼にダメージを与える強い光ではなく、どこかじんわりと心と体を温めるような優しい輝きだった。