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「おいおいおいおいィ!
図に乗るなよ女神の生んだ歯糞どもがァ!!」
両端が崩落し孤島となったロンドン橋。
汚い言葉を吐き散らしながら夥しい量の出血をし動かなくなった左腕を引き摺りながら吼える男、向かいには全身で息をしながらも黄金の剣を地面に振りおろした状態で彼を一身に睨む少年。
両者の間には遮蔽物はなく、駆け出せば一瞬で決着がつく。
そんな距離であった。
「もうやめよう、僕の勝ちだ」
少年は黄金の剣を構え直し、言い放つ。
剣を持つ彼の腕は踊っており、いつ崩れてもおかしくないような構えであった。
それに相対する男も拳を構える。
もちろん、こちらもフラついておりいつ倒れてもおかしくなかった。
「寝言は死んで言え、『略奪の右手』はブッ壊れてないぞォ!」
『略奪の右腕』、彼が少年と死合う原因となった右腕に宿る能力。
触れたものの『才能』を『USBメモリ』に変換する力。
少年の仲間を全滅させ、少年をここまで追い詰めた彼の最高の相棒。
「言葉はいいよ…」
「そうだなァ!」
男は右手を腰だめに溜め構える。
少年は正面に黄金の剣を構える。
「「いくぞォ!」」
駆け出す両者。
けたたましい斬撃音。
交錯。
―――
「ギァ…、クソ…がぁア!」
右腕が切り落とされた男がゆっくりと地面に倒れ伏す。
左手で懸命に右腕を回収しようとするが、ボロボロの左手では言う事を聞かない。
「終わりだよ」
剣を振りかざした少年。
「次は…殺すからなぁ女神の僕がァ!!」
振り下ろされた閃光は男の体を両断した。
「終わったのですね」
「女神さま…」
朝日が差し、右腕だけとなった彼の体を一瞥し少年は語りかけてきた神秘的な雰囲気を纏う女性に向き直る。
「終わりました、彼は消滅。被害は凄いですけどね」
ちらりと周りを見渡し苦笑する少年、女神と呼ばれた女性もニコリと微笑む。
「修復は私がやっておきますよ、あなたは眠りなさい。
戦いは終わったのですから」
女神と少年の疲れが残りながらも希望を含んだ笑い声があたりを包む。
そのとき。
「グッ…む…」
「女神さま!?」
漆を塗られたような真っ黒な棒状のものが女神の右胸を貫いた。
右腕だ。
「グ…、彼の右腕…」
「女神さまァ!!」
女神の胸から手首を引き抜いた右腕は薄型のUSBメモリを握りしめていた。
カードを握り締めた右腕はグルグルと回転をし始め黒い空間を生み出す。
「うぉお! 待てェ!」
右手に握っていた剣を空間に向かって投げつける少年。
だが、一歩間に合わず。
空間は右腕を飲み込み虚空へ消えた。
剣は虚しい音を立てながらロンドン橋の石畳の上に落ちる。
「なんてこった…、あの悪しき右腕を滅ぼせなかったなんて…」
右腕の恐ろしさを知る少年は身を震わせながら両腕を地面に叩きつける。
傍らには既に息絶えた女神。
世界は多くの犠牲者を出しながらも一時の平和を迎えた。