目は口ほどに
「何か訊きたいの?」
肩を竦めて振り返った奏慧と視線が合って、知らず向けていた視線に気づく。
キッチンでは水の流れる音と食器の触れ合う音がしていて、多分心と叶慧には二人の会話は届かないのだろう。
朝食の前の話は、部屋に入ってきた心によって唐突に途切れた。
確かに気になってはいるが、それを下手に突いて反対に責められても困る。
だから結局口を開かずにいるのに、それを納得しない部分が確かにあった。
「正直、人の視線は苦手なんだけど」
「別に、俺は」
「口ほどに物を言う。隠したいなら、気を付けた方が良いよ」
「お前、さっきから突っかかってくるよな」
言葉の端々に見える冷ややかさに目を細めると、一瞬奏慧が驚いたように目を瞬く。
「そう?」
「無自覚なら相当だな」
「心や叶以外と話すの、久しぶりだからかな。気に障ったなら謝るけど?」
「そういうの、謝るって言わないだろ」
酷くつっけんどんになった言い方に、反射的に口を塞いだ。
「奏ちゃん、そろそろ支度しないと遅れちゃうよ?」
慌てて言い繕う前に、二人の間に声が割り込む。
「そうだね。ありがと、心」
立ち上がった奏慧と入れ替わりに、リビングに叶慧が姿を見せた。
オフホワイトのブレザーに、ギンガムチェックのスカート。
胸元はリボンの代わりに、モスグリーンのネクタイが形良く収まっている。
その制服を、知っていた。
「光星学園」
「あら、知ってるの?」
大学並みの施設を揃えた私立進学校ということで有名だ。
それでも公立と授業料はそう変わらないという。
金持ちの変人が、臨終間際に人様の役に立ちたいと遺産をつぎ込んで作ったと聞いたことがある。
「奏は違うわよ。あっちは、薄紅桜学院だから」
薄紅桜学院。幼稚舎から大学院まで有する、こちらもある種有名な私立学校だ。
「あれは?」
具体には指さなかったが、叶慧はそれだけで意味を悟ったようだった。
僅かに肩を竦めて、ずいと顔を寄せる。
「いちみるには、心が高校生にみえるの?」
「……中学生なのか?」
有り得なくないと思いながら尋ねると、次の瞬間叶慧がけらけらと笑いだした。
「?」
「叶ちゃん、お弁当忘れてるよ」
言葉を遮るように、心がリビングに顔を出す。
「あら、ありがと。心」
「叶、行くよ。遅刻する」
早々と制服に着替えて戻ってきた奏慧が叶慧を急かした。
「そうね。じゃ、いちみる」
「おい、さっきの」
「言っとくけど、私達の留守中に心に手でも出したらただじゃおかないから」
続きを言わせぬようににっこりと凄んだ叶慧に、奥で奏慧が小さく肩を竦める。
「まあ、そういうことだから」
「行ってくるわ」
「行ってきます」