測り難きは(2)
「ついたよ」
バスを降りて少し歩いたところで、心はくるりと振り向いた。
「着いたって、」
でかでかとした門構えに呆気にとられると、心は困ったように小さく笑う。
「えへへ。びっくりした?」
「びっくりっていうか、これ、お前の家か?」
「あ、違うよ。此処はね、お寺さんなの」
「寺?」
促されるままに門を潜れば、確かに大晦日にテレビで写される鐘楼や、本殿らしき建物もある。
「お盆の時、訊いたの覚えてる?」
「え?」
唐突な言葉に、記憶を遡る。
お盆の時、訊いた?
『これは、誰を招いてるんだ? あんたの、親か?』
「…墓参りか?」
「そんなところ、かな」
「手ぶらだぞ?」
墓参りと言えば、花でも持ってくるものではないのかと訝しんで尋ねると、心は少し困ったように先を指さす。
「お花、綺麗だから」
つられて顔を上げれば、きちんと手入れされた墓には、今朝供えたばかりに見える花が風に揺れていた。
「…?」
思わず眉を顰めたのは、石に彫られた文字が予想外の物だったからだ。
「樋代?」
「うん。舘野になる前の、お母さんの名字なんだ」
驚いて振り向くと、心が少し慌てたように小さく手を振る。
「あ、違うよ。お母さんもお父さんもちゃんと生きてるから、大丈夫。今は、海外にいるから、離れて暮らしてるの」
「そうか」
「うん。此処にいるのは別の人」
「祖父さんか?」
「御祖父ちゃんには、心、会ったことないんだ。だから、心が挨拶に来るのは、祥仁叔父さんだけなの」
「おじ?」
おじ、という名称が指すのは、一般的には親の兄弟の筈だ。
通常二十歳前後の娘を持つ母親の兄弟なら、まだ鬼籍に入るのは早いだろう。
「うん、そ」
「あら、心ちゃん?」
不意に言葉を遮った声に、心が瞬く。
心の視線を追えば、其処にいたのは三十代くらいの一人の女性。
さっぱりとしたショートカットの髪で、青い縁の眼鏡が印象的な人だった。
「こんにちは、飛崎先生」
「!?」
すっかりいつもの調子に戻った心の声よりも、その発言内容の方が気になった。
「先生?」
きょとんとした俺に、女の人は気づいたように視線を向ける。
「はじめまして。心ちゃんのお友達?」
「はい。大事な人だから、祥仁叔父さんに紹介しようと思って」
答えに躊躇った俺の代わりに、心が紡いだ言葉に驚けば、視線の合った心が女の人に解らないように微かに笑って見せた。
「おやおや」
途端にぱあと顔を輝かせた女の人は、俺たちの様子には気づかず思いついた様に手を叩く。
「今日は二人で? バスできたのなら、送っていくから、一緒に帰ろう」




