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いちみる  作者: 蛍灯 もゆる
四章(前篇)
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測り難きは(2)

「ついたよ」


バスを降りて少し歩いたところで、心はくるりと振り向いた。


「着いたって、」


でかでかとした門構えに呆気にとられると、心は困ったように小さく笑う。


「えへへ。びっくりした?」

「びっくりっていうか、これ、お前の家か?」

「あ、違うよ。此処はね、お寺さんなの」

「寺?」


促されるままに門を潜れば、確かに大晦日にテレビで写される鐘楼や、本殿らしき建物もある。


「お盆の時、訊いたの覚えてる?」

「え?」


唐突な言葉に、記憶を遡る。

お盆の時、訊いた?


『これは、誰を招いてるんだ? あんたの、親か?』

「…墓参りか?」

「そんなところ、かな」

「手ぶらだぞ?」


墓参りと言えば、花でも持ってくるものではないのかと訝しんで尋ねると、心は少し困ったように先を指さす。


「お花、綺麗だから」


つられて顔を上げれば、きちんと手入れされた墓には、今朝供えたばかりに見える花が風に揺れていた。


「…?」


思わず眉を顰めたのは、石に彫られた文字が予想外の物だったからだ。


「樋代?」

「うん。舘野になる前の、お母さんの名字なんだ」


驚いて振り向くと、心が少し慌てたように小さく手を振る。


「あ、違うよ。お母さんもお父さんもちゃんと生きてるから、大丈夫。今は、海外にいるから、離れて暮らしてるの」

「そうか」

「うん。此処にいるのは別の人」

「祖父さんか?」

「御祖父ちゃんには、心、会ったことないんだ。だから、心が挨拶に来るのは、祥仁叔父さんだけなの」

「おじ?」


おじ、という名称が指すのは、一般的には親の兄弟の筈だ。

通常二十歳前後の娘を持つ母親の兄弟なら、まだ鬼籍に入るのは早いだろう。


「うん、そ」

「あら、心ちゃん?」


不意に言葉を遮った声に、心が瞬く。

心の視線を追えば、其処にいたのは三十代くらいの一人の女性。

さっぱりとしたショートカットの髪で、青い縁の眼鏡が印象的な人だった。


「こんにちは、飛崎先生」

「!?」


すっかりいつもの調子に戻った心の声よりも、その発言内容の方が気になった。


「先生?」


きょとんとした俺に、女の人は気づいたように視線を向ける。


「はじめまして。心ちゃんのお友達?」

「はい。大事な人だから、祥仁叔父さんに紹介しようと思って」


答えに躊躇った俺の代わりに、心が紡いだ言葉に驚けば、視線の合った心が女の人に解らないように微かに笑って見せた。


「おやおや」


途端にぱあと顔を輝かせた女の人は、俺たちの様子には気づかず思いついた様に手を叩く。


「今日は二人で? バスできたのなら、送っていくから、一緒に帰ろう」



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