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いちみる  作者: 蛍灯 もゆる
一章
3/57

縁は異なもの


目を開けても何も見えない。

闇の中は酷く重くて、瞼を押し上げるだけで精いっぱいだ。

本当なら耳を塞ぎたいのに。

そう考えて眉を顰めた。

闇の中には何の音もない。

沈み込むように、飲み込まれるように。

無音の中にいるのに、どうして耳を塞ぎたいのだろう。

遮りたい筈の音など、何もない筈なのに。

闇は深い。

自分の輪郭すらあいまいになるくらいに。

誰もいない。

何もない。




「きて、起きて。朝だよ」


唐突に耳に飛び込んできたのは、陽だまりのような声だった。


「ん」

「おはよう!」


ぼんやりとしたままうっすらと目を開けて、眼前の顔に反射的に飛び起きる。


「っ」

「大丈夫?」


危うくソファから落ちかけて、寸でのところで踏みとどまった。

睡眠中は回転をサボっていた思考が漸く正常に動き出す。


「離れろ」


間近の顔から視線を逸らすと、少女-心-が僅かに首を傾げた。


「此処は心の家だよ。昨日、雨宿りに誘ったんだけど、覚えてる?」

「解ってる」


そっけない言葉にほっとしたように心が笑うと、出会った時と同じように、高い位置でツインテールにした髪がぴょこぴょこと揺れた。


「あら、起きたの?」


洗濯カゴを抱えた叶慧が奥から顔を出して目を細める。


「あ、叶ちゃん。今日、心が当番だよ?」

「昨日雨だったから、ちょっと多いのよ」

「大丈夫だもん。任せて」

「ちょっと、心」


洗濯カゴを受け取って、心が思い出したようにこちらを振り返った。


「雨、あがったよ。今日はいい天気なの」


言葉を返す前に、心はにっこりと笑って踵を返す。

ぱたぱたと駆けていく足音を見送るとなく見送ると、残った叶慧と目があった。


「おはよ、いちみる」

「なんだよ」

「おはよう、って言ってるでしょ?」


呆れたような視線を投げられて、唐突にその言葉に思い至る。

朝の挨拶を交わす習慣なんてものはなかった。

答える気になったのは、多分『いちみる』なんて呼び名の気まぐれと昨日の叶慧の言葉のせいだ。


『郷に入っては、っていうでしょ』

「は、よ」

「声が小さい。起きたならさっさと顔洗って手伝って」

「は?」

「働かざる者、なんとやら。此処に居候するなら、それくらいしてよね?」



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