第十三話 服は服屋に
毎日歩き回っている私ですが、日曜日はお休みです。
なぜなら、私が大丈夫でも相手先がお休みであり、フィーにも休暇を取らせなくてはなりません。なので、日曜日だけは屋敷にじっとしているのですが、暇を見つけては借りている書斎に行って資料を眺めています。
それを快く思わなかったのか心配されたのか、年配の執事長がメイド二人——おそらく、よく私の陰口を言っていた人たちです——を連れてきてこう訴えました。
「奥様、そろそろお召し物を新調しませんと。女性用の動きやすいものとなると、さすがにドレスの仕立てとは勝手が異なりますので、この二人にやらせることにしました」
「え? どういう……」
「大丈夫ですよ、奥様。こう見えて、私どもは仕立て屋でお針子をやっていたこともあります」
「それに、お金をかければいいものが見つかるってもんじゃないんです。ちょっとコツがいるんですよ、コツが」
何だか、メイド二人は自信ありげです。
私は年配の執事長へ視線を送ります。大丈夫か、という問いかけに、年配の執事長は頷きました。
「ご心配なく。今回はこの二人が、奥様のためにと言い出したのです。伯爵からも早めに用意するよう言い付けられておりますので、どうかお時間をいただけませんか?」
ラポール伯爵も承知していることであれば安全でしょうが——それはそれでよく分からない話です。でも、年配の執事長も心配いらないと言っているのですから、ここは信用しましょう。
おっかなびっくり、私はメイド二人に引きずられるように市内へ赴きました。
そうしてやってきたのが、毎週日曜開催の骨董市でした。
地元民が集まる、新品でも中古品でも、また市民なら誰でも出品できる骨董市には、掘り出し物がたくさんあるらしいのです。
実際、陶器の人形から金物、ガラスのボタンから絹のネクタイまでさまざまな品物が露店に並んでいます。商品はいらなくなったものもあれば処分に困ったものだったり、変わったところでは愛好家同士の交換場所もありました。
人混みで混雑する骨董市を、私はメイド二人に挟まれてどしどし歩いていきます。先頭のメイドは人の波をかき分けて頼もしく、背後のメイドは私に人がぶつからないよう注意してくれている、という陣形です。
「奥様、ちゃんとカバンの蓋は閉めておいてください。スリも時々いますからね」
「は、はい」
「そこを右だよ、マケドラニの古着屋がある。奥様、ここに頑丈な服が多くあるんですよ」
わいわいと騒ぎながらの外出はここに来て初めてで、新鮮な気持ちです。思えば、フィーとの外出では忙しすぎて事務的な会話以外ほとんどありませんでした。連れ回しておきながら、私は反省しきりです。
メイド二人に連れられ、一風変わった、黒やくすんだ色合いのコートやジャケットが吊るされて並ぶ露店にやってきました。
見たことのない、統一された規格の服がたくさんあります。色違いだったり、汚れていたり、襟章がついているもの、逆についていないものもありました。
しかし、どれも共通しているのは、同じワッペンを肩下につけていることです。四角い旗に、青と白の格子模様が入っています。いつだったか見たことのあるワッペンです。
あれは何だったかと思い悩んでいると、メイドたちに引っ張られて古着の正体が判明しました。
「奥様、どこを見ているんですか。こっちです、僻地外出用の頑丈なコートはこういうのでいいんですよ。軍用の払い下げのやつ!」
「けっこう綺麗な古着が残ってるから、仕立て直したってそんなに時間はかかりませんよ。ほら、ちょうどいい」
ああ、そうだ。やっと思い出しました。
ワッペンの模様は、亡き兄の棺に巻かれていた旗、あれと同じです。戦死者の棺には所属する軍の旗が巻きつけられ、そのまま埋葬されます。兄の葬儀にも、あの旗は確か、掲げられていました。
兵士のためにたくさん同じ規格の軍服が作られ、戦争に負けたあとその服たちはこうして古着として流れる。それが今、私の目の前にずらりと並んでいました。戦うための服ですから、頑丈さは折り紙付きです。
メイド二人はそのことを知って、歩き回る私にはちょうどいいと考えてくれたのでしょう。そのままでは私には大きすぎますから、二人は仕立て直しも考慮して、在庫の山を漁っていいものを探しています。
「靴は? コルク底の平たい靴なんてオーダーメイドかね」
「男性用のやつをちょっと手直ししろって言ってくるよ」
「それがいい。手袋と帽子、あと足を冷やさないようにタイツも」
メイド二人は出てきた店主と揉めつつ、どんどん買い物を手に取っていきます。ついには値切り交渉まで始まりました。私の出る幕ではないので外野で観戦する他ありませんが、大変な騒ぎです。
ふと、動きやすさを考えるなら、私の髪もどうにかしなくてはと思いつきました。
「髪は切ったほうがいいかしら」
「とんでもない! その髪が人目にどう映るか、もっとちゃんと手入れして差し上げますから」
「あ、ありがとう。頑丈な髪留めとかないかしら」
「バネのしっかりしたバレッタは?」
「お団子にすれば邪魔にはならないよ」
それがいい、今度はアクセサリだ、と二人は選んだ品物を店主に包ませてバッグにしまっています。呆れ顔の店主が代金を受け取って、もう来るなとばかりの目をしていましたが、私を見るなり愛想笑いを浮かべました。
買い物はまだまだ続きます。人でごった返す骨董市を突破していくメイド二人のバイタリティは、目を見張るものがありました。
屋敷に帰ったあともメイド二人はさっそく仕立て直しに取り掛かり、二日もすれば立派なコートと乗馬スカートが出来上がったのですから、すさまじい手際の良さと働きです。
私がラポール伯爵家に来た当初、彼女たちは色々陰口を言っていたように記憶していますが、気のせいだったのでしょうか。
(そういえば、他のメイドたちもお茶やお菓子を持ってきてくれたり、片付けを手伝ってくれたりするわ……何でだろう)
心当たりのない私は、首を傾げるばかりです。
でもまあ、悪く言われるより、親身にされるほうがいいに決まっています。あまり悩まないでおきましょう。




